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第5章 アイドル・ダンジョン 異常あり  作者: みーたんと忍者タナカーズ
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小町はいつも窓から外を見ていた。

高校デビューを飾るはずだったのに、そんな夢はあっという間に消えてしまった。

もし天狗になっているという言葉を私に当てはめるとしたら、アイドルなんだから、クラスの人気者になれるでしょと思ってたことぐらい。

実際は勘違いだったけど……。

やっぱり元々そういう才能のある子には叶わない。

人気が出て少しだけ自分に自信がモテたけど、所詮は私は根暗な人見知り。

性格は陰湿だし、いつまでも引きずるタイプだし……。

切り替えがどんどんできるような風ちゃんとは全然違う。

自分で自分のことがそれほど好きじゃない。

努力が嫌いですぐに根をあげちゃうし、しないことの言い訳ばかり探してるタイプだし、ブサイクだし、嫉妬深いし、取り柄なんてどこにもないと思ってる。

それでもうまくいってる人を見ると嫉妬してしまう。

失敗しないかと強く願ってしまう。

いじめられると、自分より不幸なことがおきればいいのにと思ってしまう。

私の場合、心の中でSOSを発信してたけど、ほとんど自分の中で押し殺してしまった。

なんだろう、親に心配をかけたくなかった。

自分でなんとかしたかった。

辛いのは我慢すればいいと思ってた。

そして自分の我慢の限界を超えてしまった。

両親にしてみれば突然起こったハプニング。

でも私はずっと前から悩み続けていた。

本当、不登校でいることを許してくれた親には感謝している。

あのまま学校に通ってたら、私はきっとおかしくなってたと思ってる。

親が世間体を気にしなかったことだけが救われた。

見えないところで心配をしてたかもしれないのだが、そこに目をつぶっていてくれたことは感謝している。

あの時無理やり学校に通わせていたらと思うと、ゾッとする。

一度レールを外れると安定した人生を送れないと誰もが信じてるし、それが自分の子供ならなおさら強く思うはずだ。

普通に考えるとドロップアウトするデメリットは大きい。

だからこそ心配し、強制するのだろう。

結果的に私はうまく乗り切れたのだが、みんながそううまくいくわけじゃない。

今でも時々ハッとなる。

もしアイドルという一つの道を見つけてなかったら、今も自分は引きこもってたはずである。

だから本当はそういった環境に入れることに感謝しなきゃいけないはずである。

でも私の根っこは陰険なやつなのだ。

自分がやっと掴んだ居場所を奪われるのは許せない。

だからこそ世田谷さくらには嫉妬してしまう。

仲良くしなきゃとさえ思えない。

残念ながら万人に救いの手は降りてこないのだ。

私は蜘蛛の糸を下からの昇ってくる連中は足で蹴り落としてしまう。

そんな性格の悪いやつなのだ。

自覚しているからたちが悪い。

でも元々こんな性格じゃなかったんだからね。

いじめにあって引きこもり。

人が嫌いになってしまった。

私は普通に学校に通っていたかったのに、私から楽しい学園生活を奪ったのは誰?

クラスメイトじゃない。

それで人を恨むなと言う方が無理がある。

これでも優しい子だったし、人見知りだけど仲良くなれば明るい子だったのに……。

そんな心の弱さをみんなは察してしまうのだろうか?

私は高校でもクラスの人気者になれなかったことを自覚してしまった。

人気者になりたかったの?

自分に問いかける。

そんなことはない。

元々目立つのが嫌いなタイプなのだ。

じゃあ、今の自分のままでいればいいじゃない。

でもアイドル渡辺小町が根暗な女子高生でいいはずがない。

高校デビューのチャンスにかけたのだ。

もうクラスの隅で息を殺す日々は嫌だ。

やっとあの退屈な部屋から抜け出してきたんだよ。

ひとりぼっちで過ごすだけの毎日。

ネットの向こうに誰かがいるのは分かってる。

でも私は普通に学校の友達が欲しかった。

「明るくなったね」と言われたい。

そう、本当はそれだけでいい。

今のままじゃ根暗なイメージだけがみんなの記憶に刻まれてるだけだ。

みんなには嫌われたくない。

なんという矛盾だろう。

「小町といると楽しい」

「小町といるだけで時間がたつのが早いんだよねえ……」

そう言って風ちゃんに普通に声をかけられたい。

風ちゃんが自分を覚えている前提の話にはなるが……。

ねえ、覚えてる。

私、ドキドキで風ちゃんに声かけたんだよ。

ずっとずっと友達になりたかった風ちゃんに、普通に声をかけたこと覚えてる。

なんか避けられてる気がして少し寂しい。

風ちゃんみたいになりたいわけじゃない。

風ちゃんの隣に普通にいてもいいような存在になりたい。

だからあかるく振る舞ってたんだよ。

実際かなり無理してたんだからね。

小町はいつも風花を目で追ってしまう。

それはやはり風花が輝いているからだ。

私でなくても風花は目立ってる。

光りの中に存在する住人なのだ。

例えアイドルとして無名でも、そこにいるだけで輝きを放ってる。

もし私が今、そんなに売れてなくて、逆に風ちゃんでも無理だったんだと思ったとしたら、とっくに私はアイドルをやめていただろう。

アイドルじゃなきゃ、学校の成績も悪かったし、ももち浜学園には通っていない。

これだけは間違いない。

アイドル推薦でももち浜学園に入学できたのだ。

だからこそ、目の前に普通の高校生をしている風ちゃんを拝むことができているのだ。

風ちゃんは目立っているけど、いじめっこだったわけじゃない。

私をいじめてたグループにいたわけじゃない。

常にクラスの人気者でいじめっこグループとも普通に付き合っていただけだ。

そして風ちゃんはいなくなった。

再び出会えたことに運命を感じてるのは私だけかもしれない。

高校生の風ちゃんは相変わらずクラスの人気者だ。

風ちゃんに声をかけたのも、クラスで人気者になるための第一歩だった。

それなのに、風ちゃんは私以外とグループを形成している。

まるでこのクラスに私が存在さえしていないかのように無視している。

覚えていないのだろうか、私のことを……。

いつも最前列で応援していたファンの顔を……。

いや、確かにあの頃の私は根暗で地味で影のようで存在感さえなかったと思う。

だから今の私、つまりアイドルの渡辺小町とは同一人物だと気がついていないのかもしれない。

あざかわさんは眼鏡女子だし、眼鏡をかけると別人すぎて地味地味オーラがミラージュになっている。

私はと言えば眼鏡もしてないし、変装もしてない。

素のままで学校に通ってるのに誰もアイドル渡辺小町について触れようとしない。

知らないの?

そんなに認知されてないのだろうか?

アイドル渡辺小町と普通の渡辺小町が同一人物と気がついてない?

キラキラ輝くアイドルのはずが根暗で地味で影が薄いなんてやっぱり変なのかな。

イメージの方が先攻して追いつかないのかもしれない。

まさかクラスの誰も私のことを知らないのかな?

博多っ子乙女俱楽部の持ち歌、「博多の女はよかろうもん」を口笛で吹いても誰も振り向かない。

「刹那いソラシド」知らないの?

オリコンにものったのに……。

148位だったけど……。

いやいや、だって私はアイドル推薦でももち浜学園に入学したでしょ。

ももち浜学園のパンフレットの表紙だって、私だし………………。

まさか誰もパンフレット見てないの?

アイドルが表紙を飾ってたら、目につくでしょ。

私の知名度は関門海峡を超えてるのよ。

福岡だけのアイドルじゃないんだからね。

ローカルアイドル事情は地元に住んでる人しか分からない部分も多いけどさ。

私だって他の県のローカルアイドルは把握できてない。

ラジコで地方のラジオ番組も聴けるけど、そもそもローカルアイドルじたい把握できてないんじゃ、聴く気もおきない。

まあーね……、私って福岡じゃ名の通ったアイドルだけど島根の子には知られてないとか言うのなら分かるわよ。

でもももち浜学園は福岡にあるのよ。

なんで私を知らないのよ。

福岡のアイドルと言ったらHKT一強で、他のアイドルは深夜帯のテレビにも出てないけどさ。

もう少しアイドルに興味を持ちなさいよ。

友達に「オタク、オタク」って指差されるのが怖くって、アイドルを好きになれないだけでしょう。

それでも我が道を行くのがオタクでしょ。

吹っ切りなさいよ。

時間の無駄よ。

人生、損しちゃうわよ。

それは私だって、オタクと呼ばれるのは抵抗感あるわよ。

いじめにあってた原因の一部はそこじゃないかと思うけど……。

好きなものを好きと言ってるだけじゃない。

むしろみんなの目を気にして好きなものさえ好きと言えないなんて、おかしいでしょ。

て言うかたまに全然イメージのない子がアニメの話なんかで盛り上がってるのを見ると、不思議で仕方ない。

そんなに詳しいなら絶対好きでしょ。

なのに、私、アニメ見ないからとか粋がってるのって可哀想。

偏見で見られるのが嫌なだけじゃない。

私はオタクだし、オタクは恥ずかしいとは思わない。

引きこもってた時に心を支えてくれたのもアイドルだったし、なんだろう、うまく説明できないけど育成ゲームをしてる感じ……。

売れてない方が興味あるし……。

まさか自分がアイドルしてるなんて思ってなかったけど……。

博多っ子乙女俱楽部の初期メンバーは、ちょっとだけローカルアイドルブームみたいなのに乗っかって、乗りそびれた感じだったけど……。

今の博多っ子乙女俱楽部はきてると思わない。

私がテレビに出るようになって、知名度もあがったじゃない。

て言うか、博多っ子乙女俱楽部は知らないけど、渡辺小町は知ってるでしょ。

最近はアイドルだったんだってギャグみたいに言われるから、博多っ子乙女俱楽部の宣伝にもなってると思うんだけど……。

単純にタレント渡辺小町を知らないの?

「やばすぎ都市伝説」に出てるじゃない。

ブサイクいじりされてるでしょ。

まだメジャーじゃないんだ、私……。

そんなにみんな知らないの?

「はっ!」

そうか、そういうことだったのね。

私が出てる東京のテレビって、「やばすぎ都市伝説」以外、福岡で放送してないんじゃないの?

キー局のアナウンサーが出てるから、全国放送されてるって思うじゃない。

関東ローカルで関門海峡を渡ってないんだ、きっと。

だから渡辺小町も知名度が今一つなんだ、きっと。

でもネットがあるじゃない。

ネットなら全世界放送だし……。

ほら、みんなテレビ見ないでネットばかり見てるしさ……。

テレビなんか年寄りしか見てないんだし……。

もう、みんな受験勉強ばかりしてないで、ユーチューブを見なさいよ。

ゲームしてる場合……。

ネットの世界なら、動画もあがってるじゃない。

検索するだけよ。

「渡辺小町」と検索してみたら、「ブサイク」、「本当にアイドル?」ってワードに引っかかるわよ。

ハッシュタグ、渡辺小町、ブサイクで検索しなよ。

私の悪口が大量に書き込んであるわよ。

それ読むだけで面白いんだからね。

私なら2チャンネル読むみたいで好きだけどね。

みんなでどんどん書き込みなよ。

そして全国に拡散してよね。

どんなリツイートだって、一回は一回なんだから。

ユーチューブもアイドル枠って伸び悩んでるのは確かよ。

引きこもりの私みたいなのしか見てないのかもしれないけどさ。

私が私でいられる世界を残しておいてよ。

そこだけが存在していい場所なんだからさ。

自己顕示欲なんか本当はないんだ。

承認欲求もない。

ただ居場所がない自分のいていい場所はそこだけなんだから、みんなで盛り上げてよ、お願いします。



第1章より4章は探して見てね。


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