第57話
嘘と言われそうですが、戦国時代に全ての八幡宮の総本宮の宇佐八幡宮が焼かれたのは事実です。
この世界では、そういったことが悪い方向に転がっていきます。
そんなことを考えつつ、自分は義兄の依頼を受けて、対スペイン、ポルトガル戦争の大戦略を一人でまずは立てて、小浜景隆らの徳川家の水軍衆(これは、この当時の日本国外情勢に彼らが最も詳しい以上は当然のことだった)に相談を持ち掛け、更に具体化させる作業を行うことになった。
その一方で、織田信忠を始めとする面々は、対スペイン、ポルトガルとの戦争への協力を各地の勢力、大名たちに朝廷や幕府を介して積極的に求めることになった。
最も多くの大名達が、この対スペイン、ポルトガル戦争に協力的だった。
その背景だが、九州の日本人キリスト教徒が、宇佐八幡宮を焼き払ったという情報が日本中に流れたことが大きかった。
実際には大内氏と大友氏の戦争に宇佐八幡宮が巻き込まれた結果、大友氏の兵火によって宇佐八幡宮が焼かれる事態になったらしいのだが、この責任を追及された大友氏は、宣教師に扇動された日本人キリスト教徒の暴走によるものと責任を転嫁し、更に一部は嘘まで混ぜて朝廷や幕府に報告したのだ。
このことは朝廷や幕府を激怒させた。
何しろ宇佐八幡宮は(私の記憶によれば宇佐八幡宮神託事件(称徳天皇が弓削道鏡に譲位しようとした事件)を引き起こす程の)極めて位の高い神社である。
この世界に来てから私は知った事だが、全ての八幡神社の総本宮であり、石清水八幡宮でさえも宇佐八幡宮の下にあるのだ。
古代においては、伊勢神宮と並び称される神社だったらしい。
そんな神社を焼き討ちしたことが、キリスト教の神の御心に沿うモノだ、全ての神社仏閣は異教、悪魔の教えに従う存在である以上、善きキリスト教徒は速やかに全ての神社仏閣を焼くのが、神の教えに従う絶対正義である、とキリスト教の宣教師が説いているという噂が日本中に流れては。
他にも天照大御神の末裔であって神の血を承けていると言われている今上陛下は悪魔なのだ、焼き殺してしまえ、それが善きキリスト教徒ならば絶対正義の行動であり、速やかに行動せよ、とキリスト教の宣教師やその信徒は言っている、との噂までが流れて多くの日本人が激怒することになった。
更に多くの武士達も、八幡宮全てを焼き払うのがキリスト教徒にとって絶対正義とは何事だ、とキリスト教の宣教師や日本人のキリスト教徒に怒ることになった。
特に足利幕府にしてみれば、現将軍の足利義助は清和源氏、その中でも河内源氏にして八幡太郎義家の末裔であることから、征夷大将軍になる資格があるとされているのである。
それなのに宇佐八幡宮の焼き討ちが絶対正義である、と説いているキリスト教の宣教師やその信徒を看過しては、それでも八幡太郎義家の末裔か、と多くの日本人を怒らせる事態を引き起こすことであり、そういったことも相まって、足利幕府はキリスト教の宣教師やその信徒に対して激怒し、又、多くの武士達が禁教令の発布等の朝廷や幕府の行動を支持することになったのだ。
ともかく、このような世論、空気が日本中に漂うようになっては、キリスト教の宣教師やその信徒達に対する迫害が、日本中で起きるのは当然のことと言って良かった。
私自身としては、21世紀の記憶があるので、本当にカトリック教会の宣教師がそのようなことまで言うのか、という疑問を抱かなくも無かったが。
実際に小浜景隆を始めとする日本国外に赴いている水軍衆の面々から、日本以外の(東南アジア等の諸)国では、キリスト教の宣教師やその信徒達が、その地におけるキリスト教以外の宗教施設を積極的に破壊しているという話を直に聞かされては。
流石にキリスト教の宣教師やその信徒達を、どうにも私は庇えなかった。
そのような迫害を受けて当然とまで考えた。
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