悪辣令嬢エレノアは牧場暮らしをする!
日常回とまでは行きませんが、人の生活を描くのは難しいですね。
ルドガーの家に着くと、娘のリアが先に帰って来ていたようだ。
先程の話だと、リアも牧場でドラゴンの世話をしているようだ。
まだ幼さが残る十歳の子供が、あのドラゴンたちの世話しているのかと思うと末恐ろしい。
リアは髪が綺麗な栗色をし、頭の両方に小さく結っている。子供らしい可愛い髪型だ。
しかし私と同様に燻んだ緑色の作業着をその小さな体に纏っている。
その姿は私より遥かに逞しく思えた。
「...お、おかえり...なさい...」
小さく呟くような声で彼女は私たちの帰りを迎えてくれた。
「ごはん、できてるよ...」
「そうかッ!用意してくれて、ありがとうな」
ルドガーはリアの頭をくしゃくしゃと雑に撫でる。だが、リアは嬉しそうに笑っていた。
そこには親子の絆が確かにあるのだろう。
私は二人のやり取りを見て、微笑ましくもあり、また複雑な気持ちにもなった。
きっと私にはこのように褒めてくれたり、頭を撫でてくれる人はもういないのだろうから。
リアは食事の準備をしに台所へと戻っていった。
「リアの母親...つまり、俺の妻だが、五年前に流行病で他界してな。それからはずっと二人きりだ。最近ではアイツも料理をするようになって...これが美味いんだよ!」
ルドガーは自分の事のように...それ以上に自慢気に私に語った。
おっと話過ぎたな...とルドガーが呟くと、私を家の二階に連れて行く。
二階の突き当たりには梯子が掛かっており、屋根裏へと続いているようだ。
「狭くてすまないが、この屋根裏がアンタの部屋になる。ちょうど最近整理をしてな...屋根裏だが広いし問題ないと思うんだが...」
梯子を登り、屋根裏を覗くと確かに物も無く整理されていた。広いかどうかは正直分からなかったが、人一人が住むには不便はしない広さだ。
「さすがにベッドは無いからな...後でリアと二人でハンモックでも付けてくれ。オレはこの足だから登れないしな」
私は自分の荷物を改めて、屋根裏に置く。
荷物が少ないから屋根裏の空間は空き放題だった。
「次はその服だな。作業着はあとで纏めて洗濯するから後で渡してくれ...おっと!洗うのはオレじゃないから安心してくれ。それ専用の業者に発注しているからな」
ルドガーは自分に配慮が足りなかったのかと思ったらしく、慌てて弁解した。
「わかりました。色々ありがとうございます...あと一つ宜しいですか?」
私は言い出しづらかったが、ここまで来たら言うしかない。
「お風呂に入らせて頂いても...?」
ルドガーも私の姿を改めて見て、先にそっちだったな!と豪快に笑った。
部屋の一階に戻り、浴室に向かう。
「湯は沸かしてある!あとは好きに使ってくれ!」
ルドガーはそう言い残すと、すぐに立ち去った。
どうやら一応、若い娘に気を使ったらしい。
私も早く汚れを落としたかったので、浴室に入り泥と疲れを落とした。
浴室から出て、屋敷から持ってきていた室内用の白いワンピース風のネグリジェに着替えた。
「お風呂先にありがとうございます...」
私は二人のいる居間に顔出すとルドガーもリアも驚いた顔して私を見つめた。
「きれい...」
リアは私を見つめてそう言った。
どうやら、このような服が珍しいのだろう。
一方でルドガーは、
「な、なんちゅう格好してるんだッ!」
随分と取り乱している様子だった。
「...と言われても、私は今これしか持っていませんし」
「ーーーーーーー」
もう夜も更けて室内も暗いので、定かでは無いがルドガーの無骨だが精悍な顔が紅くなった。
その表情を見て、急に私も恥ずかしくなる。
どうやらこの瞬間だけはルドガーに"女性"として認識されたようだ。
「な、なにか羽織ってくるわッ」
私は急いで自室の屋根裏に向かった。
自分の荷物から膝掛けを出す。これを羽織ればちょうどいいだろう。
しかし今日は色々な事があった。
屋敷から追い出されたその日に、ドラゴンの世話で右往左往する事になるとは。
少しばかり疲れたな...
「エ、エリスさん!」
私を呼ぶ声がした。
はっとして飛び起きる。
「このままだと風邪を引いちゃいます...」
どうやら私は屋根裏の床で寝てしまっていたようだ。
「お父さんからハンモック貰って来ました」
そういうとリアは屋根裏の柱にハンモックの紐を括り始めた。
私も手伝おうとしたが、取り付け方が分からず足手纏いのようだ。
仕方ないのでやり方を教わりつつ、今日のところはこの子に付けてもらうとしよう。
「ごめんなさいね。急に押し掛けるような形でこの家に住まわせてもらって」
私はリアに申し訳ない気持ちだった。
かつて私も、父親が知らない女を連れてきて「今日からお前の継母になる女だ」と言われた時は酷く動揺した。
今回、私は嫁ぐ訳ではないが...この子にとっては家に突然異物が入り込んだことに変わりはない。
「...いえ、お父さんはいつもの事ですよ。いつだって自分のところのドラゴンじゃない子を拾ってきては面倒を見てるんです」
どうやら私はドラゴンと同じようだ...
「あははは、優しいお父さんですね」
「そうなんですよ!迷子は放っておけないみたいなんです!」
リアは自分の言葉にはっとして「ごめんなさい」と私に謝った。
しかしそれは間違いではない。
私はたぶん...迷子だったのだと思う。
「あなたたちには感謝しかないわ...ありがとう、リアさん」
私はこの小さな女の子の手を取り、心からの感謝を送った。
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