モーガン商会社員スティーブン01
「あの薬の解析はできたか?」
「いえ、材料も製法もわかりません。
わたしたちの作っているものとは、まったく別次元のものです」
ぼくはモーガンの問いに答える。
ぼくはスティーブン、元はクリフレッドと一緒に回復薬を作っていた。
ぼくたちは新しい製法を発明した。
それから良質な回復薬を流通させるのがぼくたちの使命だと思って、モーガン商会に喧嘩を売った。
その結果、クリフレッドは逮捕されて鉱山行きになった。
そのうえ鉱山に行く途中魔獣に襲われて死んでしまったらしい。
ぼくは途中でクリフレッドを裏切ってモーガン商会についた。
ジョンもジェミーも同じ。
ぼくたちは今モーガン商会で働いている。
ぼくは薬品の技術者として日々モーガンのために研究をしている。
もうあの頃のようなやりがいを感じることはない。
与えられた仕事はいかに安く薬を作るかだ。
効果が落ちても儲かるものを作れ、それだけがぼくたちの仕事となった。
「おまえら。そんなこともわからないのか。
この役立たずが。給料泥棒が!
もう研究所なんていらん!」
モーガンは机を強く叩く。
そんなこと言ってもな。
たぶん材料からして、ぼくたちの知らないもの。
「失礼します。
お客さまですが」
そのとき、モーガンの秘書が入ってくる。
これからねちねちと責められると思っていたので、来客は歓迎だ。
「あとにしろ。今取り込んでるって言っとけ」
「しかし、王都のウェーバー商会の会頭です」
「ウェーバーだって」
たしか、王都で一番の商社の会頭。
王国や他の国とも親交があり、下手な貴族より力を持つという。
もしウェーバーが本気を出したら、モーガン商会なんて一瞬で潰される。
「ええ、会長に挨拶をしたいと」
「会おう」
そう言って出口に向かおうとするモーガンの前に恰幅いい男とロマンスグレーの上品な老人。
「入らせてもらいますね」
そう言って老人が研究所に入ってくる。
そのあとにがたいのいいスキンヘッドの男が突き従う。
たぶん、ボディガードだろう。
「いえここは、研究所なんです。
立ち話もなんですから応接室で」
モーガンは手をこすりながら愛想笑いを浮かべるのだった。