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いつか視る夢の先   作者: 秋餅
一章
9/57


まさか手下相手にこんな美形が出てくると思わず、ジェンジーは目が飛び出る程驚いている。


「レンや仲間から報告を受けていたが、ここまで面白い子だと思わなかった。でも、あのジェイフ・ディリクレ子爵と似ているところがあるな。流石親子…。」


「な、何で悪役が親父の名を!?コノヤロー、まさか俺だけではなく親父たちまで手を出したのか!?」


既にニルキアを悪役と決めつけているのか、既に戦闘モードだ。


そんなジェンジーにニルキアは興奮した猪を思い浮かべる。


「心配しなくていいぞ?君の家は何も起きていない。それに俺達は君を助けに来た。この軍服に見覚えはないか?」


ニルキアが着ている軍服を軽く叩く。


「そんな服など知らん!お堅く見せて騙そうなど、そうはいかないぞ!?」



普段、ヴァロン王国の王都付近で暮らしているはずなのに、軍服を見たことない…いや、見ても記憶に留めていないジェンジーはニルキアが着る軍服を知らない。


軍人ではなくても警備隊も似たような格好しているはずなのに、ド忘れてしまっているジェンジーだった。


「本当に野生の猪…いや、可愛いウリ坊だな?警戒しなくていい、早くここを出るぞ?家族が待っている。」


ニルキアにはジェンジーは既にウリ坊と化している。

警戒しているウリ坊に、おいでおいでと優しく手招いた。


ジェンジーはニルキアの隙を狙っているが、中々隙を見せず焦っていた。


『こいつ…あいつらと違い、全然隙がない。それに何だ?何故かこいつは危険だと思えて仕方ない。こんな相手…初めてだ。』


本能がニルキアの怖さを教えてくれる。

普段味わったことがない感覚にジェンジーは焦るばかりだ。


『一度、拳を打ち込めば力量が分かるはず…でも俺、手は仕えても腕は使えないじゃん!どーする俺!?』


自分がまだ縛られている事を忘れていたジェンジーは更に焦りだした。

そんなジェンジーにニルキアはまた苦笑する。


「残念だが、今の君では俺の力量を測ることは出来ないぞ?ここで危ない事をする前に、とりあえず外に出たらどうだ?ああ…その前にほら。」


ニルキアは腰からナイフを取り出しジェンジーに近づいた。


「!?」


近づいてくると思ってすかさずその場をジャンプする。そして考えずそのままニルキアに蹴りを食らわそうと動いた。


それは刃物から己を守るために防衛本能と呼べるだろう。


その蹴りがニルキアに的中するかと思えば…



「…武人としてセンスはある。」


「…あっ。」


ジェンジーが気づけば自分はニルキアの足元で転がっている。


『な…何が起きた?今一瞬で身体に力が抜けた…』


相手に触っていない。触れていないのに何故か身体に力が抜けて地面に落ちた。


「ほらこれで自由だ。」


ニルキアはジェンジーの縛っている縄をナイフで切った。


「…あ…」


まさか解放されるとは思わず困惑するジェンジー。


「顔に殴られた跡があるな?血は出ていないようだが…それに、この匂い…本当に大丈夫か?頭がふらつく事や気持ち悪さはないか?」 


ニルキアはジェンジーから微かに残る薬の匂いに気づき気遣いながら確認する。

その目はまるで医者の様な眼差しだった。


「あ、頭?特にないけど…。」


そんなニルキアについ動揺してしまう。


「迂闊だったな…相手が売買人の娘と聞いていたが、薬まで持ち込んでいたとは…」


険しい顔するニルキアにジェンジーはどうしていいか分からない。


『…この人、本当にあいつらの仲間ではない?』


相手が何者か分からないジェンジー。

すると誰かの名を呼んでいる可愛らしい声が聞こえた。


その声にニルキアは反応し声の先に視線を向ける。


「レン、ここだ!」


ニルキアの声に誰かが倉庫に近寄ってきた。


「ニル、探しました。」


逆光で姿がはっきりと分からないが、その人物の姿を見てジェンジーは再び固まった。


『……え?』


ジェンジーは目を丸くする。


「レン、首謀者は捕まえたか?」


「はい。彼女も彼女の部下も既に縄で縛っておきました。これでカイロスたちが来てもすぐに片づけられます。それより、どうやらご無事でしたね?よかった…あの危険薬を使われているので、正直心配でした。」


「やはり船に薬物はあったのか?」


「ええ。全て薬は海水で処理しましたので安心してください。そして証拠も押収しています。彼女達はこの国で裁かれるでしょう。」


「そうか。それなら早く切り上げてここを出るぞ?彼を検査する必要がある。」


レベンスとニルキアが問答を繰り返している間もジェンジーはレベンスを見て固まっていた。



『…夢…今も夢の中なのか?』


目の前の人物はニルキアと同じ様な軍服を着ているが、どこをどう見てもあの時と同じ人物。


「そうですね。無事とはいえ、何かしらの影響があるかもしれません。…ディリクレ子爵令息、お身体は如何ですか?」


ジェンジーの前にレベンスはしゃがみ込み心配そうに見つめている。

その顔は夢で何度もみた顔。


『…そうだよな?…彼女が俺の前にいるなんて、夢以外ないよな?』


何度も夢を視ては、起きて夢だと知り落ち込む日々。

数十日とはいえ、ジェンジーはこの顔に一喜一憂していた。


「あ…はは…やっぱこの夢すげー強烈だわ?今の俺、まだ水路で眠っているのかも…。」


記憶があるのは水路までだ。そこから気を失っている。

だから今ここ要る天使が夢だとジェンジーは思った。


「まだそういう事を言うのですか?んー。えい!」


レベンスは現実逃避しているジェンジーの頬の肉をグイっと引っ張った。


「い゛へへへへっ、や、やめへー!?」


「どうですか?痛いでしょう?これは夢ではありません。」


きゃいきゃいとレベンスは楽しそうにジェンジーの頬っぺたを伸ばす。


「わひゃったから!ほんどにい゛てー!やめほー!?」


「レン、お転婆が過ぎるぞ?止めてやれ。」


ニルキアの一言にレベンスは素直にやめてジェンジーの頬っぺたを離した。


「すまんな?うちの仔兎がお転婆すぎて…痛かっただろう?」


「てて…お転婆でこの力?凄くね?」


「ふふっ。薬に負けていないか確認してみました。ついでに勘違いもされているのでお目覚めコールです!」


レベンスにやられた頬を必死に撫でるジェンジーにレベンスは悪げもなく言った。

“勘違い”と言われジェンジーは首を傾げるが、二人の会話が続いて切り出せない。



「お目覚めコールにしては激しいな?」


「そうですか?では、今度はニルキアにもしてあげます。楽しみにしてくださいね?」


「寧ろ俺がお前にしないといけないやつだろ?お前は目覚めが悪い。次はそれで起こしてみよう。」


えーと不満そうにレベンスはニルキアに文句を言っている。


側から見ると甘々な恋人同士のやりとりに見える。


実際、最強の二人が行うモーニングコールは決して甘くない。

それを知っている者は被害を受けぬ様に避難するが、知らぬ者だと『このリア充め、爆発しろ!』となる。


案の定、ジェンジーは大きくショックを受けていた。


『…はは…これが夢じゃなくても、俺にとって悪夢だな?』


美男美女の仲睦まじい姿。


一人はずっと夢に見る程、恋焦がれていた少女。


…そんな相手にやっと会えたというのに。


既に恋焦がれていた少女には相手がいた。


『そりゃそうだよな?こんな超可愛い子ちゃんだもん。相手だって、それ相当な美形だし…第一、会えたとしても、付き合えると思うなんて身の程知らずだよ?』


ここまで大ショックを受けたのはジェンジーにとって初めてだ。

女性に振られても、へこたれず次へとアピールしていたジェンジーはポジティブのようで軽い。

だけど、今回かなり立ち直れない程のショックを受けたジェンジーにとって、ある意味本当の恋だった。


「ほら、またレンがおいたをするから。…被害者が出たぞ?」


「だから先ほどお目覚めコールをしたのですよー?」


レベンスは口を尖らせて言い訳するが、ジェンジーのダメージはとても大きい。


「ディリクレ子爵令息、聞いてください。」


「…はえ?」


おもむろに真剣な表情をしたレベンスは、魂が抜けたジェンジーに詰め寄る。


「貴方は私を女性と思っているでしょうが、誤解しています。」


誤解?


なんのことやらと、魂が抜けたままのジェンジーはゆっくりと首を再び傾げた。


「このような所で申し訳ありませんが、自己紹介をさせて頂きますね?」


そう言ってレベンスは魅惑的な笑みを浮かべ微笑む。


「ジェンジー・ディリクレ子爵令息、私はヴァロン王国第三王子、レベンス・フォン・ヴァロン。軍を総括する総大将を担っております。どうぞお見知りおきを。」


優雅に一礼する姿にジェンジーは一瞬で石化させられてしまう。


「…レン。本来は目上から先に挨拶するのはマナー違反だぞ?特にお前は王族だ。頭を下げる相手は同じ同列たちば以上のみ…まだ教育が足りなさそうだな?」


石化するジェンジーを置いてレベンスのマナーに頭を抱え指摘するニルキア。


「うーん。私は別に王族だと思っていませんから、いいではないですか?」


「馬鹿。また国王が煩いだろう?」



ジェンジーの前で再び二人は戯れあうが、今度は嫉妬する様な事はなかった。



「…お、お、お…おうじ?」


ジェンジーが震える声で聴き返すと、レベンスは反応して頷く。


「王子など私にとって何も価値がありませんが、一応王子です。だからと言って畏まらないでください。砕けた話し方が私は嬉しいです。」


仲良くしてください!と魅惑的な笑顔で微笑む兎姫だが、今のジェンジーには何も感じない。



『…確かに容姿だけじゃなく、仕草や雰囲気が普通見る貴族よりも桁違いに違う。ずっと上級貴族の子だとは思っていたけど、まさかの王族…。』


王族と交流できるのは伯爵以上の身分だけ。

ジェンジーは子爵令息とはいえ、子爵家の身分で王族に会う事は全くと言っていい程ない。

爵位を持つ当主や使用人、騎士を務めている者なら見かける事ぐらいはできるが…殆どまともに挨拶を交わす事はないだろう。


だからジェンジーは国王ぐらいしか王族を知らなかった。


『第三王子って、あの戦神と称えられた噂の第三王子だよな?たしか僅か10歳で初めて戦に出て勝利に導いた英雄。そしてここ度々攻めてくる大国エヴィリスの傘下国の軍を次々と沈めていった…この国一番の最強王子。』


「うーん。レンは最強王子というよりも、最強仔兎だな?特に兎キックは強烈だぞ?」


ジェンジーの思考を読み訂正するニルキア。

だが、本人は聞いていない。


『そんな最強が…目の前に…信じられるか?千歩譲っても信じられないだろう?だけど…一番信じられないのは…。』


もう一度、ジェンジーはレベンスを凝視する。


世にも見た事がない超美少女顔。


顔だけではなく、頭から足までどこを見ても綺麗で可憐な高級人形。


声も仕草も男の理想を詰め込んで作ったような最高級美少女。


『こんな最高級美少女が王女なら分かる…王女なら…。』


段々現実が分からなくなっていくジェンジーにレベンスは止め一撃をお見舞いする。


「残念ですが、現実です。私は“王子”ですよ?」


王子=男。


そう強調するレベンスにジェンジーは青褪め次第に意識が遠くなっていく。


「恋…した相手が…お、おとこ…」


バタンッ


とうとうジェンジーは気を失ってしまった。



「…気を失う程、ショックだったようだ。日々日々に魅了が増していると思っていたが少しは自重できないか?このままだとこの国が危機に陥る。」


「ニル…私を危険薬扱いしていますね?ならば髪を切りますか?それで多少王子らしくは見えるでしょう。」


ジト目の兎姫は「容赦なくバッサリと切りますよ?」と脅す。


「それは絶対に駄目だ。お前は長い方が可愛い。」


「…ぷぅ。」



女性に見えるから少しでも男らしくしたいのに、飼い主が許可をしない。

そんな身勝手な飼い主に兎姫は頬を膨らました。

なんだかんだとレベンスの魅力を高めているのは飼い主。飼い主の日々の賜物だ。


「…ん?どうやらカイロスの軍が来たようだな?」


外で何かと騒がしくなっている。

どうやらカイロスの隊が動いているようだ。


「ええ、私達も彼を連れて帰りましょう?」


「そうだな。とりあえず近場の基地にある医務院に連れて行くか。」


「はい。」


二人は気絶したジェンジーを連れて外へ出た。

その後は後処理をカイロスに任せ、軍の拠点地へと向かった




・・・・・



辺りは暗くなった頃。



「…ん…こ、ここは?」


ようやくジェンジーが目を覚ました。


起き上がると見知らぬ風景。

でも、こういう風景は見た事がある。


「…医院?」


ジェンジーは周りを見回すとそこは病棟。


「…どうして俺…ここに?」


「それは検査と治療をする為に来たからですよ?」


ジェンジーの質問に答えながら誰かが部屋に入ってくる。


「気分は如何ですか?」


レベンスは再び微笑んだ。


「最悪です!」


ジェンジーは一気に全てを思い出したのか、顔色を真っ青にして言い放った。


それを聞いたレベンスは一瞬目を点にしたが、すぐに笑顔になり楽しそうにクスクスと笑う。


『お、思い出したー!俺は捕まって…それから…それから…』


「敬語は使わなくていい。君の性分を見ると敬語は苦手だろう?」


続いてニルキアも部屋に入ってきた。


「そうです。私もニルも畏まった事は好きではありません。」


「だけど…」


相手は王族。

恐らくニルキアも高貴な貴族だとジェンジーは悟る。


『こいつらの佇まいは俺やネス達みたいな様なものではねぇ。それにこうして話しているだけなのに凄いプレッシャー、これは親父の元にくる貴族とは全然違う。』


今まで恋に盲目的だったが、改めてジェンジーは二人の存在を認識する。


「しっかりと警戒されているな?」


「うーん。この会話で私達を測る冷静さは流石です。きっと鍛えればいいものになりそうですね?でも…ニル、例のものは出来ましたか?」


警戒心丸出しのジェンジーに二人は感心しているが、レベンスはそれを予測したうえで有る企みを用意した。


「勿論。」


レベンスの企みを知っているニルキアは悪戯顔の兎姫に応える。

悪い顔は飼い主も同じだ。



「な、なに…をするつもりだ!?」


ジェンジーは二人から逃げるように後ろに後退りをする。


「それは秘密…と言いたいところですが、はっきり申し上げましょう?今から私達が貴方に魅了の魔法をかけます。」


「…み、魅了!?」


魅惑的な笑みで誘うようにレベンスは人差し指をジェンジーに向ける。

その仕草にジェンジーは一気に顔を赤らめるが、すぐに首を振ってより警戒心を強めた。


『ふ、ふざけんなよ?やはりこいつらも信用できない奴だったか!?』


ジェンジーは抵抗しようと構える。

だが、二人はそんなジェンジーを楽しそうに見ていた。


「ああ、是非堪能してくれ?」


ニルキアは片手を上げ、指をパチンッと鳴らす。

すると何かが部屋に向かって来る。



「な…なんだ?」


逃げようとしてもレベンスがジェンジーの手を掴み逃げられない。


「ふふっ…今の貴方では抵抗は出来ませんよ?素直に身を委ねてください。」


レベンスの甘い声にジェンジーは余計に焦る。

どう打開するべきかと考えると同時に『何か』が部屋に入ってきた。


それを見たジェンジーは酷く目を驚かせる。


「こ、これはー!?」


ジェンジーの驚く声が部屋中に響いた。


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