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第44話

 主人公が久々に登場します。

 そんな動きが、西国で起きていた頃、私は江戸に赴いていた。

 表向きは、長年に亘る北条家と反北条家勢力(両上杉家や古河公方家等)の戦乱によって荒れている関東の地を、かつてのように豊饒な大地にすることだったが。

 裏が分かっている自分は溜息しか出なかった。

 更に言えば、私は石川数正からも引き離されていた。

 代わりに付けられたのが、誰かというと。


「江戸の街割り等は、これで如何でしょう」

「うむ。その方向でやってくれ」

 本多正信が、私の付家老として内外のことを差配していた。


 北条家が当主氏政の切腹を条件に小田原城を開城した後、足利幕府は北条家の旧領を主に徳川と武田で二分割し、関東管領に武田と徳川を事実上任じる措置を執った。

 そして、足利幕府内外で色々と意見が出た末のようだが、結局は足利義氏を鎌倉公方として正式に再興することとなり、足利義氏は鎌倉に居を構えている。

 そして、駿河東部に伊豆、相模に南武蔵が徳川領となり、上野と北武蔵及び下総の関宿周辺が武田領となり、それ以外の旧北条領は佐竹家や上総武田家、里見家等が獲得した。

 尚、北条氏政は切腹したが、北条氏直や北条氏規等の多くの北条一族は助命され、内心では色々と想うところがあるだろうが、それぞれの縁をたどって仕官の路を歩んでいた。


 そういった状況が起きた末、私は父に呼ばれて命を受けた。

「信康、岡崎から江戸に移り住み、江戸を中心に南武蔵や相模の整備に当たってくれ」

「分かりました」

 私は即答した。

「それから、岡崎衆の動揺を避けるために石川数正は岡崎に残す。築山殿もな。お前は五徳と共に江戸に赴け。尚、石川数正の代わりに本多正信を付ける」

「有難くお受けします」

(本当は他にも色々とやり取りがあるのだが、超要約すれば上記のようなやり取りをして、私は岡崎から江戸に移ることになった)


 父の心根は見え見えだが、私は受けざるを得ない。

 私はひねくれた見方をした。

 

 私を岡崎から江戸に赴かせることで、私を子飼いの岡崎衆から引き離すつもりだ。 

 更に万が一を考えて、母や石川数正を人質同様に父は考えている。

 新領土を私に与えると言うのは、表向きは栄転だが、新領土の整備というのは極めて手間取ることであり、私の失敗を父は期待しているのだ。

 私が何らかの失敗をしたら、父は息子の尻拭いをするという大義名分を掲げて、私を押し込めて廃嫡等するつもりだろう。


 更に私が赴くのが江戸城というのが、何とも微妙なところだ。

 徳川家の新領土という観点から見れば、余りにも東に偏り過ぎており、東関東の国衆等との最前線といえる場所になる。

 当然のことながら、国境を巡る紛争等も起こりやすくなる。 

 又、江戸は利根川を中心とする関東平野の内陸水運と東京湾を経て太平洋へと通じる外洋航路の結節点にもなるところであり、こういったことも紛争のタネにになりやすい。


 それに縁起もよくない。

 かつて、江戸城の城主となった太田道灌は、主君の上杉定正に謀叛を疑われて殺されている。

 この時代にかなり染まっている私は、そういった点まで想いを馳せて江戸に赴くことになった。


 とはいえ、江戸に赴かされる以上、一点だけは父に対して私は譲らなかった。

「小浜景隆を始め、徳川水軍衆の多くは江戸に連れて行きます」

「何故じゃ」

「内海(東京湾のこと)で揉め事が起こった際、私はどうすれば良いのですか。新参の旧北条水軍衆を新たに雇えというのですか。江戸は海に極近い城ですよ」

「うん。確かにそうじゃな」

 父と言えど、流石に反論できない。

 海のことは海を知るもの、水軍衆に任せるしかないのだ。


 かくして、私は小浜景隆ら、徳川水軍衆の多くを引き連れて、五徳や娘と共に江戸に赴いたのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 家康太っ腹 小田原城三日で落とした最強兵力を謀反を疑っているやつに 同行させるわけ無いからね
[一言] 奥多摩や秩父は武田領なのかな? 現代人知識で石灰からコンクリートと竹を編んで竹筋コンクリートで護岸工事とか…
[一言] このままだと家康さんが息子にまで猜疑を向けその活躍に嫉妬する疑り深くて嫉妬深い人物として家臣からの信望がどんどん離れていく事になりそうです。 頭角を現したり活躍したらそれを妬んで左遷する上司…
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