プロローグ03
わたしは一人で残される。
山の神ってどんな魔物なのだろう。
村に伝えられているのは、巨大な身体で空を飛び、炎の塊を吐く魔獣。
竜や獅子も倒してしまう最強の生物。
人間の言葉を理解する知性も持つ。
人間、それも子供が大好物だって言われている。
でも、人間だって食べるために鶏や豚を育てたりする。
そんなことを考えると、年に一度生贄を食べるくらい普通なのかも。
それにさっき語りかけた声。
ニャンって変な語尾はついていたけど、なんかそんなに恐ろしい魔獣だとは思えない。
こんな状態なのに、わたしは驚くほど落ち着いている。
人間、覚悟を決めるとこうなってしまうのだろうか。
その時、わたしの目の前に金色の毛玉が降り立つ。
なんだろう?
よく見ると、金色に見えるくらい綺麗な毛並みの茶色の猫だ。
いや、その茶虎は光っているのだ。
濃い緑の森の中、その光る金色は宝物のよう。
思わず見とれてしまう。
猫は丸い目でわたしをじっと見上げる。
そのまま、わたしの足元に近寄ってくる。
「ナー」
猫ちゃんはわたしの前で鳴く。
そのとたん、わたしを縛っていた縄がほどける。
え、どういうこと?
顔だけ振り返ってわたしを見る。
ついてこいっていうのか。
このまま、森の中にいてものたれ死ぬだけだ。
こんなところで食べ物とか探せるとは思わない。
それにどんな魔獣、野獣がいるかもわからない。
それにこの猫ちゃんについていったほうがいいって感じがする。
理由はわからないけど、なんかこの猫ちゃんは神様の使いみたいに思ってしまう。
猫ちゃんは、時々振り返りながら歩いていく。
わたしがちゃんとついてきてるかどうか確認しているみたい。
二本の尻尾をピンとたてて歩く姿に微笑んでしまう。
さっきまでの不安が嘘のようになくなってる。
そういえば、さっきからまわりが明るくなっている。
そう、空を覆う木が少なくなってきているのだ。
そして目の前が開ける。
すこし前に大きな石門が見える、
その門が少しづつ開き始める。
その中には、わたしより少し大きい子供たち。
1年前に生贄になったお姉さんの姿もある。
みんな幸せそうな顔をしている。
そして、声を揃えて言う。
「「「ようこそ!ドラの町へ」」
わたしは森の奥にある不思議な町に迎え入れられたのだった。