第24話
私からすれば義兄になる織田信忠殿が織田家を相続したとはいえ、足利義昭が殺されたことから日本の政治体制というか、足利幕府を今後はどうするか、というのが問題になった。
その際に本多正信が徳川家に持ち込んできた提案に、私を含めて多くの者が織田家を巻き込んで、最終的に賛同することになった。
「この際に足利義助殿を将軍にしては如何か、と考えて提案に参りました」
「足利義助とは誰だ」
本多正信から持ち込まれた提案に、私を含めて多くの徳川家の面々が首を捻った。
(話が前後してしまうが、1573年春に岡崎に帰城した際に、父から徳川姓の名乗りを私は認められることになった。
それまでは松平一族の中で父しか徳川姓を名乗っていなかったのだ。
これは父が松平一族の中で特別な存在なのを示すためにそうなっていたのだが、今回の出来事から父は私も松平一族の中では特別な存在なのを示すために、私に徳川の名乗りを認めたのだ)
「足利義助殿は、第14代将軍の足利義栄殿の弟になります。足利義輝、義昭御兄弟の従兄弟にもなられる存在で、足利将軍に就任するのに相応しい血統をお持ちです」
「確かにその通りだが、何処におられたのだ」
私は本多正信に尋ねた。
「何処におられたとは。足利義栄殿が三好家の支援の下、第14代将軍に就任されたのは御存知でしょうか」
「無論」
いつか、私と正信が主にやり取りをすることになった。
「そして、足利義昭殿が織田信長殿と上洛を果たされた際に、足利義栄殿は三好家の面々と共に阿波に退かれることになりましたが、その途上で病死されました。足利義助殿は、兄の死を看取った後は阿波に住まれており、三好家等の庇護の下で暮らしておられるのです」
「ほう」
正信の言葉に、私は唸らざるを得なかった。
「足利義昭殿が亡くなられたからと言って、足利幕府を完全に滅亡させて、朝廷の下で織田家の勢力を伸張させるのは難しいのではないですかな」
「確かにその通りだな」
正信の続けての言葉に、私は同意の言葉を発するしかなかった。
「足利義助殿を新将軍として、足利幕府の新体制を構築して、その権威の下で天下統一を図られては如何でしょうか。更に言えば、短期的な利益が見込めます。足利義助殿を新将軍に推載すれば、三好家等と講和することができ、畿内の静謐を図ることができるのでは。更にそうなれば、本願寺等とも必然的に講和が成る可能性が高いのでは」
正信は懸命に弁舌を振るい、私はそれに聞き入って同意するのが相当だ、と考えるようになった。
「確かにそうなれば、義兄の信忠殿の成長を織田家は待つことができるし、上手くいけばそれこそ天下の舵取りを織田家が担うことになるだろう」
私は遂にはそう正信に言わざるを得なかった。
何だかんだ言っても、尾張、美濃、伊勢に近江等を抑えている織田家の勢力は日本中で一頭地を抜く勢力なのは間違いない。
そして、京及びその周辺を織田家は抑えており、朝廷までも膝下に置いていると言えないことは無いのだ。
更には三河、遠江を抑えている徳川家も織田家の同盟勢力になる。
こうした全てのことを考え合わせれば、足利将軍家の権威の下、織田家が足利幕府に協力して天下統一を図るというのが、現状の最適解ではないだろうか。
私は正信の言葉に載せられたのもあるが、そう考えるようになった。
その結果として、
「分かった。織田家の面々に其方の言葉を伝えよう。それから、父を説得して、其方の言葉等に報いるために徳川家に帰参するのを私は認めたい」
「誠に有難きお言葉」
私は正信にそこまで言った後、周囲に働きかけた。
そして、その言葉に織田家の面々も応じた結果、足利義助の第16代将軍就任が決まった。
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