04
「グリフレッドはいるか!」
混雑する店の中に大きな声の男。
騎士団の制服を着ている。
ハミルトン伯爵の騎士団だ。
その騎士の後ろからぞろぞろと他の騎士が入ってくる。
「おまえら、邪魔をするな」
お客様が騎士に追い出される。
「動くな!手を上にあげろ!」
騎士は店の者に命令する。
どういうことだ。
騎士は何をしにここに来たのだ。
「店主のグリフレッドはどこだ。
隠すと大変なことになるぞ!」
いちばん偉そうな太った騎士が叫ぶ。
確か騎士団小隊長のサンドルだったな。
弱いものいじめが得意な小役人だ。
「わたしです。逃げも隠れもしませんよ。
ところで、この騒ぎはどういうことですか。
サンドルさん」
わたしは柔和な笑顔を浮かべサンドルの前に立つ。
「おまえに逮捕状が出ている」
サンドルは紙を広げる。
この町では警察も騎士団が兼ねている。
町の治安はハミルトン伯爵が担っているのだ。
だから、町によって治安状態は変わる。
ただ、あまりに貴族が好き勝手すると、治安が悪くなり領民が不満を持つ。
特に商人や町人は、他の町に逃げ出すということになる。
このエクレルの町は、普通くらいと聞いてる。
ハミルトン伯爵は、典型的なバカ殿。
自分たちが贅沢に暮らせればいいというタイプ。
領民のことには興味はなく他のものに政治や経済は任せていると言った感じだ。
経済についてはモーガン商会が力を持っているというわけだ。
「わたしはまっとうに商売をしています。
なにも後ろめたいことはないはずですが」
感情を押し殺す。
たぶん、モーガンが何かしたのだろう。
法や商慣習についてはきちんと押さえているはずだ。
ただ、法というものは解釈しだいでどうにでもなるものだ。
だから、ここはなんとか穏便に乗り切らないと。
もし可能ならサンドルにいくらか握らせてもいい。
「おまえには、モーガン商会より回復薬の製法を盗んだ容疑で訴えが出ている。
それについて相違はないな。
とにかく騎士団まで来てもらおう」
サンドルはそう言って部下にわたしを逮捕するよう指示をするのだった。