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それから数日間はなにも起こらなかった。
普通に店は繁盛していた。
この前のチンピラの騒ぎも一種いい宣伝になったみたいだ。
モーガン商会にはみんな不満を持っているみたいで。
ここのみんなには好感をもってもらえたようだ。
市場をしきる親分さんも守れなかったことがひけめとなったみたいで、もっといい場所に移転させてもらえることになった。
わたしは軌道にのってきたと感じて孤児を2人雇うことにした。
ひとりでもできるけど、これからのことを考えると後進を少しでも育てたほうがいい。
孤児たちを全員救うことはできないけど、何人かでも食えるようになったらいい。
もっと儲かるようになったら、雇い人を増やしていけばいい。
ある日、店に騎士団がやってきた。
それはあの小役人サンドルが率いる一隊だった。
「ニャンコロッド商会のケビンだな。
モーガン商会から訴えがあった。
なんでも回復薬の製法を盗んで、それを不当に安価で売っているとの咎だ。
ん、おまえ?なんかみたことがあるような」
「わたしはドラの町から来た商人ケビンです。
この町に来るのは初めてです。
あなたは?」
「ハミルトン騎士団小隊長サンドルである」
ナマズのような細い髭を触りながら胸を張る。
「そうでしたか。騎士団の偉い人なんですね。
これはお会いできて光栄です」
持ち上げておく。こういう小物はそうしたほうがいい。
「騎士団の詰所まで来てもらおう」
「しかし、この薬はドラの町で作ったものです。
決してモーガンさんの製法を盗んだものではありません」
たぶん、モーガンはわたしを引っ立てて薬の製法を聞き出すつもりだ。
それと薬の製法なんて共通する部分が多々ある。
そこをついていちゃもんをつけるつもりだろう。
「それを決めるのは騎士団だ。
反抗をするなら、それなりの手をうつがいいのかな」
「いえ、しかしこの薬の製法はブラックウッドさんが発明したものです。
モーガンさんの製法とは全然ちがうものです」
「また、そんなホラを。
元魔導士団長ブラックウッド師は深淵の森で行方不明となられているのだ。
そんなことも知らないのか」
「いえ、しかしわたしは深淵の森でブラックウッドさんに会いました。
ブラックウッドさんは今、ドラの町におられます」
「とりあえず、詰所まで来てもらおう」
サンドルは少し怯んだが、部下に指示をしてわたしを引っ立てるのだった。