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80話 それ以外

昨日9/21に総合評価ptが500を越えました!

やったー!皆さんありがとうございます!と言うことで調子に乗ってもう一話分更新します!

これからも応援していただけると調子のります!


「ここが"三番"の入り口?」


「どうやらそのようだな。良く見るとそこに三番と書いてある」



明くる日。

三人はまたダンジョンの入り口の前に立っていた。

しかし今日は昨日とは違う入り口。昨日アントンさんに教えて貰った、テンゴールから北に来た所の三番と呼ばれる入り口だ。

ガルムに促されて入り口の少し横を見ると、汚れきった石板の様な物に、3と雑な字で掘ってある。どれだけ雑かと言うと、ここが三番と呼ばれている事を知っていてギリギリ読める程。


「よく読めたね…」


「手前が書く3とよく似ている。シオン、今日もロックリザードを狩るのか?」


………今のはボケなんだろうか?

最近、ガルムのイメージが少しずつ変わりつつあるな。



「いや、昨日の男が、この入り口がてっとり早く深くまで潜れると言うておったからの。一度深くまで行ってみてから効率を考慮して検討すべきじゃろう」


「途中でロックリザードに出会ったらどうする?」


「出会った魔物は全滅させるに決まっておるであろう」


「そうなるよね………」



テンゴールダンジョン二日目スタートだ。


アル達は三番の入り口からダンジョンへと侵入した。

三番の坑道は昨日の十五番のそれと比べると、傾斜がかなり強い様に感じた。アントンさんが言っていた"手っ取り早く"と言うのはこう言う事なのだろう。



「む?いきなり来たみたいじゃぞ」


三人の前方から、昨日一日で既に見飽きてしまったロックリザードの群れが現れる。


「もしかしてこいつらって、アントンさん達が魔物の行進(デス・パレード)で産み出して逃げた群れだったりするのかな?」


「可能性は高いだろうな。いつからやっているのかは分からんが、まだしばらくは出会う事も多いだろう」


ガルムが、巨大な剣を装備しながら臨戦態勢に入る。

今日は二人で近接戦闘をする予定だ。


「気にせず振り回してくれていいからね」


「承知した」



アルが先行する。

傾斜がある分、少し速度を抑えながら坂を下る。ロックリザードは、またもや数十匹はいそうな量だが、なんとなく昨日より勢いは無い。


「【斬撃(スラッシュ)】!」


少し手前から斬撃を飛ばしつつ、剣の間合いへと入った。

先頭のロックリザードの爪を弾いて、もう片方でその顔を斬りつけると、ロックリザードは激しく仰け反る。


そして何故か他のロックリザードも、すぐには詰めてこないみたいだ。昨日は間髪入れずに噛みついて来てたのに。


そこで背後からのガルムの剣に、頭を少し引っ込める。

頭上をとてつもない質量の剣が異常な程の剣速で通過していくと、目の前にいたロックリザードが三体ほど無惨に斬り裂かれて絶命した。


レベルアップした訳でもないのに、昨日よりやけに簡単に数が減っていく。



「なるほど、これがこのテンゴールダンジョン特有の………。傾斜による優位性」


「あ、そうか傾斜の上にいる方が有利なんだ」


ロックリザードの明らかに遅い爪攻撃を弾いて斬り返しながら、アルは"高低差"と言う優位性を初めて感じた。

昨日と同じ力で爪と殴り合っても、明らかに手応えが違う。ロックリザード達の勢いも弱い。


「その通りじゃ。"レベルを三つ上げるより高所を取れ"と偉人は言ったそうじゃ。つまり高所には三レベル分の利があると言う事じゃな。近接戦闘においては明らかな高低差は必ずしもその限りではないが、これくらいの傾斜と言う環境であればやはり上の方が有利であろう」


ロックリザードをやや一方的に屠りながら、シオンの言葉を何となく理解する。これは確かに、三レベル分の価値があるかも知れない。


「昔の人は!ためになる事…!言ってるね!」


「これは妾の言葉じゃ」


「………そんな事だろうと思ったよ」


「昔の人には違いない!」


「ガルム、いらんことを言わんでよい」



そんな無駄口が叩けるほどに余裕を持ちながら、アルとガルムはどんどんとロックリザードを斬り刻みながら進んでいった。


そして今日はガルムも直接的に剣を振っている事もあり、昨日の倍以上の早さで群れを倒しきる事に成功する。



「分かってたけど、やっぱりドロップアイテムはないね」


「そうじゃの。ただロックリザード程度のドロップアイテムなど、あってもなくても同じじゃ。妾達はもっと崇高な目的のために来ておるのじゃからな」


「崇高かなぁ?もし成功したらギルドの報酬はしっかり貰うつもりみたいだったけどそれでも崇高?」


「お主はまったくわかっておらんの」


「アル。手前の意見だが、それは違うと思う。崇高な行いにも報酬は有るべきだ。さすれば次の尊い行いにも繋がるというものであろう。無償の奉公はもちろん称賛されるべきであるが、より大きな事を成すには資金が必要な事も多い」


「ほれ見てみい!さすがはガルムじゃ!」


「う…!ごめんって」


「わかったら早く先に進むのじゃ!」



完全に言い負かされたアルは、先頭を切って再び坂道を下っていく。


次に姿を現したのは、三日目にしてこのダンジョンでは初となる、ロックリザード以外の魔物だった。


ガチャガチャと音をたてながら現れたのは、子供が鉱石を継ぎ接ぎして組み立てたロボットみたいな魔物だった。



―――――――――――――――

名前:スチールウォーリアー

Lv:33


スキル:【物理攻撃上昇Lv2】【魔法攻撃耐性Lv2】【筋力上昇Lv1】【剣術Lv2】【連携】【視野拡大】【尾行】【強欲】


武器:スチールの長剣

―――――――――――――――



スチールウォーリアー。

恐らく身体が鋼で構成される、純粋な戦士タイプの魔物。

一体目の奥からゾロゾロと歩み出てくるのは例に漏れず大群。いやこの場合は"大軍"か。


ただそれぞれ持っている武器は様々で、剣、槍、棍棒、棘球などなどだ。

幸い行進の速度はかなり遅いため、逃げようと思えば逃げられるだろう。


そんな選択肢なんて無いけど。



隣ではガルムが【装備換装】で槍を取り出している。


「手前は後ろから突く」


「お手柔らかにね」


一応そんな声をかけながらアルは先行する。

先頭を闊歩(かっぽ)してくる剣持ちの前に躍り出ると、激しく剣をぶつけ合う。敵のレベルはアルより1高い。スキルを加味しても単純な力はほぼ互角の様だ。


敵も【剣術Lv2】を持っており、すぐには斬り崩せない。


二撃、三撃目でようやく少し相手の体勢を崩す。



その瞬間を逃さず、アルの後ろでガルムが動いたのが解った。


右半身を引いて槍の構えは右手前。少し沈んだ体勢から左脚をさらに一歩踏み込む。

軸となる右脚の床が抉れた音がした。



アルは背に感じるとてつもない悪寒に従い、全力で身体を捻る。

次の瞬間には目の前にいた剣持ちの首元に風穴が空いていた。突き出された槍が十本束にして入るほどの大穴が、その貫通力と破壊力を物語っていた。


数瞬遅れて、アルの上腕が僅かに裂ける。



支配者(ドミネーター)】を入れていなければ。ほんの一瞬でも遅れれば。腕が吹き飛んでいたかもしれない。


後ろでガルムが笑ったのが分かった。

しかしアルには解った。それは悪意のある笑いではない。


喜びだ。いや狂喜とも呼べるかも知れない。

アルが彼の一撃を避ける事が出来たと言う事実に、どうしようもなく興奮している。


もしアルを不意討ちで殺す気ならば、胸部か腹部、つまり身体の中心を狙っただろう。それならば到底避ける事など不可能だった。


彼は試したのだ。

アルの限界を。


お手柔らかにって言ったんだけど………?



まぁ………上等だね。




アルも笑って返す事で、その思考がガルムに伝わる。

その言葉もないやり取りは、突き出された槍が瞬時に手元に引き寄せられるそれよりも早かった。



次に迫るのは棍棒持ち。

迫ると言うより既に棍棒は頭上高くから振り下ろされている最中だ。頭目掛けて振り下ろされる棍棒を、アルは避けない。ただ身体を半歩分ズラす。


棍棒が当たる直前で、それを持つ手が弾け飛んだ。

()()が開いたのだ。


そしてそれと全く同時に、隙だらけの棍棒持ちの首は【斬撃(スラッシュ)】により分離される。


アルの腕にはまたしても裂傷。

この程度ならば動きが鈍るほどではない。想定通り。



棍棒持ちの死体の奥からは、既に敵の突き出した槍が迫っている。

ガルムも瞬時に構え直した槍をそいつにむけて突きだしているが、それは間合いの外だ。ガルムの槍は届かない。


しかしアルにはその意図が解った。

敵の槍を避けるとそれを掴んで引っ張る。前に少しだけつんのめった槍持ちの顔面にガルムの槍が見舞われた。



ガルムの一撃に助けられ、そして援護し、さらには利用する。


今や敵の動き以上に、ガルムの動きに気を配っている。

槍の動きは勿論、ガルムの視線、体勢、重心。


弓の時とは比べ物にならないほどに瞬時の判断が要求されるこの戦闘は、背筋がゾクゾクするほど刺激的だ。


ほんの僅かでも思考すれば間に合わない。

周囲の空間で起こっている全てを知覚し、反射レベルで答えを導きだす。


今までにやってきた事を全て注ぎ込む。

己をより高みへと昇華させるため、ただ敵を倒すだけでは足りない。


常に命をかけて。言葉だけではなく、体現するんだ。













「手前は後ろから突く」


「お手柔らかにね」



ガルムは槍に【装備換装】すると、心臓の鼓動が一層激しくなるのを感じた。



昨日は弓。先程は剣を使って戦った。


そして今からは、ついに槍を使う。

ガルムは何となくだが、槍という選択がダンジョンでの雑魚戦を行っていく上で最適解だと感じていた。


最近は大盾を使う事も多かったが、もともとは槍の習熟度が一番高いという事もある。



アルがスチールウォーリアー目掛けて先行。

ガルムもその後ろからついて行った。が、アルの頭の上に居座るシオンが、前ではなくこちらをじっと見据えている。その目は、明らかに何かを伝えようとしていた。


その意図は明確だ。


"遠慮するな"。


間違いない。昨日アルに言われた事と同じ。




しかしガルムは迷った。



彼等と行動を共にし始めて、まだ二ヶ月に足らない。

その中でもアルへの興味は日頃に増していた。


それは戦闘はもちろんの事、日々の行いに至るまで。その誠実で、愚直とも言えるほどの人の良さは、彼の最も良い点だ。他のヒト族には抱いた事もない情も湧きつつある。


そしてやはり際立つのは、その特異なスキルを活かした戦闘。

ただそれらを以てしても、ガルムの持つ理想へと到達するには、彼我のレベル差がある。


まだ早い。理想を押し付けるのは。

そんな考えを持ってしまう。



しかし目の前の狐は、そんな考えを嘲笑うかの様に、なおもこちらを()め付けている。



アルがスチールウォーリアーと斬り合う。

一撃目は互角。ほんの僅かにアルの剣が押し込む。


もしも、狙うのであれば三撃目。そこで敵の体勢が崩れる。



ガルムはその時でさえ、まだ迷っていた。


二撃目。次だ。どうする。

そんな激しい打ち合いの中でも、シオンの視線はガルムから外れない。


もしも全力で槍を放った場合。もしも避けられなければ、死ぬことはないが、腕が飛ぶだろう。回復薬など、出血を塞ぐ応急措置にしかならない程の重傷となる。


ただでさえ冒険者が少ないこの街で、腕を失う。回復魔法を使える者などいないだろう。確実に、彼の冒険者人生に暗雲が立ち込める事になる。



三撃目が打ち合わされる。



ガルムは意を決した。



やるからには手加減はしない。


右脚での踏み切りに合わせた左脚の踏み込み。骨盤、体幹を回旋させ、下肢が生み出す前方への推進力に、回旋力を乗せる。


肩甲骨まで惜しみ無く使い、みしみしと音がなるほどに膨れ上がる両腕で槍を突きだした。



その槍の行く先には、何も残らない。



狙い通り、ロックウォーリアーの首は獲った。


そして槍の範囲すぐそばには、アルの姿があった。

上腕が僅かに斬れるが、完全に回避している。



全身を興奮が駆け巡る。

今思えば、弓や、剣を使っていた時には、やはりどこか手加減していた。そのリミッターの様なものが、この一撃で霧散していく様だった。


雲が取り払われる様に、目の前が開けた。

アルと目が合うと、彼は笑っている。



ガルムも思わず笑っていた。

こんなに気分が良いのは初めてだ。



そこからは全く遠慮しなかった。


アルはガルムの槍を全て紙一重で躱し、尚且つその双剣での攻撃も澱む事はない。

あらゆる体勢から敵の攻撃とガルムの槍を避け、自身の攻撃へと繋げる。


もちろん【支配者(ドミネーター)】の恩恵はあるだろう。周囲のあらゆる物を知覚できるスキルは一対多での戦闘に多大な効果をもたらす。


しかし最も賞賛すべきは、動きの独創性。

一見してトリッキーな動きに見えても、確実に敵とガルムの攻撃を避け、敵の数を減らしていく。


一朝一夕で身に付くような物ではない。

きっとこれまでにも、対複数の戦闘を数えきれないほどに重ねてきたに違いない。しかもレベル的に安全な物ではなく、今のガルムの槍のような攻撃が乱れる中を。


でなければ笑ってなどいられるものか。


スチールウォーリアーの数は未だ増え続けているが、二つの剣と槍も勢いは衰えるどころか、より加速していく。


ガルムはどんどんとアルに引き込まれていく。

その知覚はまるで【支配者(ドミネーター)】を使っているかの如くアルと融合し、槍の動きはまるでアルに糸で引っ張られるかの様に誘導されていく。



スチールウォーリアーを何体倒したのか。

どれだけ傷を負ったのか、時間が過ぎたのか、そんな事すら分からない。いや、どうでも良かった。



最後の一体を倒した時、その夢の様な時間は唐突に終わりを告げた。


ガルムはじわりと汗をかき、肩で息をしていた。



敵のレベルはたかが30ちょっと。

ガルムのレベルを考えれば、何体出て来ようと寝ぼけていても倒せる程の力差がある。


それ以上に、アルとの連携が、ガルムの精神を消耗させていたのだ。



「はぁ、はぁ…。お手柔らかに…、って、はぁ、はぁ。言いません…でした?」


「アル。強さとは何かと言っていただろう。安心しろ。そなたは強い」



アルがきょとんとする。



「まぁ。はぁ…はぁ。スキルに、助けられてます…からね」



「いや、それ以外の部分だ」




未だ膝に手をついて顔を上げられないアルに、拳を突きだす。


彼はますます虚を突かれた顔をしたが、少し照れながらも、拳をぶつけた。

なんだかガルムがヒロインみたいになってきた。

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