第112話
こうした裏事情もあって、1604年に私が主導したカリブ諸島侵攻作戦は、開始する前は私は陸海合わせて、それも補給部隊も含めて1万を超える程度の軍勢で大丈夫だろうか、と不安視していたのだが、拍子抜けする程にスペインの抵抗は弱かった。
メキシコとペルーの銀山という大財源を、日本の攻勢によって失ったスペインは、本来ならばその奪還作戦を発動すべきだった。
しかし、国内外の混乱はまずは本国優先ということを行わざるを得ず、大西洋を隔てた遠くのメキシコやペルー奪還のために万を超える軍勢を送り込もう等、最早、狂気の沙汰という状況だったのだ。
そのためにスペインやポルトガル本国は、中南米の自国植民地に対して、本国から救援に赴けるようになるまで支援は行えない、その間、植民地は自活して自衛に徹するようにとの指示を出した。
だが、その指示を出した本国政府は重々分かっていた。
その救援部隊を送れるのは、少なくとも十年以上は先になるのを。
そして、その指示を受け取った植民地側も、その意図を汲まざるを得なかった。
本国からの支援が無い以上、植民地は現地、各拠点で兵を集めて自力で日本と戦うしかない。
だが、日本が攻めてくるとなると、万単位の軍勢で攻めて来るのが常だ。
それに対して、本国の支援が無い自分達が集められる軍勢は百の単位に過ぎない。
つまり、10倍以上の大軍を迎撃して勝たねばならない。
しかも、質において日本軍と自分達の軍隊の間に差は無いのだ。
更に何とか撃退しても、日本本国というバックからの支援がある日本軍に対して、自分達には本国の支援が当面は期待できない。
どう考えても、自分達の方が先に力尽きて負けてしまう。
そして、敗北した際に、どのような事態が起きるかというと。
これまでの日本の悪魔のような所業からすれば。
(尚、私達、日本人に言わせれば、この当時の欧州人の方が余程に悪魔だった。
何しろ異教徒や異宗派の約束等は守る必要が無い、と言って平然と約束を破るのが常だった。
降伏すれば、身代金を払えば、と約束しては、騙し討ちにして皆殺しがデフォルトだった。
そして、これは神の御心に沿う行動だ、と平然と言っていたのだから。
それに対して、こちらは異教徒との約束を、こちらからは破っていないのだ)
そんなことから、我々がスペイン領のカリブの島々に上陸すると、交戦する前にスペインの守備兵は逃亡し、熱心なカトリックの宣教師や信徒達は山の中へ逃げる事態が多発するようになった。
そして、私も部下達に敢えてそれを追わせなかった。
逃げる、つまり、自発的にこの土地を去っていくのならば追う必要は無い、と私は公言した。
実際にカリブの島々と一口に言うが、最大のキューバ島だけでも約10万5千平方キロ(ちなみに北海道が約7万8千平方キロ)もある大きな島が複数あるのだ。
こんな島々を約1万余りの軍勢で完全に制圧していこう等、それこそ無理のある話だ。
そして、自分の部下達も兵の少なさから、それが妥当だと認めることになった。
かくして、カリブ諸島のスペインの拠点を適宜に潰しては、そこに新たに日本の植民地を構えていくことになった。
そして、カトリックを棄教した現地の住民と協力して、私達はこの新たな植民地で米を作り、又、現金収入を得るために砂糖の生産を行うようになったのだが。
私達はすぐに人手不足に悩むようになった。
それこそ、日本の植民地はそれなりに絞って拡大していたが、そうは言っても、喜望峰周辺にカリフォルニア、メキシコとペルーにカリブ諸島とそれなりどころでは無い面積に広がっている。
そして、現地の住民の疫病禍は収まらず、人口減少は続いている現実があったのだ。
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