お披露目パーティー2
最初は通常営業ですが途中から暗いです。
今私の心臓は緊張で爆発しそうになっていた。
大きな扉の前で固まる。
いや無理無理無理っ!!!
こんな所から入るの?絶対に目立つじゃん!!
「どうしたの?」
セシルはなんてことないように早く行こうと言っている。
セシルはいいよね!どうせパーティー慣れしてるんでしょ!
普通の人間はこんなことになったら緊張するのよ!
「無理帰りたい…。」
切実に帰りたい。お部屋には美味しいお菓子があるのだ。パーティーに出なくても食べ物には困らない。
「僕とパーティー出たくないの…?」
「そういう事じゃなくて!人がいっぱいだから緊張してるの!」
綺麗な顔のセシルに涙目で見詰められて焦った。
その顔は反則だ!心臓に悪い。
極悪人になった気分になってしまうではないか。
「緊張?大丈夫大丈夫、為せば成るだよ!僕がずっとそばにいてあげるから。ね?」
何だこの子供扱い。しかもふにゃふにゃしている顔がさらにむかつくっ!
「私は子供じゃないわ!やってやろうじゃない!完璧な次期王妃を演じてみせるわ!」
私は思わず言ってしまった。本当に馬鹿なのかもしれない…。
「そっか!じゃあもう入れるよね?」
「当たり前でしょ。さっさと行きましょう。」
緊張で膝はガタガタ震えていたが勢いで言ってしまった手前そんなことを言えるわけが無い。
全力で微笑みを顔に貼り付け覚悟を決めた。
ーーーーー
大きな扉が両側に開け放たれセシルと私は盛大な拍手の中、階段を微笑み合いながら降りる。
私達を見てるのはみんなケーキよ!
緊張することなんて何も無い。
これはケーキだ。
ケーキは拍手なんてしないけどねっ!
注目されているよぉーーっ!(泣)
心で思っていることを顔に出さないでこそ本物の淑女だ。
微笑みを無理やり絞り出した。
早くも逃げ出したくなりながらも何とか階段を降りきったところでパーティーが始まる。
始まった途端私は貴族に囲まれた。
心からの祝いの言葉を送ってくれる者や、妬みや嫉みを織り交ぜた表情で挨拶してくる者もいる。
正直言って1人にして欲しい…、、
さっきからひっきりなしに来るから飲み物のひとつも飲めやしない!もうそろそろ自由にさせてくれ!
「そろそろ僕の婚約者を返してくれないかな?」
「セシル!」
救世主だ。今回ばかりは感謝しかない!
後で抱きついてあげよう!
はしたなく無い程度に急ぎ足でセシルの元に近寄った。
さりげなく腕を組んでくる。助けて貰ったからしょうがない甘んじて受け入れよう。
みな仕方がないと言うふうにそれぞれ簡単に挨拶をしてから散っていった。
と思ったら二人だけ残っていた。
親子だろうか。
おそらく父親であろう男はガタイが良く一般的な男性よりふた周りほど大きい。
短い黒髪に茶色い目の強面の男だ。
もう1人の娘であろう少女は男とは違いいかにもか弱そうな線の細い子だった。
くすんだ白い髪に作り物めいた赤い瞳。
何故かこの人たちのことが私は怖くてたまらなかった。
殴られたことなんて、ましてや面識さえないのに怖くてたまらないのだ。
膝から力が抜ける。
全然知らないはずなのにまるで私の失ってしまった記憶が2人の存在を拒絶しているかのように涙が止まらなかった。
心臓がそのまま掴まれているように苦しくて悲しくて絶望で幸せが全部取られてしまったようだ。
止まらない涙と共に記憶の靄が徐々に晴れていく。
暗い部屋、殴られる感覚、心の支えだった人の裏切りの言葉、下卑た男の声、手の感覚、その全てを思い出した。
あの時自分が死んだと思ったことも、死にたくないと願った事も何もかもがごちゃ混ぜになって流れてきた。
私はセシルと結婚出来ない。
この事実が過去の記憶よりも心に突き刺さっている。
純潔を失ってしまった私は王妃になど絶対になってはいけないのだ。
「ラフィネ落ち着いて、大丈夫?」
こんな私にもセシルは優しく声を掛けてくれる。
それがさらに心を締め付けた。
「陛下もしかしてそちらの女性はひと月ほど前に出会われたのではありませんか?」
「だったらなんですか?」
これからどうしよう。
いっその事死んでしまおうか…
生きている意味が無くなってしまうのだから生きていても虚しいだけだ。
「その女性は私の娘です。ひと月程前から行方不明になっていてずっと探しているのですが未だ見つかっていないのです。」
どの口がそんな事を言っているんだ。
今まで私の名前すら読んだことも無いくせに。
たとえどんなことを思っていても言い返すことは出来ない。
そんなことをしたら自分が辛くなるだけだからYES以外の答えは選択肢になのだ。
でも今回は違う。
震えてか細い声しか出なかったが勇気を振り絞って質問をした。
「ならば私の名前はなんですか?」
あからさまに男の目が鋭くなった。
まるで後で覚えておけよと言われたように背筋が凍ったがもしかしたらこの記憶は私の思い違いかもしれない。
質問して確かめずにはいられなかった。
私の本当の名前を知っているのは恐らくこの世に10人程しかいない。
もしかしたらという希望が捨てられなかった。
「貴方の名前はヴィオレッタ・ドルチェグストです。」
暫くこんな感じの話が続くと思います。