第104話
そうした事態から、例えば、フランスでは個人の信仰の自由を基本的に認める勅令(史実のナントの勅令)を、アンリ4世は出すことを検討したが、カトリックが多数派を占めるフランスの貴族や市民からの猛反発を受けて、勅令を出すこと自体を断念する羽目になったらしい。
そのためにフランスのプロテスタント信者、ユグノーは一部はカトリックに改宗し、一部はプロテスタントが優勢なスイスやオランダに亡命する事態が起きた。
このことはフランスの商工業に大打撃を与えることになり、更なるユグノーの迫害、又、ユダヤ人への攻撃が飛び火して起こる事態となった。
イングランドにしても、国教徒以外の信仰が弾圧されることになり、信仰をあくまでも守ろうとしたカトリック信徒や清教徒は相次いで殺されたり、国外亡命を余儀なくされたりした。
そして、これもフランスと同様に負のスパイラルを引き起こした。
ドイツに至っては、本格的な三つ巴の内戦が起きたと言っても過言では無かった。
カトリック、ルター派、カルヴァン派のそれぞれの信徒が文字通りに銃を向け合うようになり、最初は小規模な暴動と言って良かったのだが、それこそ上は貴族から下は市民までが、
「こうなったのは、異宗派や異教徒の彼奴らのせいだ」
と異宗派や異教(具体的にはユダヤ教)の信徒に対する攻撃が拡大される一方となり、史実より早く三十年戦争が事実上起こったのだ。
その近隣の小国、オランダやスウェーデン等でも似たり寄ったりの事態が起きた。
だが、こういった国では逆にカトリック信徒が、プロテスタント信徒から迫害を受ける事態が引き起こされることになった。
更に厄介なのは、それこそ不景気風が暴風のように吹いている以上、お互いに大規模な軍隊を集めて短期間で敵を叩き潰すようなことは不可能だったことだった。
しかも、お互いに自らの信仰を守るという大義があるのだ。
このために現代で言うところの小規模紛争が、ダラダラと続く事態が引き起こされた。
財政事情等から小規模な軍隊が編制されて、敵を叩き潰そうとする。
少量の出血が長時間続くようなもので、これは西欧諸国の国力の更なる低下を引き起こしたようだ。
これはインド洋方面から駆けつけて来た様々な日本人がもたらした、色々な噂からの私の推論に、ほとんど過ぎないが、そうは誤っていない筈だ。
それこそ複数の日本人が色々な噂をもたらしている。
噂である以上、誤りが多々含まれるだろうが、そうは言っても、当たらずとも遠からずの噂が多い筈で、私の歴史知識からしても、そう言った事態が起きても全くおかしくないからだ。
だが、このことは私のメキシコ、ペルー等への侵攻作戦にとっては、好都合としか言いようが無い事態でもあった。
このように欧州が混乱している状況とあっては、スペインにしても本国から下手に陸海軍の部隊は引き抜けない。
幾らメキシコやペルーが宝の山とはいえ、本国の方が重要だからだ。
そういった状況から、私は更なる目標を内心で定めることになった。
正直に言って、メキシコやペルー以外の中南米大陸を急いで開発する必要は無い。
欧州が混乱しているのならば、その間に日本は中南米大陸の植民地については、余力の限度で緩々と拡大していく方が、費用対効果の面等で無難だろう。
それよりもカリブ諸島や北米大陸の南東部を、日本は目指すべきだろう。
何故ならば、私の記憶に間違いなければ、更に気候条件等から考えても、そこは稲作の適地といえる筈だからだ。
メキシコを制圧して、大西洋沿岸に到達して、そこで船を建造して、カリブ諸島や北米大陸の南東部を抑えて植民地化して、米を作るべきだ。
私はそんなことを考えるようになった。
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