第48話
そんなやり取りを真田昌幸では無かった武藤喜兵衛とした、更に数日後に武田家家中の話し合いはケリがついたようで、私は武田勝頼殿に呼ばれることになった。
「長らくお待たせして、本当に申し訳ない。我が武田家家中が色々と揉めましてな」
「いえ、日本国外へ赴くとなると色々と武田家家中が揉めるのも当然でしょう」
勝頼と私は、改めてそんな会話を交わすことになった。
「それでですが、我が武田家家中から、この際に上杉家も巻き込むべきだ、との声が挙がりましてな。上杉家と共に高山国(台湾)を目指したい、と考えるのですが、如何お考えになられますか」
「それは余りに急な御言葉ですな」
勝頼の次なる言葉に私は驚愕するしか無かったが、それと共に頭を懸命に回転させることになった。
私なりに懸命に頭を回転させた末に何とか考え付いたのが、これは武藤喜兵衛が実は考え付いた策ではないか、ということだった。
というか、それ以外に考えようがない。
それこそ北条征伐以前、徳川家と武田家は本多正信と武藤喜兵衛を双方の中心として連携させて、対上杉、北条戦を想定して、様々な謀略を表裏併せて協力して展開して来た、と私は聞いている。
そうした謀略の結果として、上杉家は謙信の後継者として景勝が決まったと聞いている。
だが、これは謙信が生きている間は何とか保つかもしれない仮初めの上杉家の後継者決定だった。
何しろ(既述だが)上杉家では無かった、謙信の本来の出身である長尾家は、それこそ武田家に全く勝るとも劣らない同族争いを繰り広げて来た一族だ。
謙信が正式に後継者になる際でも、謙信の母の実家の古志長尾家と謙信の異母姉が嫁いだ上田長尾家が周囲を巻き込んで血で血を洗う戦乱を繰り広げた末に、謙信が後継者になったらしいのだ。
そういったことを考える程、謙信が亡くなれば、色々な難癖等が付けられて、景勝と景虎の義兄弟間の戦争が火を噴く可能性は極めて高いとしか、自分にも言いようが無い。
それを避けるとなると、武藤喜兵衛は景虎(及びその支持者)を私の提言に併せて越後の外に赴かせることで、主である勝頼の義弟になる景勝が越後等の国守に穏便になるようにすべきだ、と考えたのだのではないだろうか。
更に考えれば、私の主観的にはともかく、冷静に客観的に考える程、武藤喜兵衛の考えには私は唸りつつも同意せざるを得ない気がしてならなかった。
武田家も上杉家も自らの家の外に敵を作り出すことで、家中の結束を図ってきた歴史的経緯がある。
それを考えれば、日本の東国が足利幕府の下で一応はまとまった現在、どうやって家中の結束を維持していくのが相当なのか。
考えれば考える程、日本の外に家中の不満分子を送り出して、それで家中の平穏を図るという黒い考えを武田勝頼や武藤喜兵衛が考えるのも、当然の気が私にはしてならなかった。
そういったことを急いで考えた末に、
「勝頼殿のお考えが正しい気がしますな。私の考えが足りなかったようです。この際、武田家と上杉家が共に高山国を目指されますか」
私がそう言うと、勝頼は笑いながら言った。
「いや、積年の敵と仲良くなるのは、共に同じことをして共に成功するのが一番と考えたまで」
「確かにその通りやもしれませんな」
私も笑いながら、勝頼の言葉に返したが。
内心では勝頼の言葉の正しさに同意せざるを得なかった。
かくして、高山国征服の芽が吹いたが。
当然のことながら、徳川家、武田家、上杉家が共同でやるとなると、佐竹家や里見家等も一口噛ませろ、自分達も参加すると言うのが当たり前になってくる。
結果的に高山国を東国諸勢力は共同して目指そうとする事態が、引き起こされることになってしまったのだ。
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