表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/121

第18話

 1572年10月、岐阜城の近くになる長良川のほとりで、武田信玄自らが率いる武田軍に対して義父の織田信長が率いる織田軍と共に、私は松平(徳川)軍を率いて対峙することになっていた。

(軍を率いると言っても、私は実際には松平全軍の軍配を石川数正に預けているも同然で、奥山休賀斎を私の身辺の警護とし、先鋒は本多忠勝に任せ、旗本衆を率いるのは平岩親吉というのが現実だった)


 昨夜の義父との会話の後、私は石川数正のみと密談した。

「義父の言葉をどう考える」

「義父殿の本音でしょう。正直に言えば、義父殿としては貴方に来てほしく無かったのです」

「何故に」

「兵力が多すぎることになったのです」

「兵は多い方が良いのではないのか」

「場合によります」


 その後、数正なりの推測を聞かされて、私は驚いた。

「成程、兵が増えた以上は野戦を挑まざるを得なくなったと」

「そういうことです。正直に言って、私の目からも武将や兵の質からは織田軍が劣勢、とはいえ兵が多い以上、義父殿からは野戦の回避はしづらい。だからこそ」

 推測を聞き終えた後の私の言葉に対し、数正はそれ以上は言わなかったが、私達には充分だった。


 ともかく数正との会話の後、何とかまどろんで、私はこの場に立っていた。

「目の前に見えるは、主に馬場信房の部隊と見受けます。他に小山田信茂らも」

「うむ」

 物見の報告に、私は武者震いを隠せなかった。

 馬場と忠勝の一騎打ちが見られるやもしれぬ、そんな埒もない考えが浮かぶが、それから間を置くことなく、武田軍の攻撃が始まった。


 小山田隊の投石に対し、こちらも投石に加え、投げ炮烙で対抗する。

 幾ら戦慣れした馬と言えど、投げ炮烙の爆発音等は脅威のようで、馬場隊等の攻撃は私の目からはやや鈍って見えた。


 その一方、義父殿の部隊も先鋒の佐久間信盛の指揮の宜しきをもって、内藤隊や高坂隊の攻撃を凌いではいるが、私は嫌な噂が耳に入っていたことから、少し気になった。


「幕府の奉公衆を連れてきているだと」

「ええ、人質代わりも兼ねているとのことです」

「確かに義父上の気持ちは分かるが」

 岐阜城に駆けつけた際に、見慣れぬ旗を見た私は誰の部隊なのかを聞いて回った。

 すると、幕府の奉公衆(要するに足利義昭の部下)と分かった。

 更に裏事情として、足利義昭が織田信長の味方であるのを武田軍に示すと共に、万が一、義昭が裏切った際には責めを及ぼそうとも義父は考えていると聞かされたのだ。

 だが、そんなことをしては却って足利義昭やその周辺から義父は反感を買うのではないだろうか。


 私はそう心配したのだが、義父は奉公衆への信頼を示そうと旗本の一部を奉公衆としている。

 本当に大丈夫なのだろうか。 


 そうこうしているうちに、武田、織田両軍の様々な質の差が出だし、織田軍は徐々に崩れ出した。

 こちらも幾ら本多忠勝が優秀とはいえ、馬場や小山田等からなる武田軍の攻撃を完全には凌げず、劣勢になっている。

 そろそろ退却すべきでは、そう自分が考えたところ、数正も同様に考えたようで、織田軍の退却に合わせて、我々も退却を始めることになった。

 本多忠勝に殿を任せて緩々と退くと、相手も戦で疲労していたようで、軽く追撃しただけで引いた。


 これで初陣は終わりだな、私が気を緩めた瞬間(に私は想えた)、

「若殿、あれを」

 平岩親吉が義父がいる方角を指し示して叫んだ。

「何」

 私も叫んだ。

 

 幕府奉公衆が、義父のいる本陣に攻めかかっていた。

「義父を救え」

 私は慌てて下知を下し、義父の下に部下と共に向かうことになった。

 幸いなことに武田軍も思わぬことだったようで、武田軍も止まってしまったようだ。

 私は松平(徳川)軍を率いて、義父を何とか救おうとした。

 ご感想等をお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  まさかの展開!(´⊙ω⊙`)これはホント読めなかった!!後退時の陣中での裏崩れは戦国史でも度々散見されるけど良くあるのは大軍でも烏合の衆だったりする時でまさか織田家でコレが起きるとは(信…
[良い点] マリーアントワネットからのファンです! 新作が始まったことに気が付かないとは、、 更新をいつも楽しみにしています!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ