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第64話

 さて、そのように手分けをして、マニラ経略に私達は向かったが、正直に言って、少し巧緻に過ぎる作戦を立てていたようだ。

 徳川家の船が30隻、上杉家の船が10隻で船団を構成し、リンガエン湾近くで分離して、徳川軍は上陸作戦を展開し、上杉軍はマニラ湾封鎖に掛かった。

(徳川家の船は最大で400人乗りだったが、上杉家の船は、ほぼ200人乗りばかりであり、やや小ぶりと言う現状から、隻数に差異が生じた)


 とはいえ、数は数である。

 上杉家の船10隻がマニラ湾に侵入を図ると、コレヒドール島を始めとするマニラ湾防衛の為に設置されている幾つかのスペイン軍の砲台は慌てて砲撃を開始し、却って砲台の位置を暴露してしまった。

 スペイン軍にしてみれば、精々2,3隻がマニラ湾に侵入してくる程度と考え、10隻が侵攻する事態を想定していなかったのだ。


 ともかくこうしたことは新発田重家率いる上杉家の船隊(艦隊とは少し呼びづらい)にしてみれば、極めて有難いことだった。

 砲台を避けて船隊を機動させ、ガレアス船によるマニラ湾からの脱出を困難にしてしまった。

 幾らスペイン軍のガレアス船が、個々の船の戦力では上杉軍を上回っていても、10対1の数の差があっては、脱出不能とスペイン軍は考えざるを得なかった。


 更に上杉軍の船隊にスペイン軍が注意を向けていたために、徳川軍の上陸と言う情報をスペイン軍は軽視してしまった。

 先に上杉軍の船隊がスペイン軍の目に入ったため、後続の輸送船団がいるのではないか、という先入観をスペイン軍は覚えたのだ。

 この誤解が、スペイン軍の早期崩壊を招いた。


 何だかんだ言っても、海という防壁をスペイン軍は信じていた。

 日本から遥々と海を越えて、1万を超える軍勢を侵攻させられることが、日本に出来る訳が無い。

 実際に欧州最強、つまり世界最強の自国でさえ、日本とマニラの距離を考えれば、1万を超える軍勢を送り込むのは不可能の遠距離といえる。

 それが異教徒の蛮族に出来る筈が無い。

 そうスペイン軍の司令官やその周囲は、本音では考えていたらしい。


 ところが、実際には約1万の軍勢がリンガエン湾に上陸してマニラを目指し、マニラ湾は別の船隊が封鎖してしまった。

 そういった立て続けの悪い情報から、船隊の後方には別の輸送船団もいるのではないか、という疑惑まで浮かび出した。


 どうやって日本軍と戦うか。

 後続の輸送船団が運んでくる日本軍とリンガエン湾の部隊が合流してからでは、勝算が薄れるだけになる以上、各個撃破を図るしかない。

 そのような思考にスペイン軍は陥ったらしい。


 更に日本軍をスペイン軍は侮っていた。

 これまで10倍の異教徒の軍勢といえど、自分達は打ち破って来た。

 日本軍も彼らと同じだろう、とスペイン軍は考えて、リンガエン湾から来る日本軍を蹴散らして、その勢いでマニラ湾に上陸して来る日本軍を打ち破ろう、という作戦を立てたのだ。


 そんな事情を全く知らない私からしてみれば、正気を疑うスペイン軍の行動だった。

 自分達の1割程のスペイン軍がマニラから出撃して、自分達に野戦を挑んできたのだ。

 しかも正々堂々と昼間にである。

「我々をバカにするにも程がある」

 先陣を務める井伊直政は若いこともあって興奮して、スペイン軍に突撃しようと逸り立つ程だった。


 とはいえ、こちらとしてみれば有難い限りだ。

 私は10倍近い数の差を活かして両翼に部隊を広げて、スペイン軍の包囲殲滅を図った。

 スペイン軍はほぼ半分を銃兵、残りを槍兵にしていたが、騎兵がいなかった以上、騎兵がいるこちらが包囲殲滅を図るのには圧倒的優位にあると言えた。

 そして、この決戦の結果、スペイン軍は約7割が戦死する大敗を喫した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 史実でも日本の傭兵が東南アジアを席巻したそうですが 成る程、距離の問題は大きかったのでしょうね。 同条件ならどうだったのか興味深いです。
[良い点]  史実太閤秀吉の“唐入り”における明軍のような有り様を呈したスペイン軍(・Д・)初戦の明軍も「北方で策動していた夷狄を蹴散らして来た精鋭の我らならば、たかが倭軍など鎧袖一触よ」と侮りまくっ…
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