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84話 ちょっとした刺激

「待ってよ。これがシオンの狙い通り?何かしたの?もうダンジョンが治ったってこと?それとも今の三体だけのスチールウォーリアーが特殊だったの?」


「あーもう、うるさい!まだ妾もどの程度影響があったのかまでは把握出来ておらんわ!お主等は良いから早く先に進め!おーいガルム!そろそろ行くぞ!予想通りダンジョンからの反応があった!…ほれ見てみい、ドロップアイテムじゃ」


「あー、楽になった。む?本当にドロップアイテムであるな。ではやはり?」


「うむ。休眠中だった様じゃ。しかしダンジョン内の魔力の流れは未だ澱んでおる感覚じゃ」


「と、なると…。まだ足りない。やはりクリスタルゴーレム。もしくは迷宮主か」


「そのどちらかじゃろうの。どちらにせよミスリルウォーリアーはキッカケ程度にはなったと言う事じゃ」



二人の会話を慎重に咀嚼していくと、ミスリルウォーリアーと言う言葉を聞いて、やっとアルの中で話が繋がった。



「あ、ミスリルウォーリアーを持って帰ったから?だからまたドロップする様になったの?休眠中って言ってたのはダンジョンが死んではいないけど活動を止めた状態で、昨日僕達がミスリルウォーリアーを丸ごと持って帰ったから、ダンジョンが怒って目を覚ました?」


「そう言う事じゃ。だが、まだ完全に目を覚ましたかどうかは分からん。先程も言った通りまだ魔力の流れがイマイチじゃ。よってもう少し、ちょっとした刺激が必要じゃろう」


そのちょっとした刺激が、クリスタルゴーレムを持って帰ろうとする行為と言う事だ。



「よし。クリスタルゴーレムを見つけよう!」


「先程からそう言っておる。さっさと進むのじゃ。もし出会えなくとも、迷宮主丸ごと持って帰るくらいは試してみる価値はある」




よって今日の目的は急遽。

迷宮主までを一気に踏破する事へと決まったのであった。





しかし、出発から一時間半。

アル達は迷宮主までの到達が容易ではないことを思い知らされる。

普段の活動エリアよりさらに深い所に立ち入った所で急に進めなくなっていた。

三人の目の前には魔物ロードとでも言うべき魔物の渋滞が起こっていた。アルとガルムは一時間は戦いっぱなしだ。

既に百を越える魔物を倒したが、それでも全く先が見えない状況に目が回っていた。



「アル!奥から新しい群れだ!そいつらも初めての奴等だ!数はわからぬ!」


「まだまだ先は長そうじゃの…」


「えー…っと!オニキスガーゴイル!魔法耐性が高い!【毒】の攻撃を持ってる!気をつけて!あとまだターコイズピクシーも何体か残ってる!」


「そうか!ところでターコイズピクシーの尻尾に興味がある!一つ斬り落としてみてくれ!」


「えぇ!?今!?【斬撃(スラッシュ)】!ほらっ!これでいい!!?」


「むむ、思ったより細いな」


「ちょっともう!!!(らち)が明かないよ!!!!!全然進めないじゃんか!毎分十メートルしか進めないんじゃいつまで経っても迷宮主の所なんて着かないよ!」


「そうじゃの…、無限沸きを疑いたくなる程じゃがさすがに休眠中のダンジョンにはそんな事は無理じゃろう。ダラダラと湧く魔物達が自然と蓄積されておるのかも知れんな。仕方ない。

魔物が少なそうな道へと誘導する!一度退け!こいつ等を撒いて別ルートで進むぞ!」



シオンの掛け声に、アルとガルムは走り出す。

ガルムがターコイズピクシーの尾を持ったまま走るもんだから、ダンジョンが素材持ち逃げと勘違いして魔物の群れがさらに湧いて出て来ていたが、それさえ無視だ。


シオンの誘導にて何度か角を曲がると、なんとか魔物の群れは撒いた様だ。



手早く回復薬(ポーション)類で状態を整えると、再び走り出す。




ここのダンジョンの魔物の中には、シオンの嗅覚でも捉えにくい物が多くいる。それは鉱石系の魔物が多いからとシオンは言っていたが、それでも先程のような無茶苦茶な数は避けられたらしい。


時には逃げ出し、時には群れを突っ切り、時には全滅させて。三人はどんどんと深くに潜っていく。





そして一時間後。

三人は目的の部屋の前に立っていた。

普通のダンジョンだと階段で降りていくことが多いのだが、ここの場合は迷宮主の部屋へと続く道も坂だった。


「よかった…。着いた。迷宮主の部屋。一時はどうなる事かと…」


「妾と言う最高の案内人(ナビゲーター)がおるのじゃからな。当然じゃ。ここの迷宮主の情報はまだ覚えておるな?」


「うん、大丈夫だと思う」



ここの迷宮主はメタルギガースという巨人だ。

身体の所々から鉱石を生やした人型の魔物らしい。



「確か迷宮主の部屋に"帰還水晶"があるんだったよね?」


「あの受付嬢が言うには、じゃ。ダンジョンがこの状況で果たして機能しているのか定かではないがの」


「え?もしかしたら使えない可能性もあるってこと?」


「行ってみんとわからん」



帰還水晶。アルテミスダンジョンにもあった地上へと一瞬で帰ることのできる水晶だ。迷宮主を【保管(ストレージ)】に放り込んだらすぐにそれを使って地上へ戻る予定だが、その水晶が機能していなければ最悪閉じ込められるのではないだろうか…。

いくら心配したところで行ってみないと分からないが。



大盾に【装備換装】したガルムを先頭に、このダンジョンでも類を見なかった程の急斜面を下っていく。


「そもそもなんだけど、メタルギガースって【保管(ストレージ)】に入る大きさかな?」


「そうじゃの。もし入らなければ上半身だけとかにしてみるか?」


「えーダンジョンに取り込まれる前にそんな…うわっ!」

「ぬ!?」

「お!?」



ダンジョンの床が抜けた。

そう思った。



しかし実際には、急斜面の角度が突然ガタンと増したのだ。

ガルムとアルの二人とも斜面に腰を打ち付け、そのまま斜面を転がり落ちた。


「ぐっ!」

「いだっ!もー!このダンジョン嫌いっ!」



幸い出口はすぐそこだったためダメージはない。

少し頭を打ち付けたが、すぐに立ち上がって武器を抜く。



既にガルムとアルの前にはメタルギガースが立ちはだかっていた。


第一に感じたのは部屋全体に漂う悪臭だ。

まるで動物を数ヶ月掃除もせずに飼っていたかの様な臭い。


次にようやく、その身体の異変に気付く。

その身は三メートルはあろうか。話では部分的に鉱石が生えているとの事だったが、その表現は間違っていると思った。何故なら身体のほとんどが鉱石で覆われていたからだ。生身の部分を探す方が難しい。


ぶら下げている棍棒はアル程もあり、臙脂(えんじ)色。



とりあえず襲いかかってくる様子はなく、メタルギガースはこちらの事を不思議そうな目で見ている。


見つめ合うこと数秒。

やっと思い出したかの様にメタルギガースの咆哮が響いた。



グゴガオオォォォォアアアアア!!!



ビリビリと空気が振動する。

きっと【威圧】だ。身体が言うことを聞かない。加えて聴覚も阻害される。これは【咆哮】に違いない。



―――――――――――――――

名前:メタルギガース・ダンジョン

Lv:36


スキル:【棒術Lv3】【物理攻撃上昇Lv3】【魔法攻撃上昇Lv2】【物理攻撃耐性Lv3】【魔法攻撃耐性Lv3】【自然回復Lv2】【咆哮】【威圧】【不潔】【子守り】【律儀】

    【土魔法】…【土槍(アーススピア)】【岩縛棘(ロック)】【激震(アースシェイク)


武器:魔桜石(まおうせき)の棍棒【重量操作】

―――――――――――――――



やはり【威圧】と【咆哮】。

身体はすぐに動くようになったが、聴覚の方は回復に十五秒程度かかるだろう。ガルムには【共有(ユニフィケイション)Lv1】で【鑑定】結果を伝える。


しかしやはり特筆すべきは、このメタルギガースは魔法が使えると言う点だ。クープの街のジュリアが使っていた【土魔法】。

それも前情報通り。



"魔桜石の棍棒!喜べアル!メタルギガース本体よりあれの方が価値がある。あれを【保管(ストレージ)】に入れればダンジョンは確実に目覚めるに違いない!"


目敏く棍棒の価値を教えてくれたのはシオンだ。



メタルギガースが行動を開始した。

魔桜石の棍棒を大きく振りかぶり、横薙ぎにスイング。


後ろは壁だ。入口があるが急坂。

跳んで避けるか。


そんな事を考えていると、ガルムがアルと棍棒の間に立ちはだかる。


二メートルを越えるガルムの巨体ですらすっぽりと隠す大盾を構えて、腰を低く落とす。



【咆哮】の影響で音は聞こえないが、衝突の瞬間は分かった。

その衝撃で空気が震えた。ガルムは一歩たりとて後退していない。完全にメタルギガースの一撃を受けきって見せたのだ。


アルは心の中で喝采を送った。

いや、この戦闘が終われば実際に喝采を送るだろう。


その後ろ姿は伝説の勇者を護る"堅壁ヴィーヴル"そのものだった。



メタルギガースの攻撃はガルムに任せておけば問題ない。

アルは隙を見て奴の動きを削り、ダメージを入れていく事に専念すれば良い。


メタルギガースの上からの振り降ろしを、ガルムが見事なタイミングで横に逸らした所で、アルはガルムの後ろを飛び出す。



標的(ターゲット)はガルムに固定されたままだ。

アルの動きに気づいてはいるものの、目の前の()()()盾を叩き潰す事にやっきになっているらしい。


メタルギガースの後ろまで回り込むと、棍棒を振るう動きを観察しながら、攻撃を開始する。


まずはずっしりと踏ん張って動きのない両足を削りにいく。


勢いと体重の乗ったアルの二連撃は、足から隙間なく生える鉱石を削る。宙にキラキラとした破片が舞うが、生身まで届いていない。



「硬いっ!」


「鉱石の範囲が広すぎる!【斬撃(スラッシュ)】で一ヶ所を削るしかない!」


少しずつ聴覚が戻ってくると、棍棒と大盾の衝突の音が絶え間なく聞こえてくる。その音にやや焦りを感じてしまう。



「【斬撃(スラッシュ)】!」


鉱石を魔法攻撃で根こそぎ剥がす。

やっと見えた生身の部分。そこをもう一度斬りつけて離脱。


また棍棒を振るうタイミングに合わせて【斬撃(スラッシュ)】で(えぐ)る。直径一メートルはあろうかと言う程の太さの足には、僅かな傷だ。


幸いまだメタルギガースはガルムに夢中。

その隙に足の真横に陣取って連続で斬りつける。


「後方回避!」


シオンの声で反射的に後ろに跳ぶ。

すると斬りつけていた足の後ろ蹴りがアルを(かす)めた。



「焦って攻撃しすぎるでない!注意を引きすぎる!ガルムは奴と5レベルも差があるのじゃぞ!一時間でも耐える事が出来る!」


ガルムが【装備換装】で弓を取り出して、連続で矢を放つのが見えた。それ等は大半がメタルギガースの身体の中でも僅かにしかない生身の部分へと命中する。


それによりメタルギガースは再びガルムに標的を変えた。



「パーティでの対単一戦は場を乱さない事も重要じゃ!標的(タゲ)はガルムに固定させたまま、こちらに向き直らない範囲で削れ!よし!再開じゃ!」


アルはシオンの声に再び攻撃を開始する。

足の斬り口をさらに深く斬るが、すぐに離脱。



「それでは不足じゃ!」


慌てて接近し、【斬撃(スラッシュ)】で攻撃する。

三撃ほど連続でいれると、メタルギガースが振り向き様に棍棒を振るってきた。危うい所でそれを回避して距離をとると、またしてもガルムが弓矢で注意を奪い返す。


それはアルにとって初めての経験だった。

攻撃を我慢する。どの程度なら攻撃しても大丈夫なのかそれが分からない。

攻撃するのに、二の足を踏んでしまう。





「アル!!!!!何度でもやってみろ!!!!!」




それはガルムの【咆哮】だった。

その声、そして言葉は、メタルギガースのそれ以上にアルの胸に響く。


何度アルが失敗してもカバーする。

ガルムの目はそれを伝えていた。


ガルムに一度だけ笑いかけ、アルは動き出す。




パーティとして場を乱さず攻撃する。その意味を考えながら、攻撃する。何度もやり過ぎて、何度もメタルギガースの標的(タゲ)を奪ってしまう。それでもアルは懲りない。これは今のうちに絶対に修得しておかなければならない事だと分かったからだ。



そもそもなぜ、標的(タゲ)を奪うのがいけない事なのか。それは魔物の不規則な動きが増えるからだ。


今はガルムとアルの二人だけで戦っているから良いが、例えばもう二人パーティが増えてくると、敵の不規則な動きはパーティの誰かに予期せぬ被害をもたらすかも知れない。


例えばアルに突如標的を変えて振るわれた棍棒が、そこは安全だと思っていた魔法詠唱している味方に当たるかもしれない。


だからガルムは、今できるだけ失敗して、それを修得しておけと言っているのだ。



しかし何度も失敗している内に、少しずつ分かってきた。

まず、敵の視界の中には入らない。ガルムを攻撃しながらも、視界の端に入ってしまう事があるが、可能ならばそれも避ける。そして一ヶ所に固執して攻撃するよりも、複数の箇所に攻撃を分散させた方が良い。


加えて、【斬撃(スラッシュ)】は連続で使わない。

とうやらスキルでの攻撃は、かなり効く。それを連続で入れるよりも、通常の斬撃と交互にした方が多少マシだった。



それ等が分かってきた頃、メタルギガースの状態にも変化が出てきた。身体の複数箇所の動きが悪くなった事によって、攻撃にキレがない。ダメージが蓄積され、疲弊もしている。


メタルギガースの動きが悪くなってきたのを感じて、ガルムも盾を左手で構え、右手に槍を持つスタイルへと変更した。

盾で防ぎながら、隙があれば槍で攻撃する。


その頃から、アルは全力で攻撃できる様になった。



瀕死のメタルギガースを取り囲みながら、ガルムと目が合う。

ニヤリと笑いかけてくれたガルムに、アルも答える。



「そろそろじゃ!魔楼石の棍棒を持って帰るぞ!」



ついにメタルギガースが倒れ込んで動かなくなったその時。

アルは棍棒に飛び付いてそれを【保管(ストレージ)】へと入れた。


「やった!任務達…成……?」



それが合図だったかの様に、ダンジョンが震動し始めた。

頭上でシオンが立ち上がる。くんくんと鼻を鳴らしながら興奮した声を上げた。



「来たぞ!来たぞい!ようやく目を覚ましおったわ!」

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