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第9話

 ともかくこういった背景から、来年にでも武田家は我が松平(徳川)家と連携して、今川家を攻めようとしているのではないか、と私は推測しており、石川数正も明言しないが、私の推測を暗に肯定する状況に現状ではあった。


 だが、そうなってくると今川家も北条家と連携して、それに対抗しようとするのは当然で、更には松平家に味方している国衆に対して、今川家が調略等の手を伸ばしてきておかしくない。

(更に言えば、私には分からないが、父の徳川家康は遠江や駿河の国衆に同じこと、調略の手を積極的に伸ばしている筈で、武田家も似たことをしている筈だ)

 そして、三河で今川家に便宜を図ってもおかしくないのが、皮肉なことに私の母、築山殿なのだ。


 こういった状況からすれば、私としては、生き延びるために母が妙な考えを起こさないように、母に対して監視の目を光らせざるを得ない。

 そして、数正も私の内心の危惧を察してくれたようだ。

「分かりました。築山殿の看視者を分かるように増やすように動きましょう」


 数正とて、それ以上は言えない。

 分かるように増やす、それは松平(徳川)家が私の母、築山殿が警戒に値する人物だと事実上は公言することになる。

 だが、その一方で、分かるように増やすということは、却って築山殿への難癖を織田家等が付けにくくなるという事態になることでもあるのだ。

 綱渡り極まり無い話だが、私は数正をその方向で動かすことに成功した。


 そして、私から数正に頼むことは、もう一つあった。

「数正、戦が間近くなれば、火薬を確保せねばならぬと考えるが、少しでも安く確保すべきでは」

「全く仰られる通りです」

 私の言葉に数正は即答した。


 それこそ火薬を製造するのに必須品の一つである硝石は、完全に輸入に頼っていると言っても過言では無いのが、(史実でも)日本の現実なのだ。

 太平洋戦争時の石油以上に、この当時の日本は外国に生殺与奪の権を握られていたと言っても過言では無い気が私はしてならない。

 そして、これまでの私と数正らの情報収集は、本願寺に亡命した本多正信らの協力もあって、それなりどころではない情報収集に成功していた。


「南蛮人(当時のポルトガル人やスペイン人のこと)は、陸地が見えない海の上ででも、太陽や星を見ることで自分のいる場所を推測できるとのことだ。同じことが我々にもできるのでは」

「確かに南蛮人にできて、我々にできない筈がありませぬ」

「そして、それができるようになれば、堺等の商人に暴利をむさぼられることなく、直に南蛮から硝石を入手して、火薬を製造できるのでは」

「確かにその通りですな」

「そのために動くことを、数正から信長殿らに伝えてくれぬか」

「何故にと聞くまでもなく、それが正解でしょうな」

 私と数正のやり取りは、徐々に密談となった。


 信長が私のことを高く評価する一方で、本当に私が優秀ならば、我が子らの為にも何らかの難癖を付けて、私を殺すようにと父の家康に言うのでは、という噂が先日の結婚式の一件から、数正らの耳にも届いているのだ。

 それを聞いた松平(徳川)家の家臣の多くが、それに憤りを覚える事態が起きている。

 何故に優秀な若君がそれ故に殺されねばならぬのだ、そう考える家臣が多いのを私は喜ぶべきかもしれないが、この後を考えると危険極まりない。


 だから、私は母を岡崎城外に置いたままにする等、それなりの態度を執っている。

 更に言えば、私も五徳もいわゆる大人になり次第、私は五徳との関係を深め、五徳を出産育児に追われる身にすることで、五徳に余裕がない状態を作ろうと、それこそ数正にも話していないが考えているという現状がある。

 ともかく、私は綱渡り生活をしていたのだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 文章が読みやすく背景共々にわかりやすいです。 [一言] 今の説だと信長が殺すように命じたというより 信長の名を借りて家康がのっぴきならない状態までになった 浜松派と岡崎派の対立を築山殿と信…
[一言] 信長は身内への情が深い人だから五徳と心身共に愛し合う事って生き残る上ではかなり重要な事なんですよね 同時にそれが『籠絡されている訳ではない』と言う事を家臣団に示さなきゃいけないけど あ、…
[良い点]  自分を鍛える努力も情報収集も頑張るけど妙に注目されないよう反意を抱かれぬよう上にも下にも気配りを忘れない綱渡りめいた信康さんの奮戦は続く(*´ω`)まあ現状隣国の今川氏真さんよりは一国の…
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