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第39話

 山中城近くでの徳川軍と北条軍との決戦は、結果として北条軍がそれなりの損害を被る敗北となったが、そうは言っても死傷者合わせて2千程の損害であり、致命的な大損害を北条軍は被らずに済んだ。

 これは北条軍も優秀な将帥をこの場に集めていたことから、秩序だった退却に成功したためだった。

 しかし、徳川軍を撃破しての一撃講和が、この敗北で困難になったのは間違いなかった。


 更に厄介なことに、山中城はそれなりの規模を誇る城ではあったが、流石に万を超える城兵を抱えての長期の籠城戦を想定して整備された城ではない。

 そして、一部の将兵を山中城に残して徳川軍の足止めを図るという事も検討されたが、そうなった場合、城兵は死兵になるのがほぼ確実になる。

 そうしたことから、山中城には火を放って、徳川軍の拠点として使用できないようにし、北条軍は小田原城への撤退を行うことになった。


 再度の徳川軍との決戦を叫ぶ声も、北条軍の内部ではあったが、鉄砲の弾薬が欠乏していること、更にこの地で徳川軍に拘っていては、その間に武田軍等に小田原城が攻囲される危険があることから、最終的には北条氏政は小田原城への北条軍全軍の撤退を決めたのだ。


 これに対する徳川軍だが、最初は一方的な銃弾の雨を北条軍に浴びせたとはいえ、最終的には白兵戦を挑んだことから。

「約500程が死傷したか」

「死んだのは、その2割程ですが」

「北条軍に与えた損害は」

「戦場に遺棄された死体の数は約500という事から考えると、約2千の損害は与えたかと」

「ふむ」

 家康は家臣達とそのような会話を、軍議の場で交わすことになった。


 そうした会話を交わしている処に、物見の兵が駆け込んで報告した。

「申し上げます。山中城が燃え出しました」

「何」

 家康や家臣達は、思わず山中城を仰ぎ見ると、確かに燃えている。


「殿、これは」

「北条め。小田原城へ撤退する気だ。山中城を燃やして、我が軍の拠点として使用できぬようにし、更に火事で我が軍の進軍を阻むつもりよ」

 酒井忠次の問いに家康は即答し、周囲の家臣の多くもそれに無言で肯いた。


「どうされますか」

「取り敢えずは我が軍に被害が出ないように努めよ。火事が収まり次第、北条軍の追撃に掛かるが、我が軍の兵の方が少ない。緩々と追撃せざるをえまい」

「御意」

 家臣団と家康はそうやり取りをし、火事が収まり次第、徳川軍は北条軍の追撃を行ったが、結果的に半日以上の遅れをとることとなり、北条軍は小田原城への撤退に成功した。


 そうこうしているうちに、徐々に小田原城は徳川軍、武田軍、佐竹家等の東関東の国衆連合軍によって囲まれることになった。

 だが、その一方で、

「天下の名城と謳われ、上杉謙信殿も武田信玄殿も攻め落とせなかったのも当然に思えるの」

「私の父にしても、

『あの城を力攻めで落とせる者がいるとすれば、それは人ではない気さえする』

と言っておりました」

 徳川家康は嘆くように言い、武田勝頼はそれに苦笑いしながら答え、そのやり取りを聞いた関東の諸将もつられて苦笑いをした。


 各所に看視兵を残す等した為、小田原城を囲んでいる連合軍の総兵力は約5万程だった。

 更に小田原城の防御力は、謙信や信玄が攻めた頃より強化されている。

 かつて謙信が10万の兵で力攻めして落とせなかったことを想えば、連合軍の諸将の多くが、これは兵糧攻め等による長期戦をするしかない、と覚悟するのも当然のような状況だった。


 だが、そこに軍議の末席から声を挙げる者がいた。

「小田原城を攻めるのに、大砲を試してみては如何でしょうか。上手くいけば早期に落とせるやも」

 徳川水軍の小浜景隆がそのような声を挙げて、その場にいる諸将は顔を見合わせた。 

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― 新着の感想 ―
[良い点]  読者が思ったほどの打撃を北条勢に与えられなかったとは(´Д` )朝倉崩壊の再演を期待したけど流石は関東の覇者、読者は彼らを舐め過ぎていたようですな(徳川諸将にこの辺の土地勘が無いから無理…
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