第119話
そんなことがあってから、10年余りが過ぎていた。
私は古希、70歳を過ぎており、実父の家康よりも長生きするのでは、とカリブ諸島(細かいことを言えば、キューバ島のグアンタナモ)に住んでいる私自身が考えるようになっていた。
今は私の暦計算が間違っていなければ、1632年になっていた。
そして、史実とは完全にかけ離れた世界に、世界中が成っている、と言っても間違いなかった。
南北米大陸への日本の侵出は順調に進んでおり、スペインやポルトガルといった欧州勢力の南北米大陸における凋落は、あからさまに世界中で分かる惨状を呈している。
そういった現状に鑑みて、日本に対抗しようと欧州諸国が団結すれば、まだ日本に一矢どころか、それなりに報いられるかもしれないが。
私が知る欧州の現状は、それとは真っ逆さまであり、
「まずはプロテスタントを粉砕した上で、日本と戦おう」
「カトリックと手を組むくらいなら、ローマにイスラム教のモスクが出来た方が遥かにマシだ。まずはカトリックを叩き潰せ」
というキリスト教の内部分裂が深化する一方にあるようだ。
本来ならば、教皇庁はローマに置かれるのが当然ではあるが。
それこそローマ近郊にまで、ガリポリ海賊による住民誘拐の脅威が及んでおり、実際に枢機卿まで誘拐される事態が起きたらしい。
こうしたことから、教皇の安全を完全確保しようと、アヴィニョンへ教皇庁は移動を策している、と私の下にまで噂が届いているのだ。
実際、その噂を肯定するような惨状に欧州はある。
神聖ローマ皇帝に誰が即位するか、が発端で始まった(史実の三十年)戦争は、完全に泥沼化しているといっても間違いではない。
スウェーデンの介入でプロテスタント優勢でケリがつく、と一時は見られたが。
グスタフアドルフ王の戦死から、お互いにここで引いては損、との機運が高まってしまい、引くに引けない事態になったとか。
他にイングランドもチャールズ1世の親政が行われだしたようだが。
チャールズ1世はカトリックとの噂が流れており、更に親政は独裁だとの批判が起きたことから、国内の混乱が徐々に酷くなっているらしい。
もっとも、プロテスタント諸国全体も似たり寄ったりの混乱状況らしいが。
他のカトリック諸国、スペインやフランスも五十歩百歩というしかなく、それこそ財政危機と国内混乱が、どちらが卵か鶏かという状況で起きていて、国内が混乱しているとか。
それに対して、日本は順調に徐々にだが、発展を続けている。
南北米大陸及び周辺部に入植を策す日本人は増える一方で、それを支援するように、それよりも多い欧州からは白人の、アフリカからは黒人の年季奉公人と言う名の移民が殺到しつつある。
その結果として、今では南北米大陸及びその周辺の日本の植民地の住民の過半数は、欧州やアフリカからの年季奉公人だ、と謳われる事態が引き起こされつつある。
実際には、そこまで今は多くは無い、と私は考えるが、18世紀に入る頃には確実にそうなっているだろう、と私は考えざるを得なくなっている。
私は老いから来る老衰も相まって、思わず遠くを見ながら、この後のことを色々と考えた。
このまま暫くは、日本は世界帝国と言える立場を保てるだろう。
だが、自分が死んだ後、18世紀に入る頃にはどうなっているだろう。
南北米大陸の日本人の過半数は、日本人と言いつつ、白人や黒人、更にはその混血が占める事態が引き起こされているだろう。
そうなっても、日本本国の日本人は、南北米大陸の日本人と考えてくれるだろうか。
そんな先のことを考えても、私にはどうにもならないだろうが。
本当にこの後の日本がどうなるのか、私は不安を感じざるを得なかった。
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