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98話 十八番

アルは弓兵の体内からずるりと剣を抜く。

弓兵は力無く崩れ落ちた。


アルがひと睨みすると、ナディアの兵士五人が慌てて剣を抜く。

その内の四人は甲冑を纏った剣士だ。アルよりレベルが高い人はいない。


最初に斬りかかってきた兵士の剣を【(シールド)】で止めると、【斬撃(スラッシュ)】で腕を斬りつける。兵士達の甲冑は【魔法攻撃耐性】スキルがついている物が多いが、Lv1やLv2の物ばかりだ。【斬撃(スラッシュ)】であれば容易に斬り裂ける。


しかしそれでもレベルによる身体ステータスの恩恵もあるのか、やすやすと斬り落とすなんて事は出来ない。


剣から、がりっと骨を砕く感触が伝わってきた。


「げああぁぁぁ!!!」

「やっぱり弓兵よりも防御力は高めだね」


「も、もっと人を呼べ…!」


完全に断ち斬れないまでも、腕からぼとぼとと激しく血を流す兵士を一瞥(いちべつ)すると、アルは明確な殺意を持って次の敵に斬りかかる。


剣を交えて分かった。単なるレベルだけでなく、明らかに近接戦闘の技術でアルは勝っていた。


加えてアルには【斬撃(スラッシュ)】と【(シールド)】がある。敵は【斬撃(スラッシュ)】の魔法攻撃に耐えられる装備を有していないので、重い甲冑も革防具と大して変わらない。そして突如現れる【(シールド)】は、敵の攻撃を一方的に無効化し、敵はアルとまともに剣を打ち合う事すら出来ずに致命傷を負わされる事になる。


ガルムが言っていた通りだ。アルの戦闘能力はかなり高くなっている。問題はアルの覚悟だけだったのだ。覚悟さえ決めてしまえば。割りきってしまえば。魔物であろうが。人であろうが。関係なかった。


アルの一方的な虐殺に、次々と兵士達の装備は傷だらけとなっていき、そこら中に血溜まりが出来た。



そこに、騒ぎを聞き付けた応援のナディア兵が駆け付けてきた。


その数は二十人を越している。血だらけのアルを見て、勢いよく突撃して来た。残念ながら彼等は、その血の中にアルの流した血は一滴も無いと言う事実を知らない。 


総勢で見れば先程の三倍以上の人数に囲まれる。

それでもアルは逃げない。シオンがまだそこにいるのだ。

そして、その人数相手でも、十分に殺り合える。そんな自信さえ芽生え初めていた。


たとえ何人いようとも、魔法攻撃が無いのであれば、実際にアルに攻撃が届く範囲を取り囲むのはせいぜい四人が良いとこだ。それはどれだけ人数が増えようとも変わらない。つまり四対一で負けなければ、後は持久戦。どれだけダメージを負わずに、()()していくか。


四方八方からの剣、そして槍は全て【支配者(ドミネーター)】で把握できる。それらを全て捌きつつ、敵に致命傷を与える事も、今までダンジョンで魔物相手にやってきた事と一緒だ。乱戦での同士討ちを恐れている分、こっち(人間)の方がパターンにはまりやすい。


一対多数の戦闘は、アルの十八番(オハコ)だ。

まさに、美味しい()()()





「も、もっと人を呼べ!」

「このガキ化け物か!」

「ちょこまかと!」



兵士達の恐怖と焦りの叫び声が心地良くすらあった。アドレナリンが脳内に溢れ出る。今までに感じたことの無い、全能感や優越感すら感じ始めていた。


アルは今。自身の強さを、初めて実感している。

何人に囲まれようとも、全てがアルの掌の上の如く。その全ての動きは手に取る様に分かる。



アルへの敵意を、そして命を、一つずつ消していく。

その戦闘に、心は要らない。ただ、己の力と、そして剣のみを信じて、狩っていけば良い。




ガチャリ…!ガチャリ…!


また追加の雑魚(モブ)が来た。

この明るい場所がかなり目立つのか、どんどんと兵士達が集まってくる。既に倒した数は四十人を越えているが一向に減ったように思えない。


アルは一心不乱に斬り続けた。

支配者(ドミネーター)】を使い続けている反動により、激しい頭痛がする。そして少しずつ増えていく傷が、アルが集中力を失いつつある事を知らせていた。



「我は第三部隊長デルタと申す!!少年よ!見事!だが、そろそろ倒れてもらおう!」



これは。少しだけヤバイのが来た。

剣と槍の嵐を掻い潜りながら見えたのは、重装備を纏ったレベル41の巨漢だ。


まだ十人程の敵に囲まれているアルに、ずんずんと迫ってくる。

そしてそのデルタとか言うおっさんの後ろからは、さらに兵士達が追随してきている。


一度(ひとたび)奴が攻撃に加われば、この持久戦は終わりだ。

一対一でも倒せない。逃げる。いや、逃げると言う選択肢は無い。



ならば可能な限りデルタと一対一の状況を作って、時間を稼ぐしかない。


時間を稼ぐ………?

いや、倒し切ってみせる。



「あああぁぁぁぁあああ!!!」



アルは【威圧】で周りを取り囲んでいた兵士達の隙を作り出すと、デルタへと猛進した。


デルタの武器は直剣。

構えに隙は無く、身体も至極リラックスして無駄な力が入っていない。歴戦の戦士だ。


急接近からの初手一合。

斬り結ぶと見せ掛けて、アルはその直前で急停止。


「何だ!?」


デルタが意表を突かれた所で【瞬間加速】により、再び最高速まで加速した勢いそのままに脇を駆け抜けた。すれ違い様に【斬撃(スラッシュ)】をぶち込む。


胴に完璧に入ったと思った。

しかし実際には、咄嗟に反応され、剣で少し防御されていた。


胴鎧には浅い傷が残っているだけだ。

改めて確認すると【魔法攻撃耐性Lv4】が付与してある。装備の点でも、雑魚とは違うって訳だ。



「見事!非常に面白い動きよ!(たぎ)って来たわ!」


「僕もだよっ!」


アルは足を止めない。


デルタの直剣は小さくはないが、大きい事もない。

双剣に上手く【(シールド)】を合わせれば、止められないことは無いはずだ。



「【(シールド)】!」


デルタの剣を止めて見せる。

ガルムの剣とは違う太刀筋のそれは、洗練された剣技などではなく、ただの暴力のように叩きつけられる剣だった。


アルはまたしても胴鎧を【斬撃(スラッシュ)】で斬りつけるが、どうしても浅い。


「見たこともない強力なスキルだ!しかし効かぬ!」


連続で剣を振るわれる。

どうしてもパワーは向こうが上だ。【(シールド)】を使ってなんとか止められると言っても、弾き返せる訳ではない。よって連続で剣を振るわれれば、アルは防戦一方だった。


まともに剣を受け止めていては駄目だ。

デルタに唯一通用する物があるとすれば、それは速さだ。なんとか攻撃を(かわ)して、【斬撃(スラッシュ)】をぶち込まなければならない。


一か八か。


デルタの上段からの振り下ろし。


またしても【瞬間加速】を使って、その懐に潜り込みながら斬りつける。


成功だった。デルタの剣の風切り音を聞きながら、脇をすり抜ける。またしてもアルの一撃が入った。


これだ。これしかない。

アルは一筋の光明を見い出した。



「ぬううう!ちょこまかと!」



まずはデルタの大雑把な攻撃に合わせて、【瞬間加速】で一歩避ける。


そして、ここからだ。避けた先の一歩。そこにさらに【瞬間加速】を使って切り返した。

最大加速から最大加速での切り返し。膝と股関節に強烈な重圧がかかる。


「ぐっ…!うああ!!!!!」


めきめきと音を立てる膝を叱咤(しった)しながら、剣を甲冑の隙間へと刺し込んだ。場所は脇の隙間だ。またすぐに【瞬間加速】を使って離脱する。


「ぐあぁぅ!なん…なんだ!?何が起こって…!?」


考えさせる暇なんて与えてはいけない。


またしても突進。

直前でまたしても【瞬間加速】を使った跳躍。巨体の頭上を飛び越える。


空中に作った【(シールド)】を足場に、神がかった速度での切り返し。それを二回。それで完全に背後の頭上を取った。


無防備な頭部の兜に向かって全力で双剣を振り下ろす。



ゴウウウゥゥゥゥゥウウウンンンンン。



鐘の様な音が広場に響く。

アルの足元にはデルタが転がっていた。ぴくりとも動かない。


両方の剣で【斬撃(スラッシュ)】を叩き込んだのだが、兜を割ることは出来なかった。しかし衝撃で意識は刈り取れたらしい。


アルはその無防備となった頚部に、無慈悲に剣を突き立てた。

巨体が数秒間痙攣した後、完全に動かなくなる。



周りは依然として敵兵士に取り囲まれている。

デルタとの一騎討ちに手を出して来なかったのが幸いか。


息を大きく吐き出すと、脚が震え、膝をついてしまう。

【瞬間加速】の乱用による高速切り返し。

かなり脚に負担が強い。通常、全速から切り返す場合には減速、停止、加速と言う過程がある。しかしそれを全て省略してしまうのだ。

さすがに無茶だったらしい。



「い、今だ!かかれ!」



数十人が一度に襲いかかってくる。

アル達の戦いを囲んで見ていた彼等は、千載一遇の好機とばかりに武器を振りかぶった。


脚が動かなかった。回復薬(ポーション)で回復する暇もなければ、【空間転移(テレポート)】で逃げる時間もない。いや、そもそもシオンを置いて行くなどという選択肢もないのだ。アルがここまで散々と殺してきたように、彼等はアルを殺すことに躊躇はしないだろう。


しかし良いこともある。

アルが先に死ねば、【召喚(サモン)】の契約が解け、恐らくシオンは前の世界へと戻される。だから、どうせ死ぬのであればアルが先に死なねばならない。



最後の時を迎える直前にアルはシオンを見た。



敵兵の隙間から、ほんのりと輝く小狐が見えるはずだった。



しかしそこには、小狐はおらず、代わりに少女が立っていた。

やはりほんのりと身体を火照らせながら、真っ直ぐとアルを見つめている。

その可愛らしい唇を開くと、一言、発した。



「【電撃(ライトニング)】」



少女を中心に、龍のような雷が暴れ回った。

その発光と衝撃に、アルは両腕で身体を覆う。天災の様な強大な力の蹂躙に、身をすくめる事しか出来ない。


そしてその嵐のような時間は、始まった時と同じ様に唐突に終わった。じゅうじゅうと言う肉が焦げた臭いが鼻腔を刺激し、身体全体はびりびりと痺れている。


恐る恐る顔を上げると、周りにいた兵士達は、一人残らず炭になっていた。


そしてその惨劇を起こした少女はと言うと、まるで石ころを避ける様に死体の山をぴょんぴょんと避けながら近付いてくる。



「よく頑張ったの、アル。妾を守ってくれたこと、礼を言う」


「あはは…。ギリギリだったけどね…」


「見ておったぞ。部隊長を倒したのは見事じゃった。あの高速移動は【瞬間加速】を使ったのじゃな?まぁ無茶をしたもんじゃの。じゃがそこまでスキルを使いこなせる様になった事は褒めてやろう」


「ありがとう。ところで、シオン。【保管(ストレージ)】。これ着て」



久し振りに再開した少女姿のシオンは、裸だった。



「今がどういう状況か説明するのじゃ」


服と装備を身に付けるシオンから視線を外しながら、アル自身も【保管(ストレージ)】から回復薬(ポーション)を出して一気に飲み干す。


「うぷっ…。ナディアの兵が攻めてきたらしい。数は五百」


改めて見渡してみるとこの広場には約百体程の死体があった。

アルが倒したのが六割、シオンが魔法一発で倒したのが四割。


「さっきの魔法で他の兵達もちゃちゃっとやってきてよ」


「馬鹿を言うでない。今のは風雷石の残り(かす)の様な魔力を無理やり使ったものじゃ。それも使いきってしもうたわ」


銀色の髪を手櫛で整える姿は、久しぶりなのもあってとても綺麗だった。約三ヶ月振りの少女の姿に、心のしこりが一つ無くなった様な思いだ。


しかし感慨に耽っている場合ではない。

少しだが脚が動くようになってきたので、早くエルフの人達を助けに行かねばならない。


「行けるか?」


「うん。大丈夫。エルフの人達を助けないと」



アルが膝の状態を確認している時。


その時、どこかで笛が鳴った。


さっきの兵士が口で鳴らした様な物ではない。

もっと大きな、里全体に響き渡る音だ。先日聞いたような、エルフ側の合図ではないので、ナディア軍側の物だろう。



「退却!退却うぅぅ!!」



里のあちこちで、ナディアの兵士達が一斉に走り去っていく。

逃げようとしているのだ。自分達は好きなだけ暴力を振るっておきながら、その代償も払おうとせず、立ち去ろうとしている。


アルは目の前が真っ赤になり、それを追いかけようとした。しかしそれを止めたのはシオンだった。


仇討(あだう)ちより救護じゃろうが!【支配者(ドミネーター)】で傷付いた者を探せ!まだ助かる命がきっとある!お主にしか出来ん事じゃ!」


「…わかった」



逃げるナディア兵の背中を見ながら、アルは歯を食い縛った。

ここまでお読み下さり、本当にありがとうございます!


もしも、続きが少しでも気になる!おもしろい!まぁもうちょっと続けて頑張ってみたら?と思っていただけたのであれば、感想、レビュー、評価など応援をお願いします!


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