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ボスモンスター


「ほぉ……こりゃおもろいなぁ」


「な、何も面白くないと思うんですけど」


「そう? 植生とか環境の変化とかって僕、結構好きなんやけどね」


 アラヒー高原は最奥まで進むと、その在り様を大きく変える。

 イナリ達がやってくる魔物を切り捨てつつ先へ進んでいくと、ある地点を境に明確に周囲の光景が変わり始めた。


 緑豊かに茂っていた野草達は根こそぎ食い散らかされ、掘り起こされて文字通りに根絶やしにされている。

 その光景を作り出したのは、最奥にいるとあるボスモンスターだ。


「ほう、あれが……餓狼オーチャードか」


 イナリ達の視線の先に現れたのは、一体のモンスターだった。

 四足歩行をする狼型のモンスターで、頭部が首元から二つに分かれている。


 二頭を持つ狼、餓狼オーチャード。討伐推奨レベルが二十五を超える、アラヒー高原最強のモンスターだ。


「BAU!」


「GAU!」


「ひ……ひいっ!?」


 思わず悲鳴を上げるマクリーアの前で、二頭を持つ餓狼がそれぞれの身体を囓り始めた。


 右の首が左の首の喉元を囓り取り、左の首はカウンター気味にその鼻先に牙を突き立てる。

 そしてお互いがお互いを貪り食いながら、それぞれが自分の身体を食うことで飢えを満たしていた。


 この世界における魔物に生殖機能はなく、彼らは大気中に存在している魔力を糧にするため食事を必要としない。

 だが餓狼オーチャードは常に飢えにその身を狂わせており、彼は周囲のものをどんなものであれ食い散らかす。


 そして全てのものを食べ尽くした後には残っている食料――つまり自分の半身を食らい始めるのだ。

 餓狼オーチャードの特徴は、高い再生能力。

 彼らは食べられた端から身体を回復させていき、無限に自分の身体を貪り続けている。


「うーん、タイプは獣型、ほんで再生能力持ち……オツムはあんまりようなさそうやから、炎で焼いて再生させんようにして削り倒せばいけるやろ」


「ちょ……なんであれを見て平然としてられるんですか?」


「え、なんでって……言うても普通のボスモンスターやん。こんな普通の魔境に出てくる通常ボス程度なら特殊なギミックもないし、わりと戦いやすい部類やで?」


「もうやだこの人……」


 この世界でボスモンスターと戦うことは初めてだが、その緊張を表に出すほどにイナリは実直な人間ではない。

 彼はいつものように薄笑いを浮かべながら、餓狼をじっくりと観察していた。


 魔物はレベルアップを繰り返すことで進化を行い、凶悪な個体に変貌していく。

 『コールオブマジックナイト』においてはそこのエリア最強の個体が、ボスモンスターとして君臨するシステムになっていた。

 そのため各エリアには、基本的に一体ないし二体のボスモンスターが存在する。


 見たところ餓狼オーチャードはそこまで凶悪な魔物ではない。

 基本線はただ能力値の高い、再生持ちの狼と考えて大丈夫だろう。


「あらマクリーア、兄ぃに何か不満でも?」


「め、滅相もございません!」


「ほらほら、漫才すな。さっさと狩って、レベル上げや」


 イナリの言葉に、二人は頷く。

 この数日間で十分に連携の確認をしたために、彼らの動きは非常に滑らかだった。


 イナリとマクリーアが大回りをしながらゆっくりと獲物の方へと向かっていく間に、ミヤビが魔法発動のための準備を整える。

 そして――イナリの合図に頷き、ミヤビが魔法を発動させる。


「これが開戦の狼煙です――ヴォルカニックボム!」


 ミヤビの前に突如として生じたのは、導火線のついた爆弾であった。

 火のついた線条はじりじりと短くなっていき……爆発を引き起こす。

 周囲に溶け込むように消えていくガワの中から飛び出したのは、ぐつぐつと煮えたぎるマグマ。


 ヴォルカニックボムは本来であれば周囲に無作為に飛び散り仲間を傷つける自爆魔法である。

 けれど彼女のスキルの補正を受ければ、マグマは不自然な軌道を描きながらもその全てが敵へと向かってゆく。


「行くで、マクリーア」


「――言われなくてもっ!」


 互いを貪り食う餓狼オーチャードの頭上から、赤熱するマグマが降り注ぐ。

 イナリとマクリーアはどちらからともなく全力で疾走し、態勢を整える前のオーチャード目掛けて切り込んでゆく――。

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