第54話
そして、日本の統一が急がれた理由は他にもあった。
史実通り1580年にスペインとポルトガルがフェリペ2世の下で同君連合を組んだのだ。
このことを1年程経ってから知った私というか、私の周囲はカルタス(通行証)を持たない日本の船はマニラを拠点とするスペインによって、東シナ海や南シナ海等から締め出されるのではないか、という危惧を本格的に抱いたのだ。
史実ではそんなことは無かった(と私は覚えている)が、この世界の日本は史実と異なり、積極的に東シナ海から南シナ海へ、更にはインド洋へと交易路を伸ばしている。
そうした中でマニラのスペイン艦隊が強化されるようなことが起きたら。
日本の南洋交易路が寸断されるのでは。
そう私の周囲の多くが考えたのだ。
実際、それが杞憂とは言えないのが現実だった。
史実ではどうだったか、私には分からないが。
(尚、この際に説明しておくと、史実でも同様に建造、運航が為されています)
マニラ・ガレオン航路が存在していたのだ。
フィリピンのマニラとメキシコのアカプルコを結ぶマニラ・ガレオン航路。
マニラで建造されるガレオン船は、最大排水量が2000トンに達し、客になる商人を含めれば1000人が1隻に乗り組むことが可能と謳われていた。
マニラから中国の港に赴いて、絹製品や陶磁器等を積み込んでから太平洋を横断してアカプルコへ。
そこからメキシコを横断して大西洋沿岸の港ベラクルスに積荷は運ばれて欧州に向かう。
その一方で、アカプルコに到着したガレオン船は中南米で産出される銀を主に積み込んで、マニラへと向かうことになるのだ。
ガレオン船の速力等の問題から、マニラを出発してからマニラに戻るまでほぼ1年が掛かる大航海となるが、それによってスペインは莫大な利益を上げていた。
私を中心とする面々は、スペイン(及びポルトガル)が日本の力に気づく前にマニラを占領して、ガレオン船の技術を日本は得て軍事力を強化すべきだ、と訴えた。
今ならば、スペイン(及びポルトガル)は日本を分裂した小国と見ていて油断しているようだ。
(実際に戦国時代の日本は、外部から見ればその通りとしか言いようが無かった)
スペインが本格的にマニラを強化して、日本を征服しないまでも、大規模な艦隊をマニラに展開するようになっては、日本は南洋交易による利益から締め出されることになり、スペインに屈服することにまでなりかねない、と朝廷や幕府に訴えたのだ。
スペインの富は、それこそ外国人奴隷を兵とすることで速やかに軍事力を強化することが出来る。
実際に日本でも金を払うことで足軽を集めているではないか。
今ならば、マニラには現地人傭兵を併せても数百人程しかスペインの戦力はいないようだが。
ガレオン船を大量に建造して、外国人奴隷を兵にして万を超える軍勢を調えて、スペインが日本に兵を向けてこない、と誰が言えるだろうか。
実際にそれが可能な技術も富も、スペインは持っているのではないか。
そう私を始めとする面々が訴えると、朝廷や幕府の多くの面々が顔色を変えた。
更には武田家や上杉家等も、このスペインの脅威を朝廷や幕府に訴えた。
ある意味、仲が悪い面々を高山国(台湾)開発に主に追い出したとはいえ、同じ家中の面々が高山国(台湾)に赴いているのだ。
彼らがスペインの脅威にさらされかねないのならば、それを救うのは当然の論理と言えた。
私自身、スペイン(及びポルトガル)の脅威を煽り過ぎだ、と考えなくも無かったが。
実際に南洋交易や高山国(台湾)開発で利益を上げている面々からしてみれば、スペインの脅威は軽視できない。
かくして、朝廷や幕府は対スペイン(及びポルトガル)戦を決意した。
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