イグレーヌ21
ブラックウッドさんたちが作った馬車は速く走る。
深淵の森の中は、そんなに道がいいとはいえない。
それなのに空に浮いている感じだ。
っていうか、本当に浮いているらしい。
魔石に込めた魔法の力で少し浮いていて、動かすのにあまり力がいらない。
だから、一頭引きでも馬にあんまり負担はかかっていない。
ドラちゃんが連れてきた老人の中に大工や職人がいてブラックウッドさんの設計で作ったのだ。
それに馬にもエンチャントがかかっている。
これはエヴァンスの魔法だ。
エヴァンスはドラちゃんに出会ってから、僧侶としての力を開花させた。
もとは頭脳で勝負する参謀タイプだが、魔法の腕は普通くらいだった。
それが、今では回復魔法、強化魔法、防御魔法は相当なレベルに達している。
相当なレベル、違う、これだけの魔法を使う僧侶は見たことがない。
そのエンチャントもあって、2倍以上のスピードで進んでいく。
半日で森を出る。
そこは、あの悪魔と戦った場所だ。
悪魔においつかれて、ドラちゃんに助けてもらった場所。
本当なら、ここから共和国を目指すところ。
でも、今はランドバルク王国を目指す。
わたしたちは、王都に一番近い町に一度入る。
身分証は、商人のものを借りている。
樹海で行方不明になる人たちは後をたたない。
人生に絶望した者たち、深淵の森で一発当てようとする山師。
そういう亡骸の近くに落ちているのだ。
それをドラの町の職人がうまく偽造してくれた。
賭けられている魔法さえ、ブラックウッドさんからしたら書き換えるのは簡単。
わたしたちはギルド証で町に入る。
町は閑散としていた。
ここは王都に近く、繁栄していたはず。
それなのに、ここまで活気がなくなるものか。
店は半分くらいしまってるし、やっと見つけた食事処もほとんど客がいない。
メニューもところどころに×がついている。
値段もすごく高い。
やはり外国からの経済制裁が強いのだろう。
物資の不足が顕著だ。
これなら一般人の生活がどれだけ脅かされているか想像できる。
わたしたちはいまできる食事をたのむ。
店の人に現在の情勢を聞くが、教えてくれない。
たぶん、王国の悪口を言ったりしたときの密告を恐れているのだろう。
こんな国にしてしまったブラッドリーに憤りを感じる。
とにかく、こんな状態を続けさせてはいけない。
わたしたちは食事のあと、宿屋で一泊して作戦を練る。
明日には王都に入る。
わたしたちはエヴァンスの部屋に集まって明日の打合せをするのだった。