第69話
「それにしても、オスマン帝国やそれ以外の国々と同盟を締結するとして、それで充分だろうか」
義兄の織田信忠殿は、更に私に諮問してきた。
「確かにそれだけでは不充分やもしれませぬ」
私も義兄の不安を、そう簡単には切り捨てられなかった。
実際問題として、スペインは中南米を抑えていると言っても過言では無い。
更にスペインとポルトガルは同君連合を組んでいるのだ。
ポルトガルを救援するために、インド洋方面でスペインが行動する可能性は決して否定できない。
そして、このように世界規模で戦わざるを得ないということになれば、本当に国家戦略をまずは立案して、更に軍事戦略に落とし込み、作戦、戦術等まで考えていかないと、日本は破滅の路を結果的に歩む可能性があるのは否定できない話だ。
何しろキリスト教諸国、細かく言えばカトリックの国々が、日本と戦争をするのだ。
それも宗教的対立からの戦争なので、本当に性質が悪い。
それこそ日本人が絶滅するか、カトリックの信徒が絶滅するか、まで戦争が終わらないかも。
そこまで行かなくとも、ローマ教皇庁が廃止されるか、日本の天皇制が廃止されるか、まで終わらない戦争を続ける覚悟を持って行われる戦争ということになるだろう。
100年どころから、1000年は続く戦争になっても、本当におかしくない気がする。
本当に民族、宗教の対立を原因とする戦争等、前世の私は心から忌避していたのに。
何故にこの世界に転生してきたら、宗教の対立からの終わる見込みが立たない戦争を私はやることになったのだろうか。
だが、日本の勝算が皆無という訳ではない。
大規模な戦闘を続けていては、日本の破綻は必至になるだろうが。
小規模な非正規戦争が続く程度ならば、日本が戦争を続けることは不可能ではないだろう。
そのためには、極めて困難だが、戦争を続けながら、日本の国力を徐々に増大させる必要もあると私は考えるべきだろう。
そうなると、自衛隊の考えでは禁断と言われても仕方がない方策を執るしかない。
それこそ、積極的に海外に植民地を拡大して土地を開拓し、日本人を増やしていくしかないだろう。
だが、そこまでのことをやるとなると、朝廷や幕府、更に多くの有力者、大名達の了解、合意が必要不可欠な事にもなるだろう。
皮肉なことに何とか再生されて、日本の統一政権となった足利幕府は強力な中央集権国家とは呼び難い存在だが、世界に打って出るとなると、そんな状態では国力の有効活用ができない。
この時代にはまだまだ存在しない考えだが、戦争とは国の総力を挙げて遂行されるモノなのだ。
そして、国の総力を挙げるとなると、国内の有力者がほぼ合意し、協力する必要がある。
16世紀に近現代のような総力戦を遂行しようとする等、狂気の沙汰だと自分も考えるが、そもそも20世紀にならないと私には起きた覚えが無い、異教徒をお互いに絶滅させようとするような宗教戦争が起きているというそれ以上の狂気が起きているのが、私が転生してきた世界なのだ。
それからすれば、総力戦を遂行しようとするのも止むを得ないと、私は割り切らざるを得ないのか。
私はそんな絶望的な考えさえ、考えが先走り過ぎたこともあって、脳裏に過ぎってしまった。
だが、ここまで考えるとなると、私一人で考えるには荷が重過ぎる話になる。
他の人も集めて、その考えを聞き、それで進めていくべきだろう。
そのように考えた私は、義兄に向かって改めて述べた。
「私一人で考えるのは限度がありますし、余りにも大きなことです。織田家の家中の方々や、幕府の奉行衆の方々の衆知を集めるべきだ、と私は考えます」
「確かに。その通りだろうな」
信忠殿は私の意見に同意した。
自分一人で考えるには、余りにも重過ぎる話になったことから、他の人の援けも得ようとすることに。
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