09
鉱山までの旅はわたしにとって地獄の行軍だった。
ほとんどの囚人は冒険者あがりのものばかり。
わたしと2人の初老の男はお荷物となる。
いままでろくに身体を鍛えたこともないのだ。
それでも、わたしは若さでなんとかなった。
最初はきつかったが、だんだん慣れてきた。
下半身に筋肉がついたのだろう。
だが、年配の囚人たちはそんなわけにはいかない。
日に日に弱っていくのがわかる。
粗末な食事に毎日歩き詰めに歩かされる。
そんな旅は老人たちの身体をむしばんでいった。
「もう、無理じゃ。
休ませてください」
老人のひとりが音をあげる。
騎士たちにとっては、早く仕事を終えて帰りたいというのが本音だろう。
囚人を鉱山に連行するなんて大事な仕事ではない。
当然、出世からはずれた平騎士の仕事となっているのだろう。
その鬱屈とした感情は弱いものに向けられる。
屈強な働き手を傷つけるとこいつらの責任が問われる。
しかし、働き手とならない老人や商人を一人痛めつけたところでなんの罪にも問われない。
反抗的であったという一言ですんでしまうのだ。
それが、囚人たちへの牽制にもなる。
自分たちよりも低い身分のものを作ることによって、その反乱の芽をつもうというのだ。
こいつよりましだと思うことで反抗心が薄れてしまう。
「だめに決まってるだろう。
じじい。立て、ただでさえおまえたちのせいでおくれているのだ」
そう言って老人の背中を棒で打つ。
わたしはその老人のそばに寄る。
これは商人として本能みたいなものだ。
商人は老人を大事にする。
それは老人は知識を持っているからだ。
どんな老人でもその歳まで生きてきたという事実がある。
この世界では60歳まで生きることは希少なのだ。
どんな人生を送ってきたにせよ。
老人は生きた知識を持っているのだ。
商人は情報や知識を大事にする。
老人や弱者を必要のないものと考える武人と対象的なのだ。
それで反射的にかばってしまった。
「おまえ、このじじいをかばうのか。
それなら、じじいと同罪だ。
どうせその体格じゃ鉱山でも大して薬にたたないだろう」
そう言って騎士はわたしを棒で打つ。
わたしは騎士を睨んでしまう。
そう、わたしはこういう輩がいちばん嫌いなのだ。
「なんだ、その目は」
そう言って騎士はまたわたしを打つ。
この時以来、騎士たちの矛先はわたしに向かうのだった。




