02
そこは一瞬で悲惨な殺戮の場となった。
いや、黒い鳥からしたら、たんなる餌場。
ちがう、久しぶりに新鮮な肉を喰らえるディナーの場所。
その黒い鳥はカラスという鳥だった。
その狂暴な風貌は、大きくなっても身震いする怖さをもっている。
それは、このトラウマのせいなのだろうか。
大きくなったぼくなら一方的に喰われたりしないだろう。
でも、このときのぼくたちはあまりにも無力だった。
ぼくの兄弟たちはつぎつぎとついばまれていった。
目を潰され、お腹を突き破られて、内臓を引きずりだされる。
ぼくはそれを見て足がうごかなかった。
助けて助けてって叫ぶことしかできなかった。
ただ、兄弟たちは次々と殺されたのに、ぼくはつつかれることはなかった。
何故かわからない。
あまりにも声が小さかったからか。
逃げる勇気がなかったことか。
時々、黒い目で睨まれる。
それで、糞尿を漏らして震えることしかできない。
カラスには小さいぼくはおいしそうにみえなかったのか。
それとも、あとでいつでも食べられると思ってなのか。
わからない。
でも、ぼくはこの後生き残れるとは思っていなかった。
「なんか猫の泣き声がするよ」
「えっ。嘘、何も聞こえないよ」
なんか、声がする。
ぼくは、できるだけ大きな声で叫ぶ。
助けて!助けて!助けて!
「いや、絶対、猫の声。
弱弱しいけど。
家の裏からだよ」
助けて!助けて!
ミー、ミー、ミー。
「キャー」
大きな影が声をあげる。
そのとたん、カラスが静止する。
そして一斉に木の上にあがる。
「カラスだよ。
酷い。子猫が食べられてるの。
お父さん呼んできて」
「わかった」
大きな動物が一匹向こうに走っていく。
そして、ぼくは細い指につつまれて、持ち上げられるのだった。