第1話
第1話の舞台は明記されていませんが、1567年になります。
尚、読者の皆様の読み易さ最優先で、史実の人物は基本的に最も知られた名前で登場して、年も西暦表示とさせてもらいます。
(人名は全て当時の現実を踏まえて、官職名で描け、諱等は出すな等と言われる方もおられますが、そんなことをしたら、分からない人には分からない話になります。
又、下手に永禄〇年とか、天正〇年とかすると分かりにくいですし、途中から歴史が大きく変わることもあって、西暦表示とします。
それこそ架空の元号を登場させても良いかもしれませんが、読者に分かりにくくなると考えます)
作者の我が儘、歴史軽視にも程がある、と言われそうですが、どうかよろしくお願いします。
「数正、色々と教えてくれてありがとう。来月の講義を楽しみに待つぞ」
「それよりも楽しみにすべきことがあるのでは」
「何のことかな」
「織田信長殿の長女、五徳殿との婚姻です」
「確かに楽しみにすべきかもしれぬが、母が何と考えるか」
「そこまでお考えが及ぶとは。数正、若殿の将来が楽しみでなりませぬ。まだ(数えの)9歳の身でありながら、文武の修行に励む一方で、諸国の事情に少しでも通じようとしているとは。更に家族のことまで気配りをされる。本当に9歳とは思えぬ才幹がお持ちです」
「褒めても何も褒美をやれぬぞ」
「若殿に仕えて、ご期待に添えるのが、私にとって喜びですぞ。正直に言って、費えがバカになりませぬが、我が松平家の今後を考えれば、若殿の考えもごもっともです。諸国の事情に耳を澄ませ、私自身も把握するように努めます」
「うむ。よろしく頼む」
私と石川数正は少し長い会話を交わし、今月の講義という名の現在の諸国情勢を数正から私が教わる半日の勉強は終わった。
私は数正が自分の視界内から消えた後、少し物思いに耽った。
何としても妻の五徳と上手くやらねば、そうしないと本当に自分は将来に殺される筈だな。
それにしても、精確な時、歴史の流れを自分が知らないのがつらい。
何で高校時代に世界史を懸命に勉強したのだろう。
日本史を勉強していれば、もう少しまともに対応できるだろうか。
とはいえ、できる限りのことをしないと、自分は20歳前に実父によって殺されてしまう。
何としても回避して生き延びられるように努力しないと。
本来ならば、相手を打倒するというのを考えるべきかもしれないが。
相手が悪すぎだ。
何しろ自分の相手が、徳川家康と織田信長なのである。
こんなのどう考えても無理ゲーだ。
少々の知識があったところで、勝てる人がどれだけいるだろう。
というか、21世紀の生まれの人が1人だけで転生してきて、この二人に勝てるだろうか。
自分の前世(?)では、過去に転生したら、未来知識無双で日本を世界を制覇する主人公が出てくる小説や漫画がそれなりにあった。
自分もそういった小説や漫画に興味を覚えて、そういったモノを幾つか読んだが、そういった主人公は軒並み、超人としか言えない知識や技術持ちばかりだった。
それに対して、自分はというと。
頭はそれなりにあったと思う。
何しろ地元の公立普通科高校を卒業して、地元の国立大学の文学部に入って、無事に卒業したのだ。
だが、世渡り下手だったせいか、卒業時の民間企業への就職活動は全滅、その中にはゼミの教官からの紹介状付きで挑んだ企業まであったのに不採用通知が来たのには絶望したくなった。
(大学時代にした幾つかのアルバイトも、周囲の人間関係から自発的退職ばかりだったことを考え合わせれば、自分は本当に社会人としての何かが欠けていたのかもしれない)
そんなこんなから、自分としては、完全にすべり止めのつもりで受けていた海上自衛隊の幹部候補生試験に合格したことから、海上自衛官の路を歩むことになった。
(両親から派遣等で徒食するよりは、自衛官になった方が良いとの猛烈な圧力があったせいだ。
更に言えば、完全にすべり止めのつもりで自分は海が好きだから、と言う感じで受けていた)
そして、様々な研修を受けて三尉に任官したのは確かなのだが、それ以降の記憶が自分にはない。
恐らく、その直後に事故か何かで自分は死んで、松平信康に転生したのだろう。
それにしても、この身に転生した後で心から後悔することになった。
何で陸上自衛官に自分は成らなかったのか。
そうすれば、それなりに自分は身を守れたかもしれないのに。
どうすれば自分は生き延びられるのだろうか。
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