第114話
ともかく、一旦、悪事に染まると中々悪の路からは抜け出せないというが、この問題は本当に私にとってはそれに近い問題で頭を痛めることになり、ずっと悩み続ける問題の一つになった。
ガリポリ海賊にしてみれば、この一件から、日本の植民地になったカリブ諸島等への奴隷輸出は極めて利益が上がる商売と考えるようになったようだ。
更に皮肉なことだが、日本とオスマン帝国の間で活発な交易が行われたことから、オスマン帝国の友好勢力であるガリポリ海賊に対しても、航海術や帆船の建造技術等がその副産物として流れてもいた。
こうしたことから、相対的な問題だが、ガリポリ海賊にしてみれば、大西洋を横断してカリブ諸島、更に中南米大陸に奴隷を売り込むのを躊躇う理由が減ってもいたのだ。
その一方、私達にもカリブ諸島で開拓活動(といっても、既述のようにカリブ諸島は極めて広大なので、少しずつ開拓していくしか無かったが)を行い、更に稲作等を広げようとするのに、奴隷では無かった年季奉公人が極めて役立つのが分かってしまった。
何故かと言うと。
私やその周囲は、その頃まで全く知らなかったのだが、スペインやイタリアでは稲作を行っており、ガリポリ海賊が運んできた年季奉公人の一部に至っては実際に稲作の経験があったのだ。
一から稲作についての指導をせねばならない、と考えていた私達にしてみれば嬉しい誤算だった。
こうしたことから、私は全く良い顔は出来ず、むしろ、周囲に対してガリポリ海賊が運んでくる年季奉公人を買うのを控えるべきではないか、と主張しても、周囲が聞かない事態が起きた。
更に言えば、カリブ諸島の気候からすれば、日本本土で栽培しているジャポニカ米よりも、東南アジアや欧州で栽培しているインディカ米の方が栽培しやすいという事情まで加わってくる。
こうしたことも、ガリポリ海賊が運んでくる年季奉公人を、私の周囲が歓迎した一因になった。
そして、カリブ諸島のこういった話が広まれば、同じように人手不足に悩んでいるメキシコやペルーでも年季奉公人を求めだすのは当然と言って良いことで。
そういった事情を知ったガリポリ海賊は、欧州から攫ってきた者達だけではなく、サハラ交易によって入手した奴隷までも、カリブ諸島やメキシコ、ペルーに積極的に売り込んでくるようになった。
実際問題として、私なりに何とかサハラ交易によって、ここにまで連れてこられた面々からの話を聞く限り、結局のところ、ポルトガルとスペインの衰退が、こういった事態を引き起こしたようだった。
それこそ史実同様に中南米大陸開発のために、黒人奴隷を積極的にスペインやポルトガルはアフリカ大陸西部から調達していたのだが、この世界ではメキシコやペルー、カリブ諸島といった枢要部が日本に因って奪われてしまい、アフリカ大陸西部において、スペインやポルトガルからの奴隷の需要が暴落というより、ほぼ無くなってしまった。
そして、それを少しでも穴埋めしようと、サハラ交易でアフリカ大陸西部では、ガリポリ海賊が蔓延っている北西アフリカに積極的に奴隷を送り出すようになったらしい。
その結果、奴隷の供給過剰、需要不足という状況に北西アフリカも陥ってしまった。
そうしたことから、言葉は悪いが巡り巡って、ガリポリ海賊がカリブ諸島やメキシコ、ペルーの日本の植民地に対し、奴隷では無かった年季奉公人を斡旋して運び込む事態が起きたようだ。
私は改めて考えざるを得なかった。
日本が積極的に日本本土の外に侵出したことが、西アフリカにまで影響を及ぼすことになるとは。
本当に世界史は何処まで変わっていくのだろう。
私はそれを何処まで生きて見られるのだろうか。
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