08
「さて、炎の魔法の初期魔法はこのファイアーボールだ」
そう言って、わしは指先に小さな火の球を出す。
すべての炎魔法の基本だ。
これをいろいろな方向に変化させていく。
「まず、ここをこうすると炎は大きくなる」
そう言って魔法陣の一部の表現を変える。
そのとたん、火だねは手のひらサイズの炎の球となる。
「ここは、動きを決める。ここはスピード」
炎の球はゆっくり動き始める。
「そんなのわかっている」
コンラットは答える。
「そう、あたりまえのとるに足りない魔法だ。
しかし、その初級魔法さえ、おまえらは使いこなせていない。
それなのに、中級魔法だ、別属性だと新しいものに飛びつこうとする」
「でも、ファイアーボールくらい簡単に跳ね返せるだろ」
「そうかな。そこの君、跳ね返してみたまえ」
わしは、魔法陣の一部を書き換える。
そのとたん、火球が若者に向けて飛ぶ。
若者はバリアを展開する。
安易だ、安易すぎる。
先輩魔導士相手にそんなことをしてはいけない。
すこしは疑ったほうがいい。
火球は若者のバリアに触れる。
そのとたんにバリアの魔力を吸収して大きくなる。
そう、こういうこともできるっていうのはきちんと教えている。
魔獣相手なら威力の高い攻撃でいいんだが、魔法を使うものが相手なら当然考えなくてはならないことだ。
それなのに、嘆かわしい。
大きくなった火球は若者を襲う。
若者は直撃を受けて倒れる。
まあ、死ぬことはないだろう。
きちんと計算の上での魔法だ。
「まだやるつもりか。
次は本気でいかせてもらう」
わしはコンラッドを睨む。
やつがひるんでいるのを感じる。
もう、戦う気力はないだろう。
わしは、彼らに背を向けて歩き出す。
「まて、じじい」
コンラッドはわしを呼び止めようとする。
しかし、それはただのポーズ。
こいつにわしと命のやりとりをする勇気はない。
わしは何か叫んでいるコンラッドを振り返りもせずにランベールへの街道を歩いていくのだった。