01
目が覚めると、深い緑が目に飛び込んでくる。
そういえば、ぼくは死んだのだったな。
すごく幸せだった。
おいしいものを食べて、暖かい家の中で暮らして、思う存分遊んで、たくさん眠って。
人間の家族にすごく大事にしてもらった。
それから、一緒にいた仲間たちも、時々喧嘩もしたけど、すごく楽しかった。
20年生きたけど、だんだん身体が動かなくなった。
前ほど、高く跳べなくなったし、早く走れなくなった。
毎日寝ている時間が長くなっていった。
「ドラちゃん、大丈夫?」
おかあさんが声をかけてくれる。
うん、大丈夫、でもすごく眠いんだ。
ぼくは夢の世界に落ちていく。
ありがとう。
最後にぼくはお礼を言う。
でも、人間にはニャーンとしか聞こえなかったと思う。
ぼくの猫生、最初は悲惨なものだった。
ぼくたち5匹は野良猫のお母さんから路地裏で生まれたんだ。
最初はすごく幸せだった。
お母さんがぼくたちを大事に育ててくれたんだ。
一番小さいぼくには、すごく目をかけてくれた。
お母さんはミルクをくれたり、ぼくたちを舐めてくれたり。
すごくやさしかったんだ。
それなのに、ある日おかあさんはぼくたちのところに帰ってこなくなった。
ぼくたちは、最初おとなしくおかあさんの帰りを待っていた。
でも、ぜんぜん帰ってこなくて、おなかがすいて、寒くなってきて。
ぼくたちは暖かいところを求めて動き始めた。
でも、おかあさんみたいに素早く走ることはできない。
よちよちとみんなかたまりになって、歩きはじめたんだ。
目はすこしだけ見えるようになっていた。
でも視界はぼんやりしている。
おかあさん、おかあさん。
人間からしたらミャーミャーか。
精一杯叫びながら、ぼくたち5匹は動き始めた。
初めての冒険。
そんな生易しいものではない。
生きるための場所を求めての彷徨いだ。
兄弟は黒猫、白猫、白黒が2匹、そしてぼく茶トラとなっていた。
だれがお兄さんでお姉さんかはわからない。
その中でぼくはいちばん小さくて弱弱しかった。
ぼくは列の最後についていくのがやっとだった。
どこにいくとごはんが食べられるのか。
どこにいくと暖かいのかはわからない。
でも、ぼくたちはその場所を求めて動き始めたのだ。
そのぼくたちの前に降り立つものがいた。
真っ黒で大きな鳥だった。
そして、上を見ると同じ鳥が3羽、木の上からぼくたちを見下ろしているのだった。