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第5章 アイドル・ダンジョン 異常あり  作者: みーたんと忍者タナカーズ
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「ねえ、風花、渡辺さんって同じクラスだったよね」と夏花は聞いた。

 風花と夏花は同じ中学で同じクラス。

「私、あんまり覚えてないんだよね………………」と風花。

「わたしも記憶が曖昧なんだよね。あんな子いたっけって感じ………………」

 風花は中学時代の小町のことは全然記憶がない。

一緒のクラスだったことすら覚えていない。

途中から転校したせいなのかとも思ったが、ずっと福岡の中学に通ってた夏花が記憶にないのだ。

それは相当地味で、全然目立ってなかったとしか思えない。


クラスにいる地味な渡辺小町と、アイドル渡辺小町がどうしても重ならない。

かたや売れっ子アイドル渡辺小町。

オタクでなくても何となくは知っているアイドル。

かたや風花といえばメディアに取り上げられることもほぼ皆無。

SNSに発信し続けても無視される存在。


でもアイドル神無月風花のファンとして通ってきていた小町のことはよく覚えてる。

アイドル渡辺小町とはまったくの別人という印象しかない。

おっかけ小町は数少ないファンの中でいつも最前列にいたから忘れるはずがない。

でもアイドル渡辺小町とはあまりにも印象が違いすぎる。

少なくともアイドル渡辺小町は光の中に住んでいるとびっきりの女神。

実際に風花がアイドルだった頃には一度も会うことはなかった。

それぐらい遠い存在に見えていた。

アイドル時代はそれなりに気にはかけていた。

というより情報の方から飛び込んでくるのだから仕方ない。

無視できない圧倒的な存在感とオーラ。

だから中学時代の小町とファンの小町が重なるはずもなかった。

全くの別人だからだ。

それほどアイドル渡辺小町は自信に溢れていたのだ。

逆にアイドル小町と自分のファンだった小町が繋がったのはつい最近のこと。

クラスの隅っこで地味でさえない女の子。

壁の花というより、存在感ゼロ。

誰からも気にもかけられていない空気のような生き物。

本当に同じ渡辺小町なの?

初めて声をかけてきた時の小町はそのまんまアイドル渡辺小町だった。

しかし輝いていたのは一瞬。

線香花火のように消えてしまった。

今では、アイドル神無月風花のファンの一人だった地味でさえない小町に戻っている。

中学時代もこんな感じでクラスに潜んでいたのだろうか?

気配を消し、誰にも認識されないほど地味でいるなんて、くのいちみたい。

ファンの小町は今以上に地味だった。

ただ主張だけはし続けていた。

私の推しTシャツに推しパーカー。

誰が着るのと私ですら思うようなデザイン。

前面に私のアップの顔写真。

背中に「ふうか」の文字入りの推しTシャツ。

その上に羽織るのは、背中に「神無月風花」の文字が縫い込んである推しパーカー。

恥ずかしいから街でそんなパーカー着ないでほしい。

せめてチャックはしめてよね。

私の顔写真だけは隠してほしいから………………。

ペンライトをはちまきに何本もさして、お地蔵様のように見つめてた。

いつもモジモジして、ただ手を差し出すだけの握手会。

私が声をかけても相槌を打つだけだった。

そのくせいつも最前列に立っている。

大声を張り上げることもなく静かに黙って聞いていた。

目の前に咲いているのに気がつかないような壁の花だった。

だからいつ来なくなったかもよく覚えてない。

推し変したんだろうなと思った頃には、私はアイドルをやめる決心がついていた。

寂しい想いをした記憶すらない。

遂に私のアイドル生活も終わったんだと認識する程度の存在だった。

だから気がつかなかった。

アイドル渡辺小町がファンの小町だったとは………………。

アイドル活動から気持ちが離れていた頃、なんとなくアイドル渡辺小町が中学時代の同級生だと言う話を聞いた。

ただそのあと卒業アルバムすら確認すらしてなかった。

そこで中学時代の卒業アルバムを夏花から借りることにした。

そう、風花は同じ中学を卒業したわけではない。

途中でアイドル活動のために上京したからである。

夏花は中学時代の卒業アルバムを持ってきた。

風花はアルバムをめくり、渡辺小町を探す。

どこにもいない。

「えっ?どの子」

いやいないんじゃない。

みんなの集合写真の中にいないだけ。

夏花は写真の上の方を指差す。

テレビのワイプのように一人だけ写った女の子。

それが渡辺小町だと夏花は言った。

地味だ。

やっぱり学校に来てなかったのだろう。

渡辺小町の写真だけ別になっていた。

暗く地味な感じは変わっていない。

そしてやっぱり私のファンが渡辺小町だったとその時確信したのだ。

アイドルなんて大嫌い。

そもそも全く興味も無かったし、好きでもなかった。

事務所に声をかけられた時は間違いなく嬉しかった。

でもアイドルになると聞いて、少し躊躇った。

「私、アイドルに詳しくないんです」

そう言っても、「君をメインにしたアイドルグループをつくりたいんだ」と説得され、ただそれに従った。

最初から戸惑いしかなかった。

それでも我慢してアイドルを続けてきたのだ。

どんどん私が私じゃなくなっていく気がしていた。

風花が思い描いてた自分と全然違うアイドル神無月風花。

葛藤の日々は忙殺されるはずだった。

仕事に追われていたのなら、きっと悩むことすらなかったはずである。

結果も出ないとさらに追い詰められた。

アイドルとして売れたかったわけじゃないのに、どうして責められるの?

心だけがすさんでいく。

でも売れないといけないと思っていた。

だからアイドルを卒業できてせいせいしている。

二度とアイドル時代のことは思い出したくない記憶。

楽しいこともあったはずなのに、辛いことしか思い出せない。

だから全て消してしまいたい。


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