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1,000文字シリーズ

君とザクロを食べながら

作者: おかやす

つこさん。主催の #飲み書き祭り の作品です


お題は 「優雅な休日」です。

 目を開けると、むくれた顔の君が私の前に立っていた。

 さて、どうしたものかな、と私は口元を緩め、黙って君を見上げる。


 「……こんなところで寝てたら、カゼひく」

 「君がなかなか帰ってこないから、心配だったんだよ」


 ふんだ、と君はむくれつつ、手に持っていた籠を差し出した。


 これは?


 無言で首をかしげると、「んっ!」と籠を押し付けてくる。仕方なく受け取り被せてあった布をめくると、美しいザクロの実が入っていた。


 「好きでしょ、ザクロ」


 お詫びの品というわけだ。わざわざ買いに行ってくれたらしい。

 では仕方ない、私も君を許すとしよう。


 「はい、きなさい」


 私は立ち上がり、両手を広げて君を招いた。君は「ここ玄関だけどぉ!?」と顔を真っ赤にし、うなりながら私の腕の中に入ってくる。


 「……ごめんなさい」

 「はい、よく言えました」


 ぎゅっと君を抱き締めて、頭を撫でる。


 「お嬢様、わがままもほどほどにお願いしますよ」

 「もう、お嬢様って言うな!」


 むくれた君の唇に、ついばむようなキスをする。君はちょっと体を硬くしたけれど、見つめ合った私が微笑むと、ふにゃっと笑顔になって私に抱きついた。


 「では、続きをしましょうか」


 私は君の肩を抱いて家の中に入った。

 せっかくだから、君が買ってきたザクロを洗って切り分ける。酒、というわけにはいかないから、とっておきの葉でお茶を入れよう。

 それを持って、テラスへ。

 初夏の心地よい風が気持ちいい。久々の休日、ここでゆったり二人で過ごす約束だ。


 「まあ、誰かさんのせいで中断されたけど」

 「だって……あなたが手加減してくれないんだもの」

 「手加減したら怒ると言ったのは君だよ?」

 「ふんだ! 見てなさい、次は勝つから!」


 じゃらっ、と碁笥に手を突っ込んで、最初の石を君が置く。パチリ、パチリと交互に石を置き、布石を終えていざ戦いへ。


 うん、落ち着いてるね。


 君の打ち筋を見て、私は胸をなでおろした。先ほどは私も少々やりすぎた。せっかく君が興味を持ってくれたのだ、君が「もう知らない」とキレないよう、楽しく囲碁を打つとしよう。


 「ザクロ、おいしいね」

 「そうだね」

 「知ってる? ザクロの花言葉って『円熟した優雅さ』なのよ」

 「ほう」

 「あなたに足りないものよね」


 君が笑って石を置く。自覚はある、と負け惜しみを言いつつ、私は君の石を受け、ザクロをつまむ。

 甘酸っぱくて心地よい、君みたいな味だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] エモお……( ˘ω˘ ) まあ、女性の「手加減したら怒る」ほど信用できないものはありませんよねw
[良い点] 囲碁だったんですね笑 綺麗な文章にときめきました。
[良い点] リアルに優雅すぎるところ [気になる点] みんなの感想が全く酔ってない気が [一言] なるほど、囲碁を打つのがそもそも優雅に書けるのか…… それなら自分も別のアプローチがあったなぁと
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