01
「これでおまえは終わりだ。
お前は目ざわりなんだ」
「しかし、あの回復薬はわたしが作り出したものです。
あの薬なら、今の半分の値段で流通させることができます。
今よりたくさんの人を救えるのです」
わたしはモーガンをにらみつける。
わたしは、グリフレッド、駆け出しの商人だ。
この町で小さな商社を営んでいる。
わたしは商人というものは世間に資するものと教えられてきた。
金儲けをするだけの商人は本当の商人ではない。
顧客、世間、店の三方がすべて良い、そういうやりかたをしなければならない。
しかし、この町の商売はモーガン商会が仕切っている。
そのうえ、町を治めている伯爵家とつながっている。
つまり、モーガン商会が商売を独占しているのだ。
これは商売としてはいちばん悪い状況だ。
商品の価格は需要と供給により決まるものだ。
それなのにモーガンだけで価格を決められるというのは健全ではない。
あくまで商人は良いものを適正価格で提供するという仕事をするものだ。
短期的には儲かるかもしれないが、長い目でみると良くない。
よりよいものを提供するという精神がなくなるからだ。
商品開発がその間立ち遅れるのだ。
だからわたしはモーガン商会に喧嘩を売った。
その結果がこれだ。
理想だけでは、勝てないのだ。
より良い世界を作ろうとしたが、力が足りなかった。
「いまや、おまえのグリフレッド商会に材料をおろすものはない。
おまえは回復薬を作ることさえもできないのだ」
そう、わたしについていたみんなが裏切った。
モーガンとハミルトン伯爵に逆らうことはできなかったのだ。
わたしは権力というものを甘くみすぎていた。
ルールは権力者が作る。
この世界では、それは恣意的なものなのだ。
なんのチェックも働かないところで決まってしまう。
「それはおまえたちが」
「なんのことかね。
我々の回復薬の盗んでおきながら。
盗人たけだけしいとはおまえのことをいうんだ」
「嘘だ。おまえたちがわたしの製法をぬすんだんだ!」
「しかし、裁判では我々が勝利したはずだが」
モーガンはぬけぬけとそんなことを言う。
そう、裁判をするのもハミルトン伯爵だ。
モーガンのいうことがすべて通ってしまう。
わたしはモーガンをにらみつけるしかなかった。