第71話
そして、私は茶々を自分の側室に迎える件を結果的に後回しにして、まずは、徳川家の主な家臣団と今後の日本の行く末、国家戦略について話し合うことになった。
私の考えでは、茶々を側室に迎えるか否かは私個人の些事だが、日本の行く末を考えることは日本という国家の命運を決める大事である。
だから、そちらについての徳川家の家臣団の意見を固めた上で、茶々を自分の側室に迎えるか否かを考えることにしたのだ。
さて、日本の行く末についての、私と徳川家の家臣団の話し合いだが。
「何ですと、キリスト教の信徒が多数いる欧州の国々が、日本を攻めようとしているですと」
「その軍勢は最大100万に達するですと」
「元寇以来、いや、それ以上の我が国の国難では」
私が、信忠殿から知らされた情報を徳川家の家臣団に伝えたところ、多くの家臣が驚愕して、周囲と話し合いだしたが、すぐに皆が冷静になった。
彼らにしても、皆が史実同様の知恵者である。
だから、私と同様に欧州の国々の侵攻作戦等、実際にはハッタリにも程があるという考えに、すぐに達することになったのだ。
この場にいる徳川軍きっての名将といえる酒井忠次が、鼻を鳴らすように口を開いた。
「その情報は、とても信じられませぬ。何しろ、彼らにしても風頼みの帆船か、櫓櫂を使った船しか知らぬ筈。そして、何百里も離れたところに大海原を越えていこうとすれば、帆船しか使えませぬ。帆船で船団を組んで100万の大軍を、何か月も掛けて輸送する等、むしろ、こちらにしてみれば願ってもないこと。容赦なく返り討ちにしてくれますぞ。尚、その兵は1万もあれば足りるでしょうな」
「某も同感です。何か月も船で揺られていては、兵はまともに戦えませぬ。そして、海の上では水を始めとする様々なことに難渋するのは必定。恐らく、兵の半分以上は死に、残りも息も絶え絶えでしょう。そうした者達が、遥々と来たところを返り討ちにすれば十分でしょう」
榊原康政が次に口を開いた。
「だが、それは欧州から直に日本まで向かおうとした場合だ。途中に拠点を築いてから、日本を攻めようとした場合はどう考える。実際にこちらが結果として先んじてしまったが、マニラに兵や船を展開させて、そこで、充分に準備を整えた上で、日本を攻めようとしたら、どうなる」
私がそう言うと、その場にいた徳川家の諸将は、改めてその危険に気づいた。
「確かにその危険はあります」
本多忠勝が、その危険性を肯定する発言をし、他の諸将も相次いで同意の声を挙げる。
「実際にアメリカ大陸の中部から南部はスペインとポルトガルが領土化しているとのこと。このように領土を広げて、更にそこを新たな拠点として、日本まで攻めて来られる可能性は、それなりにある。私はそれに備える必要があると考える」
「具体的には」
私の言葉に、井伊直政が暗に私の考えを伺いたい、と水を向けて来た。
「私は、2か所に日本の民が住む場所を作りたいと考える。喜望峰周辺と北アメリカのこの辺りだ」
私は、現在の地名で言えば、南アフリカ共和国とカリフォルニアの辺りを挙げた。
「何故にその辺りを」
酒井忠次が私に尋ねた。
「それぞれに理由がある。まず、喜望峰を回らないと、欧州の船はインド洋に侵入できない。そして、安全が確保されたインド洋交易を活発に行って利益を上げることで、日本は戦費を稼いで、戦争を継続するのだ。更に喜望峰周辺は、四季こそ日本と逆だが、日本とそう変わらぬ寒暖の地の一方で、人口も希薄と聞く。ここに大量の日本人が住み着けば、欧州の国々がこの地を攻めるのは困難になり、インド洋の安全度は益々高まる」
「確かにその通り」
私の言葉は周囲を得心させた。
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