06
これは罠だ。
この小役人は、モーガン商会のために動いている。
信用してはいけない。
たぶん、回復薬の製法を言ったら、モーガン商会に筒抜けだ。
わたしは、黙秘を貫くこととした。
「おまえ!口がきけないのか!」
黙り込むわたしの前でサンドルの横の若いのが机をたたく。
「まあまあ、暴力はいけないな。
しかし、わたしたちがおとなしくしているうちに本当のことを話してほしいな」
サンドルはわたしの顔にタバコの煙を吹きかける。
怒ったらこいつらの思うつぼだ。
いくら騎士団でも、そこまで無茶はできないだろう。
「吐け!吐けっていってんだろ!」
若い騎士がわたしの胸をつかんで揺さぶる。
「やめておけ。そんなやり方じゃ。グリフレッドさんが素直に話せないじゃないか」
サンドルはそう言って微笑む。
たぶん、若いのがわたしを痛めつけて、サンドルがなだめるって構図。
そんな三文芝居でわたしがしゃべるとおもってるのか?
なめるにもほどがある。
わたしは商人だ。武人ではない。
だが、武人は戦いに命をかけるのと同様に商人は商売に命をかけているのだ。
この場は商人として逃げるわけにいかない。
わたしはサンドルをにらみつける。
「おれまで、怒らせようというのか?
おれがおとなしくしているうちに楽になれ」
小役人も睨み返してくる。
しかし、こいつは強い立場の時しかこういうことはしない。
わたしはだんまりを続けた。
その間に、仲間がなんとかしてくれると信じて。
しかし、この時代の権力というものを甘く見すぎていた。
わたしがつかまっている間に、証拠は作られた。
そして、仲間たちはやつらに取り込まれていった。
この中規模の町では裁判は迅速に行われる。
重大な裁判以外は簡単に処理される。
それは人権というものを考慮する必要がないからだ。
裁判は自白と状況証拠で決められる。
その双方は権力が作り出す。
だから、騎士団に連行された時点でおわりなのだ。
わたしはこの世界を甘く見ていた。
わたしはこの世界の真実に絶望するしかなかった。
絶望はわたしの心を折ったのだ。
素直になったわたしは彼らの書いたストーリーにうなづいていった。
最後にわたしは調書にサインした。
そして、わたしの裁判は始まったのだった。