プロローグ02
生贄の役割はただ捧げられるだけではない。
物々交換の商品でもある。
村は毎年生贄を捧げる。
そのかわりに、山の神は獲物をよこすのだ。
それも、山の奥深くにしか生息しない強い獲物。
ワイバーン、ビッグベア、ジャイアントタイガー、バジリスク。
災厄とも言われる魔物を生贄と交換するのだ。
それは強い魔物から村を守っているというメッセージ。
山の神の強さを示すパフォーマンスでもある。
その獲物は素材や肉として高額で売れる。
その一部が両親に対する補償とされる。
親としても、口減らしになるし、奴隷として売るよりお金になる。
だから、生贄に選ばれることは光栄と考えられている。
一緒に来た大人たちはワイバーンを解体して、もって帰れるようにする。
その間、わたしは逃げないように諭される。
そう、わたしが逃げたら山の神が怒るかもしれない。
そうなると村は無事では済まない。
神官はわたしに山の神に食べられることがいかに名誉なことか諭す。
それは自分にも言い聞かせているのかもしれない。
幼い子供を山の神の餌とすること、その罪悪感をごまかしているのかもしれない。
わたしはそのあと、石の祭壇に縛り付けられる。
それでも逃げてしまわないようにだ。
「では、山神様に召されるのだ。
決して逃げかえってはならない。
もし、お前が帰ってきたりしたら、村もお前の家族もみんな滅ぼされてしまうのだ」
村長は念を押す。
わかってるよ。
わたしの使命くらい。
でも、自分が生きてきた意味が山の神に食べられるためだったなんてやるせない思いだ。
「山神様、今年の獲物はこの娘です。
どうぞ、今年も村をお守りください」
「わかったニャン」
どこからか、声が振ってくる。
大人たちは、全員膝をつき頭を地につける。
「それでは立ち去るニャン」
また、声が振ってくる。
いや、なんか心の中に語りかけてくる感じだ。
「わかりました。山神さま。
皆のもの、引き上げようぞ」
村長は杖をあげる。
それを合図に大人たちは帰る準備をはじめるのだった。