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「簡単なことです。
この国の経済は歪んでいます。
歪んだものはもとに戻ろうとします。
すこしきっかけを作ってあげるだけでね」
レイモンドさんは、意味深に笑う。
「そうですか。
ではどうすれば」
わたしにはレイモンドさんの言うことがわからなかった。
「グリフレッドさんは、自分の思った通りにしていただければいいですよ。
普通に商売をするだけでね」
「では、レイモンドさんは」
「わたしは少しこの町を離れます。
なあに、すぐに戻ってきますよ。
すこしやらなければならないことを思い出したのです。
それに、わたしのことはモーガン商会の多くのものが知っています。
わたしがレイモンドだとばれたらグリフレッドさんに迷惑がかかります」
「しかし」
わたしは不安げにレイモンドさんを見る。
「大丈夫です。
わたしの商売に関する哲学はもうみんな教えました」
この町に戻ってくるまで、レイモンドさんとはいろいろな話をした。
レイモンドさんはすごく奥深い人だ。
商売については何を聞いても答えてくれた。
さすがにモーガン商会を育て上げた人だ。
モーガンがレイモンドさんを追い出したのもわかるような気がする。
モーガンのような俗物にレイモンドさんは使えないのだ。
いつか自分を追い落とすのではないかと疑心暗鬼になってしまったのだろう。
考えるわたしの肩をレイモンドさんが叩く。
「あなたなら大丈夫です。
わたしが保証しますよ。
あなたは私が見た中でも最高の商人です」
たぶん、これもレイモンドさんの作戦なのだろう。
人はほめて使えということなんだろう。
しかし、レイモンドさんに言われると自信が湧いてくる。
「わかりました。
レイモンドさんに教わったことを生かしてがんばります」
「その調子です」
レイモンドさんは大きく笑う。
その日、わたしは町を出ていくレイモンドさんを見送った。