悪辣令嬢エレノアがドラゴン牧場に就職?!
続きとなります。
良かったら見ていってください。
私は屋敷を後にして、城下町に出た。
町を歩いていると、壁に一枚の紙が貼り出されていた。
『追放された"悪辣令嬢"の実態?!貴族の闇を此処に暴く』
紙の中には、ある事ない事が書かれている。
どうやら私はここでも悪役のようだ...
周りに人が居なくなり、急に泣き出しそうになった私は、荷物を抱えて走る。
もう何処かに消えてしまいたい。
脇目も降らずに走った...
すると、私の前に人が通り掛かった。
慌てて止まろうとするが間に合ない。
私はその人にぶつかり転んでしまった。
「ぐわッ」
相手は鈍い声で小さく叫ぶ。
「だ、大丈夫かしら?!」
相手の方を見ると、そこには年の頃三十前後くらいの筋骨隆々な大男が倒れていた。
私がこの方を倒したの?!
いくら走っていたとはいえ...
しかし、よく見るとその大男は松葉杖をついており、足には包帯と当て木がされていた。
どうやら足を怪我しているようだ。
「あ、あんた...見てないで起こしてくれ」
大男は私に助けを求めてきた。
私は我に帰り、慌てて大男に手を貸す。
「危ないだろ。前を向いて歩けよ...」
大男の言葉に少しばかり怯む。
私は急に感情が抑えられなくなり、泣き出した。
「うぁッ!す、すまない!俺も悪かった!」
大男は取り乱しながら私に謝る。
だけど私の涙は止まらない。
心の何かが決壊したように涙が溢れた。
しばらく泣きじゃくると涙が出てこなくなる。
どうやら私の中の涙が底をついたようだ。
「大丈夫かい...?」
大男は心配そうに私に言葉をかける。
「すみません...もう大丈夫ですわ」
私はせめてもの謝罪と思い、父から渡された路銀を大男に差し出す。
「怪我を悪化させたかもしれません。治療費に足りるか分かりませんがこちらを...」
大男は私の姿をじっと見つめる。
少しばかり照れ臭い。
きっと泣きじゃくった顔は酷いだろう。
「金なんか要らないよ。それより見たところ、アンタ貴族の娘かい?訳ありみたいだな...行く宛はあるのかい?」
「...いいえ」
私が短く答えると、大男が腕を組み何やら考えごとをする。
「よしッ!あんた行く宛が無いならウチに来て手を貸してくれないか!ちょうど、人手が欲しかったところだ!」
大男はにこやかな笑顔で私に言った。
大男に連れられるとそこには広大な牧場が広がっていた。
帝国の中にこんなに広い土地があった事に驚きだ。
私が牧場の景色に圧倒されていると、上空から生き物のような声が聞こえた。
『ギャアァーーッ!!』
それは大きな翼を広げて地上に舞い降りた。
そう、この国の国旗にも描かれる存在。
...ドラゴンがいた。
「ここは何なのですか?!」
「ここはドラゴンファーム、オーランド牧場だ!」
大男は誇らしげに笑いながら言った。
牧場の敷地内にある大男の家に私はいた。
「改めて、俺の名はルドガー・オーランド。この牧場の二代目さ!」
ルドガー・オーランド。
この牧場の所有者でドラゴンたちの主人だったのだ。
ドラゴンは帝国に取って重要な存在だ。
かつてこの国が魔物の群れに侵攻された時に、若かりし頃の現皇帝とドラゴン使いたちが協力し、侵攻を退けた。
故にドラゴンは帝国の象徴となった。
現在は、戦争も無くなり、ドラゴンたちは王族たちの計らいで帝国の各地で保護されていた。
「ウチの先代...俺の親父だが、皇帝と戦場を共にした仲なんだぜ!」
ルドガーは自慢気に私に語り聞かせた。
「そういえば、嬢ちゃんの名前聞いてなかったな」
「私の名は...エーーーーー」
自分の名を言おうとし言葉を飲み込む。
ここでエレノア・フォンブラウンだと明かせば、立ち所に追い出されるだろう。
今は行く宛も無いのでそれは少し困る...
「エ、エリスよ!」
咄嗟に考えた偽名を使う。
「エリスか!よろしく!」
「こちらこそ、よろしく...」
仕方がないとは言え、偽名と素性を騙ったことに罪悪感を感じるからだろうか、私の口から出る言葉はぎこちなかった。
そしてこのルドガー邸にはもうひとりいる。
ルドガーの背中の後ろに小さな女の子がいた。
「こいつは俺の娘のリアだ!今年で十歳になる」
「...」
ルドガーの娘、リアは私に警戒しているようだ。
怯えた表情でこちらに視線を向ける。
私がリアの顔を確認しようとするとルドガーの背中にすっかり隠れてしまった。
「おい、ちゃんと挨拶しろよ!」
ルドガーがリアをたしなめる。
すると、リアは渋々と顔を出し口を開く。
「リア・オーランド...十歳...」
リアが自己紹介を終えると走って何処かへ行ってしまった。
どうやら少しばかり人見知りらしい。
だが無理もない、突然家に見知らぬ女がやって来たのだ。警戒もするだろう。
「嬢ちゃん、行く宛が無いなら一つ頼まれてくれないか?」
「...なんでしょうか?」
私は不安な気持ちで聞き返す。
どうやら私の身なりで貴族ということは分かっているようだけど...金銭など要求されても私にはどうする事も出来ない。
しかし、恐らくこの男、ルドガーはお金など要求するような性格ではないだろう...と思う。
「実は今この牧場の人手が足りないんだ。いつもなら人を雇っているが、雇っていた連中が長期の休みやら家業やらで来れなくなってな...俺もこの足だし、ドラゴンたちの世話をする人間を雇いに町に出向いたところだったんだ」
ルドガーは困ったように頭を掻きながら私に言った。
「それでどうだい?寝食屋根付き、住み込みでしばらく働いてくれないか?」
家を追い出された私からしたら願ったり叶ったりだった...と思いたいが、ドラゴンの世話か。
「ありがたい申し出ですが...私に務まりますか?」
「大丈夫だよ!俺が一から教えてやるから!」
ルドガーの表情は明るくなった。
どうやら余程困っていたようだ。
不安はあるが、私も背に腹は変えられない。
ここを出ても行く先があるとはかぎらないのだから...
「じゃあ早速、仕事をしてもらおうか!」
ルドガーは上機嫌に家の外に向かって歩き出した。
ここまでありがとうございます。
続きをかけるように頑張ります!