悪辣令嬢エレノアはドラゴンのお世話をする!
続きです。良かったら見ていってください!
ルドガーが外に出ると歩いた先にはバケツとブラシが大量に保管されている倉庫だった。
「こいつを持ってくれ」
「...はい」
私がバケツとブラシを片手ずつに持つとルドガーは翼竜たちが集まっている辺りに歩みを進める。
どうやらここは翼竜たちの水飲み場のようだ。
「コイツらの体をそのブラシで洗ってやってくれ!」
「えっ、えーーーーーっ!」
私はつい、驚きで叫んでしまった。
そこには馬よりも一回り以上大きい体と両手に大きな翼、鋭い鉤爪の生えているドラゴンいる。
正直、少し...いや、だいぶ怖いのだけど。
「この種は翼竜種ワイバーン。帝国の精鋭、翼竜騎士団に用いられるドラゴンさ!コイツらは比較的人間に懐きやすい。ましてや俺が世話してるドラゴンだから襲ったりしねーよ!」
「で、でも...」
いきなりそんな事を言われても、怖いものは怖い。
「"習うより慣れよ"だ!実戦あるのみ!」
そう言うとルドガーは私の背中をどんと押した。
ワイバーンがこちらを睨んでくる。
私は恐る恐るブラシを掴み、ワイバーンの体をブラシで擦る。
すると、ワイバーンは気持ちよさそうに目を瞑り、その場に横になった。
「おっ!うまいじゃないかッ!」
「そ、そうですかッ!」
私は嬉しくなり、ブラシで強く擦ってしまった。
どうやら驚いたワイバーンはいきなり飛び上がり、翼を広げて威嚇してきた。
『グァァァァァァッ!!』
私は急に叫んだワイバーンに驚き、後ろに転んでしまった。
転んだ先には泥溜まりがあり服が泥だらけになってしまった。
その姿を見たルドガーが慌てている。
「大丈夫かッ?!すまなかった、始めから着替えをさせておけば良かったな...」
私は泥塗れになった服を着替えにルドガーの家に戻った。
ルドガーに案内されると家の中にある一室にたどり着いた。
そこの中には、牧場で使うであろう道具が雑然と並べてある。
壁には様々な大きさの作業着、いわゆるツナギが保管されていた。
「これなんかどうだい?」
渡された作業着を服の上から当ててみる。
どうやら少しばかり大きいようだが、問題は無さそうだ。
私は汚れた衣服を脱ぐ。
「お、おい!服を脱ぐなら言え!今出て行くから!」
ルドガーの発言で私も我に帰る。
男の人がいるのに無闇に服を脱ぎ、肌を晒してしまった。
恥ずかしさで顔が紅くなり熱を帯びる。
「ご、ご、ごめんなさいッ!」
私が一言謝ると、ルドガーは部屋を出ていった。
着替えた私は鏡を見る...
あまり着慣れないが、作業着姿の私が映る。
燻んだ緑色の作業着に、母譲りの金髪...私の自慢の長いこの髪は今の格好にあまり相性が良いとは言えず、なんだかチグハグな感じの印象だ。
だが何故だろう?もう、そういった事を気にしなくて良いのかと思うと気が楽になった。
着替え終えると、私は長い髪を後ろに束ねてから部屋を出る。
おっ、いいじゃねーか。とルドガーは私に言い、改めて外に出た。
先程のブラシを持ち、バケツに水を入れ、再びワイバーンの体にブラシを当てる。
慎重に、丁寧に洗う。
「...終わったーーー」
あれから1時間近くは経っただろう、慣れない事をして体力をだいぶ使ってしまったが、ワイバーンが気持ちよさそうに飛ぶ姿を見るのは嬉しかった。
「まだ終わりじゃないぞ」
私の目の前には二匹のワイバーンが待っていたのだった。
「えッ!まだやるの?!」
「そりゃあそうさ!ハハハッ!それにこの後は餌やりもあるぞ」
もう私の体はヘトヘトだったのだが...
どうやらルドガーは容赦が無いようだ。
だが此処で働けなければ、また行く宛もなく彷徨うことになる。
「わかりましたッ!いくらでも来なさいッ!」
私は作業着の腕を捲り、気合を入れる。
「ガハハハッ!良いねぇ嬢ちゃん!そう来なくっちゃ!」
そんな私を見てルドガーも大いに笑う。
子供扱いをされたような気がしたが...今は気にしない事にした。
残り二匹のワイバーンのブラシ掛けもひと段落し次の仕事に移る。
牧場内にある小屋に入りるとそこには小さなドラゴンたちがいた。
数にして十数匹、そのドラゴンたちは桃色の体色と鳥の様な羽を持っていた。
「コイツらはフェアリードラゴン。小さくて可愛らしい見た目だが、これでも成体だ」
その小さなドラゴンは人間の子どもと同じくらいかそれより小さい。
少なくともルドガーの娘、リアよりは小さかった。
「コイツらは普段娘のリアが面倒見ている。だが今は人手が足りなくてリアは他の種のドラゴンの世話で手一杯だ」
『ピギャァ』
フェアリードラゴンの高い鳴き声はワイバーンとはまた違い、随分と愛らしい。その見た目と相まって私はついつい見惚れてしまった。
「コイツらは女性人気の高いドラゴンだ!牧場見学にくる王族、貴族の奥方たちが愛でにくるぞ」
確かにこの姿に女性は心を射止められるだろう。
そのぐらいには愛くるしかった。
「よし!こいつを持ちな!」
ルドガーは私に壁に掛けてあったバケツを一つ手渡した。
「そこに木箱があるだろう?その中の小型竜種用フードをバケツに入れて、コイツらに与えてくれ」
ルドガーが言ったように小屋の隅には大きい木箱があった。
箱を開けると茶色い固形状の粒がある。一つ一つは小石より更に小さい。
私はそれらをバケツの中にいれフェアリードラゴンの元に駆け寄る。
『ピギャアアアアアア』
『ピギャピギャッ』
『ピギャギャギャ』
バケツの中が何か既に分かっているようだ。フェアリードラゴンは一斉に私に飛びつき、ワイバーンの時に続き、またもや私は転んでしまう。
そしてバケツはひっくり返えり、私は餌を上から被ってしまった。
フェアリードラゴンは私の体にかかった餌を目掛けて突進してきた。
そして私は愛くるしいドラゴンたちに揉みくちゃにされたのだった。
フェアリードラゴンたちの世話が終わると辺りは夕暮れ時になっていた。
私の髪や服はドラゴンたちの唾液と餌の食べ残りで汚れてしまっていた。
「お疲れさん!今日はこの辺にしておくか!」
「終わったぁ...」
私の体力は底をついた。
もうこれ以上は何も出来ない。
「ガハハハ!疲れただろう!あとはゆっくり休みな!」
私とルドガーは牧場にある家に帰る事にした。
こんなにも満身創痍になったのに、不思議と心は満たされていた。
ここまで見て頂きありがとうございます。
良かったら感想を頂けると嬉しいです。