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第33話

 だが、これだけでは上杉家にしてみればムチだけ、と言われても仕方がないことになってしまう。

 それ故にアメも上杉家には撒かれることになった。


「尚、上杉家を北陸管領とし、越後、越中、能登を上杉領と将軍は認めるとのことです。その代償として、上野の上杉領は武田勝頼に引き渡すようにとのこと。とはいえ、上杉家に味方する国衆がその地に残るというのならば、引き続いて知行は安堵するとのことです。尚、信濃については現在の状況で武田と上杉は国割ということで如何か」

「そこまでのこととなると、今、この場で私の一存では返答できませぬ。家中の意見を取りまとめた上で返答させていただきたい」

「良き返事を朝廷と幕府はお待ちしております」

 細川藤孝と上杉謙信は、そのようなやり取りを最終的にはした。


 さて、その後で謙信は家中の主だった者を集めて話し合いをした。

「朝廷と幕府からの申し入れとはいえ、実際には織田家の意向があるのだろうが、この件を全て受け入れてよいものだろうか」

 謙信の言葉に、発言が相次ぐことになった。


「越中は事実上は本願寺が抑えていると言っても良く、能登にしても本来から言えば畠山家の領土。その二つを我が上杉に与える代わりに上野を武田に譲れとは、幾ら朝廷と幕府の命令とはいえ受けてよいものか」

「先年、朝倉が滅び、織田家が一時的に越前を領土化しましたが、朝倉旧臣の内紛に加賀の一向一揆衆が介入したことから、越前の大半を加賀の一向一揆衆が抑える事態が起きたとのこと。これに対して、織田家は本願寺に厳重に抗議し、本願寺も加賀の一向一揆衆に流石にやり過ぎである、として越前を織田家に返すように指示したそうですが、越前や加賀の一向一揆衆は、本願寺の指示に従っていないとか。そういったことから、織田家は本願寺に越前、加賀の一向一揆衆を討つと公言しだしたとのこと。朝廷、幕府としては、織田家に味方する一環として、このようなことを指示したのでは」


 家臣の相次ぐ発言に、謙信は目を見開いて言った。

「まさかとは考えるが、北条攻めと一向一揆攻めは連動しておるのではないか」

「何故に」

「我が上杉家と一向一揆衆は、我が祖父以来の宿敵。我が家中でも一向一揆衆相手に、父や兄といった身内を失った者は数多い。それ故に一向一揆衆を攻めるとなれば、我が上杉家はまとまりやすい。そして、上杉、武田、織田が手を組めば、北陸の一向一揆衆は孤立無援になるし、本願寺も朝廷、幕府の意向に公然と背いて、北陸の一向一揆衆の支援はできぬ。そして、上杉軍主力が越中、能登に赴いていては、北条の支援等は間違ってもできぬ」

「確かに」

「上杉軍主力が越中、能登に攻め入ったとあっては、北条家が完全に孤立無援になったのが、北条家内外に明確に分かることになる。そうなった場合、天下の名城の小田原城があるとはいえ、北条家が武田家や徳川家を中心とする攻勢にどれだけ耐え抜けると考える」

 謙信の相次ぐ言葉に、家臣団は水を打ったように徐々に静まり返った。


「それではどうなされますか」

「上杉憲政殿には悪いが、最早、関東管領の名は儂限りにせざるを得まい。北陸管領を新設し、儂をそれに任ずるということは、そういうことだ」

「関東からは完全に手を引かれ、朝廷と幕府の命令を受け入れると」

「朝廷と幕府を持ち出されては、我が上杉家は従わざるを得ん」

 謙信は下を向いて家臣団とやり取りをし、家臣団の多くも主君の内心を察し、一部の家臣に至っては嗚咽を思わず零しだした。


 謙信は内心で考えた。

 儂の後継者は景勝で決まり、上杉家の領土も恐らくこれで確定することになるだろう。

 幕府が再建されつつあることが、せめてもの慰めだな。

 北陸管領とは?

というツッコミが起きそうなので、少し補足。

 五畿七道の一つとして、古代から北陸道がありました。

 そういった背景から、単純に関東管領から上杉家を外しては、上杉家が反発すると足利幕府は考えて、北陸管領という役職を創設し、それに上杉謙信を任命し、暗に上杉家に世襲させるとも言ったのです。


 勿論、上杉謙信にしてみれば、あからさまに裏まで分かる話ですが、朝廷や幕府を持ち出されては従わざるを得ず、家臣の一部が謙信の想いを考えて嗚咽する事態となりました。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  飴は飴だけど、この飴なかなか塩っぱいのは関東に“義”の旗を掲げる日が潰えた上杉家中の人々の無念の涙か、それとも100年の安寧に眠っていた北陸の門徒王国が戦火に燃え落ちる未来が確定したため…
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