絶対必中
「どうですか、兄ぃ」
「うーん、やっぱりチートやなぁ」
「チート……?」
「ズルしてるみたいに強いっちゅうことやね」
イナリの目の前には大規模な破壊の跡と、炭化してまっ黒になった魔物の死骸が横たわっている。
それをした張本人であるミヤビは飄々とした顔をしているが、イナリは内心で冷や汗を掻いていた。
(ミヤビが持っているユニークスキル、たしかに作中でも強スキル扱いやったけど……現実に見ると、エッグい性能しとるなぁ……)
ミヤビの持つユニークスキル、絶対必中。
これは名前そのまま、攻撃を必中に変えるというそれだけのスキルである。
けれど能力系バトルでは最終的に単純な能力が強くなるのと同じように、ミヤビの持つこのスキルの効果は極めて強力であった。
(ゲーム的な感じでイメージすれば、ポケモ○のとくせいノーガードをこちらが一方的に押しつけられる感じやろか)
この世界には、本来であれば使用に堪えないような命中率の低い強力な魔法やスキルが多数存在している。
命中率が40%であるかわりに同じレベルで覚えるスキルの二倍の威力が出せるクリティカルスラッシュや、命中率は10%だが同じMP量で通常の五倍近いダメージをたたき出すアンチマテリアルバーストetcetc……。
本来ダメージ量の平均が通常の攻撃より劣るこれらのいわゆるロマン技を、彼女はユニークスキルを使うことで普通に当たる通常技として放つことができるようになる。
『コールオブマジックナイト』において彼女は他のキャラと変わらぬMP使用量で大火力を叩き出すことが可能な、火力特化のキャラだったのだ。
……もっとも、まだレベルが5にも満たないにもかかわらず既にアラヒー高原の魔物を魔法でワンパンできるとは、さすがのイナリも想定していなかったが。
「もう一度戦ってもらってもええ? 今度は大技禁止で」
「ええですよ。ただうちあんまり魔法覚えてないんで、時間かかりますよ?」
「ええねんええねん、ミヤビの(スキルの)こと、もっと知りたいんよ」
「あ、兄ぃ、そこまでうちのことを……任せてください!」
ふんすと鼻息荒く拳を握る彼女を見て首を傾げながら、イナリは二人を先導するために前に立った。
既に日は落ち始めており、高原全体が暗くなり始めている。
イナリは鍛錬も兼ねて、炎の魔剣に炎を纏わせて松明として利用しながら先へと進んでいく。
「ほならあそこのオーガをお願いしてもええかな?」
「まっかせてください!」
イナリは既に二度ほどミヤビがスキルを使うところを見ていたが、いくつか違和感を感じる部分があった。
その検証をするために、今度は何度か魔法を使って戦闘をしてもらうことにした。
「ファイアボール!」
ミヤビの放った炎球が、ぼうっと光るイナリの魔剣に気付いたオーガに飛んでいく。
その速度はイナリが放つファイアボールと比べてもかなり早い。
目測でも確実に1.5倍はスピードが出ている。
(うーん、やっぱり気のせいやないみたいやね)
呪いにおいては魔法の威力と速度は、レベルアップによって向上する知力に依存している。
そのためイナリより知力が低いミヤビが、彼より早い魔法を打つことは理論上不可能なのだ。
この世界は『コールオブマジックナイト』の世界だが、ゲームの世界のシステムをそっくりそのまま持ってきているわけではない。
つじつま合わせとでも言うべきか、いくつか仕様が変更されている部分がある。
ミヤビも持つユニークスキルもまた、その影響を大きく受けていた。
恐らくは相手に攻撃を必ず当てるため、本来より速度が大きく上がっているのだろう。
「ガガッ……グガガッ!?」
弓なりに放たれたわかりやすい軌道を描くファイアボール。
スピードは速くとも軌道が読みやすいからか、オーガは大きく後ろに下がってそれを避けようとした。
ファイアボールはそのまま地面に落ちる……ことはなく、軌道を適宜修正しながら見事オーガに命中した。
――ミヤビが放つ魔法はスピードが上がるだけではなく、デフォルトで追尾能力がつくようになる。
この追尾能力はかなり精度が高く、たとえば相手が障害物の前などにいた場合はそれを迂回して相手だけを狙う。
更に言うとどれだけ飛距離が伸びても魔法が減衰せず、結果として彼女が放つ魔法は本来レベル一桁台で覚えられないような凶悪な性能に変化する。
速度が上がることで弾速も上がるため、威力も本来のものよりかなり上がる。
その証拠に本来であれば火傷を負わせるのが精一杯のはずの下級の火魔法を食らっただけで、オーガは見事に絶命していた。
「アースランス!」
続いてミヤビが放ったのは同じく下級魔法である土の槍だ。
土魔法の弱点は技の出が遅いことであり、スキルによる補強があってもミヤビの土魔法もその例に漏れなかった。
オーガの足下から生えてきたそれは、本来であれば避けられるほどの速度で放たれている。
オーガは当然ながらそれを避けようとするが……回避に失敗し、そのまま土の槍がオーガの身体を貫いてみせた。
更にわかった彼女のユニークスキルのもう一つの力。
彼女が対象を取って魔法を発動させた場合、その対象は魔法が命中するまで移動速度にデバフがかかる。
よってこれらの能力を総括すると、ミヤビは魔法を放つだけで相手の速度を落とすことが可能であり、彼女の攻撃は全てが凶悪なスペックに変化し、更に相手を追尾する。
(いや……めちゃくちゃやん。父さんももうちょい詳しく教えといてほしかったわ……)
これだけ凶悪な性能を誇っているなら、同じ年かさの頃の自分と比べて魔物討伐の実績を上げているのも当然のこと。
むしろこれから一緒に行動していてミヤビに先を越されないか、ちょっと心配になってくるほどだ。
(お兄ちゃんとしてかっこ悪いところは見せられんな……ただミヤビの力があれば、僕ら三人でもボス相手に戦えそうやね)
褒めて欲しそうにこちらを見上げるミヤビの頭を撫でてやりながら、イナリは妹に追い抜かれないかっこいいお兄ちゃんであろうと改めて決意を固めるのであった。
そして数日の連携の確認の後、彼らは三人でアラヒー高原の奥へと進んでゆき……その最奥にいるボスの下へと向かうのであった――。




