表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/110

75話 一石四鳥

アル達がロウブの森から全員で無事に帰ってきてから、一週間が経っていた。


この一週間は三人とも休養とし、アルテミスの街中で過ごした。森の中で一ヶ月以上もサバイバル生活をしていたため、思ったより疲れが溜まっていたみたいだ。


ちなみにアマゾネスの村に回復薬の製法を教えるという約束は、ギャニングさんのおかげで見事達成できた。


ギャニングさんにやはり何かお礼をと言ったが、【空間転移(テレポート)】での移動体験で十分だと言われた。どうやら、かなり彼の好奇心を刺激したらしい。

それに加えてアマゾネスの女性達が採集してきていた多種多様な植物の中から、森の外には出回っていないものをいくつか目敏く見つけて興奮していた。


アル達がお願いするといくらか分けてもらえたため、ギャニングさんも喜んでいた。




そしてアルが今、何をしているかと言うと、馬車に揺られて移動中だ。ちなみにシオンとガルムはいない。アル一人だけだ。

荷台の天井上に座り、一応辺りを警戒している。


予定では一応明日、ファレオ共和国に向けて出発する予定なのだが、アルが今いるのはもっと北だ。ロウブの森さえ越えて、更に北。ブルドー帝国の首都であるイージスへと向かっている。予定ではあと数時間で着くだろう。


何故イージスへと向かっているのかは後述しよう。



アルは寒空を見上げながら、この一週間のアルテミスでの平和な日常を思い返す。


まずは"古の咆哮(エンシェント・ロア)"専属受付嬢のミアさんとの会話だ。









「何はともあれ、三人が無事に帰ってきてくれてホッとしました」


「僕も無事アマゾネスの村を抜け出せて安心してます」


「何を気の抜けた事を。結局、目的としていた首都イージスにはたどり着いておらんじゃろうが」


「うん、それはそうなんだよね。あと半日くらいの所だったんだけどね」



道中のダンジョンは全て攻略したので、イージスにたどり着けなかった事を除けば概ね成功と言えるのかもしれない。



「あぁ、そうだった、忘れてたわ。イージスと言えば一応伝えとくと、ギルドマスターもイージスに向かったのよ。向こうで各国ギルド長の会議があるとかで」


「え?そうなんですか?」


「帰りはタイミングが合えばアル君に【空間転移(テレポート)】で迎えに来てもらおうかな~、とか言ってたけど。まぁほっといても良いわ。ただ、もし行ってくれるならギルドからの指名依頼にしても良いって言ってたけど………」


「それは放っておけばよい。妾達を()に使おうなどとは、とんでもない奴じゃ」



ギルドマスターの儚い要請はシオンに一蹴された。

まぁ実際にイージスには辿り着けてない訳で。もし辿り着いていたのなら、迎えに行くにも魔力を消費するくらいだからいいんだけど。


「会議は一週間程かかるみたいだから、他にすることがなければ考えてみてね?まがいなりにもギルドマスターの護衛任務扱いだから、ギルドポイントとしては相当高いんだからね?そもそも次はどこに行くかもう決めてあるの?」


「次はなんとなくファレオ共和国あたりに行こうかなと話してます。冬の間は暖かい南側で過ごそうかなと………」



そろそろ次の場所を目指して移動しようかと考えていた所でもある。一週間も休んだのは初めてだったので、そろそろダンジョンが恋しくなってきた。



「あぁ、なるほど?ファレオ共和国には"烈火"のみんなもいるしね………?」



アルはドキっとしてしまう。ミアさんの好奇な目が突き刺さる。


そうなのだ。"烈火"のパーティは約五ヶ月前、以前このアルテミスであった誘拐事件で奴隷として売られてしまった人達を探すために、ファレオ共和国へと向かった。

確か人探しが終わればレベル50くらいまでの大型ダンジョンに潜ると言っていたので多分まだいるはずだ。



「いやそういうわけでも無いんですけど………。早い内に各国に【空間転移(テレポート)】で移動できる様になれば便利かなという目論見もありまして」



と言いつつ、"烈火"の皆に会いたくない訳ではもちろんない。

彼等はアルが気を許せる数少ない友人であり、Aランクと認められた実力者だ。もし叶うならば、彼等のダンジョン攻略だって見てみたい。


と言う事で、次の目的地はファレオ共和国に決定したのだった。



それがある日の会話。








「なるほど、"烈火"か。噂は耳にした事があるが、スキルに詳しい者がいるというのは初耳だ。興味深い。是非とも話をしたいものだ」



ガルムに次の行き先を伝えた時は、そんな反応だった。

身体の方はアルテミスに帰ってきてから少しずつ回復し、二日ほどで全快した。


スキルの中には、【竜化】の様に一時的に能力を爆発的に上げる物があって、今回のガルムの様な副作用や反動がある物も存在するらしい。



「スキルと言えば。僕もガルムの変身姿、見てみたかったなぁ」


「妾も興味があるのう」



珍しくシオンも同調した。



「それは残念であったな。滅多に使わないのだ。竜の里以外で使ったのも初めてになる」


「え?そうなの?うわぁもっと惜しい事した………」


「スキルの反動があるからな。一人の時には使えなかった、使う機会も無かったが」


「そうだよね。でもありがとうガルム。命がけでキングガリーラと戦ってくれたんでしょ?」


「アルが礼を言う事でもないがな。それにしてもあんな巨大な猿に頭突きをかまされるとは、良い経験が出来た。世界は広いものだ。まだまだ調査のしがいがあると言う物だな」


そんな事を言っているガルムは嬉しそうにはにかんだ。

しかしそれも一瞬で、すぐに真面目な顔に変わる。



「それはそうとアル。リヴァルの件だが、奴は確かに適合者(サバイバー)と名乗ったと言っておったな?」


「うん、たしかにそう言ってたけど」



リヴァルとの事については、ガルムに一部始終話してある。

もちろんミアさんにも話したが、そんな組織の名前は聞いたことが無いとの事だった。



適合者(サバイバー)と言う名前、どこかで聞いた様に思ったのだが、ようやく思い出したのだ」


「え!?ガルム何か知ってるの!?」


「何故すぐに言わなかったのじゃ」


「あぁすまない。それが冒険者になってからではない、まだ竜の里にいた時の事だ。それ故にすぐにはピンと来なかった」



竜の里。竜人がひっそりと暮らす村。

確かに、噂では竜の里は大陸の最北、ギャルム魔人国の近くにあると言う。もしも適合者(サバイバー)の多くが魔人で構成されるならば、魔人国の近くに拠点があってもおかしくはない。位置的に噂を耳にしていてもおかしくはない…か?


「どんな話だったの?」


「いや、噂と言う訳ではない。数人で里におしかけて来た事があるのだ」


「ぬ?襲われたのか?」


「いや、奴等は我々を味方にしようとしていた。当時の記憶は曖昧だが………」



竜人を味方に。

確かに奴等が掲げているのは殺人の正当化だ。強くなるためであれば人を殺したって構わないと言う理論を並べ立てて。

しかしガルムが竜の里にいた頃となると少なくとも十五年は前だ。そんなに昔からあった組織だったなんて。


「当時と言うのはどれほど前の事じゃ?」


「あれは確か、手前がまだ三百歳程の頃だ」


「さんびゃっ…って事は二百年前!?」



桁が違った。

その組織はそんなに大昔から暗躍していたと言う事なのか。



「当時も、殺人により強くなることは何ら世界の理に反していない、とか、共に世界を正そう、などと言っていた。その時の竜王がすぐに追い返したが」


「ミアさんに知らせとかないと。他に何か言ってなかった?」


「そうだな…。何しろ二百年前の事だからな。それ以外には、我々竜人も、広い世界に出る時だとか言っていたな。空は竜人が支配できるとかも。あぁ、そうだ。あとは奴等には信仰している神がいるらしい。確かアリア様とか言っておったな」


「アリア様?有名な神様なのかな?シオン知ってる?」


「いや。神に知り合いはおらん」



それがある日の会話。









「お!来たな!待ってたぞ!」


アルが入店するや否や興奮した声が店に轟いた。

アル達はもちろんのこと、きっと店の前の十字通りを歩いていた通行人も飛び上がった事だろう。


大声をあげたのは武器屋のマルコムさんだ。

彼は人間ではなくドワーフという種族で、背は小さめだがその身体のゴツさは言葉通り人外だ。もちろん声の大きさも特徴に挙げられる。

彼の声に驚きはしたが、それが何を意味するのかアルには理解できた。



「って事は、出来たの!?」


「あぁ!今取ってきてやる!」


そう言って店の奥へと戻ると、部屋をひっくり返しているのかと思うほどの騒音がした。


「何事だ?大丈夫か?先程も大きな声がしたが…」


「あぁ、大丈夫だよ。頼んでたアレが出来たみたいで、今取ってきてくれてる。帰ってきたら紹介するよ」


騒ぎを聞き付けて店に入ってきたのはガルムだ。

彼の武器や防具の手入れに、マルコムさんを紹介しようと思っていて、いきなりだとビックリするだろうから外で待ってて貰っていたのだ。

そして奥の部屋での音が止まったかと思ったら、マルコムさんは短剣を二本、腕に抱えて持って来た。



「ようやっと見つけたわ!奥の方に隠しておったんだが、奥に入れ過ぎて分からなくなる所だったわ!なんせコレは………わぁっ!いや、違うんだ勘弁してくれ!これが仕事なんだ!?」



しかしマルコムさんはガルムを見た途端、腰を抜かす程に驚いた。

さすがに持っている剣は両手に大事に抱えたままだが、そのまま盛大に尻餅をついたかと思えば、店の奥まで後ずさってしまった。


「何をしとるんじゃ、こやつは?」


「マルコムさん!?どうしたんですか!?大丈夫です!彼はガルムと言って、僕のパーティメンバーです。安心してください。別に危害は加えませんので…!」


「何!?パ、パーティ…?いやそれなら………。いやでも、その。コレは、そのなんと言うか………」


いつもは剛胆なマルコムさんだが、何やら手に持った短剣二本とガルムを交互に見て、もごもご言っている。


あぁなるほどそういう事か………。

以前の僕と同じやつだ。つまり、竜を殺したり、その素材を加工して装備品にしたりすることを怒るのではないかと思っているのだ。



「あぁ、大丈夫ですよ。竜人の人達はそう言うの気にしないらしいんで。僕もそれを作ってもらうときに一応確認しましたし」


「手前ら竜人も、竜を殺すことはあるし、殺した竜は必ず加工して装備品にする。それが竜への尊敬だ」


ガルムの人を落ち着かせる様な深い声は、マルコムさんの動転を宥めた様だった。



「な、何じゃと………?そうなのか?竜人が?………竜を?

そ、それならまぁ、別に。良いんだが。

あぁ、わ、悪かった!さぁ、気を取り直して、これが注文の品だ。この一ヶ月半は他の事がなかなか手につかんかったぞ!」



座ったままのマルコムさんから受け取った二本の剣。ちゃんと鞘と剣帯も作ってくれている。ちなみに料金は二本で百万。毎度お金を受け取って貰えないマルコムさんに、無理やり支払った。


二本のうちの一本を鞘から取り出すと、紅い刀身が露になった。握って翳してみると、それ自体がまだ魔力を帯びている様な輝きを放っている。


「紅い…?確か渡した牙は白だったけど…」


「強い魔力を持つ魔物は、加工すると色が変わることがよくあるのじゃ。その魔物の生前を表すような色にの。もしも妾の死体から剣を作れば銀色とかかのう?」


「その説明の通りだ!」


「シオン、縁起でもないこと言わないで………」



これはアル達がクープで倒した赤竜から造った剣だ。正確には、アルは殺されかけただけで、シオンが一人で倒したわけだが。その素材の中でも竜歯と呼ばれる特別な牙から造ってもらった短剣。

スキルは【魔法威力増加Lv3】が付与されている。


目の前で炎の息吹(ブレス)を吹きかけられそうになった時。あの時の竜の口臭や喉の奥にちらつく炎をまだ鮮明に覚えている。あそこに並んで生えていた牙の二つが、今こうして剣になって手の中にあると言うのは不思議な感覚だった。


「なんじゃ、お前さん。泣いとるんか?」


「いや、生きててよかったと思って」


「まぁそうだろうな。俺も竜の素材を加工する時には毎回、そいつが至高の存在だと言うことを思い知る。注文通り、今のやつより少し長めだが、実際は軽くなるはずだ。刃こぼれもしにくいし、切れ味は相当上がる。保証する」


腰から提げていた剣二本を【保管(ストレージ)】に放り込むと、受け取った赤竜の短剣二本を装備する。

腰から提げただけでも、今までの二本より軽いのが分かる。



「お、おめぇ、今。短剣二本をどこにやったんだ…!?」



……………あ。

マルコムさんには【空間魔法】の事言ってないんだった。



それがある日の会話。











そして時は戻り現在。

つまり、アルはブルドー帝国の首都であるイージスへと向かっているのだ。そこに出張中の、アルテミスギルドギルドマスターのルイさんを迎えに行っている訳である。


シオンは放っておけと言っていたけど、なんとなく見捨てる気にもならない。彼にはお世話になっているし。


一ヶ月前に到達したシグリッドの街からは荷馬車で半日という事だったので、身体を休養させながら移動しているという一石二鳥だ。身体を休めながら護衛依頼も受けることができて、イージスまで辿り着けたらギルドマスターからの指名依頼が数秒で達成できる。

あ、一石三鳥か。


………ってそんなこと考えていたら、こうなるんだよ。



「お、おい!冒険者の坊主!出番だぞ!ほんとに大丈夫なんだろうな!?」



アルは荷馬車の屋根に立ち、そいつらを見下ろした。


そこにはぼろ布を纏った男達が七人。

傭兵がアル一人だけと見て、余裕だと思ったのか、まだ仕掛けては来ない。一通り【鑑定】してみると、全員が職業:盗賊だ。レベルは高い人で21。低い人で17。


「うーん。多分大丈夫です」



アルは荷馬車から飛び降りると、赤竜の剣を抜き放った。


「殺しはしませんが、少なくとも痛い目にはあってもらいますよ」


アルのその言葉に、盗賊達は大笑いした。

そして紅く光るアルの剣に目をつけた様だった。


「かぁー!双剣使いたぁ恐れ入ったなぁ!」

「どうみても新人(ルーキー)丸出しって感じだぜ!?」

「にしても良さそうな剣だなァ!?おめェの腕ごと(いただ)いてやるよォ!」


レベル21の盗賊が斬りかかってくる。

その動きは全く洗練されておらず、明らかに遅い。


レベル21と言えば、モンスターで言えばアルテミスダンジョンのオークソルジャーくらいか。まだオークソルジャーの方がマシな武器使ってた様な………。


正面から振り下ろされた、見るからに刃こぼれした剣。

それを赤竜の剣で真っ直ぐ迎え討つ。【斬撃(スラッシュ)】を使っている訳でもないのに、空中に紅い軌跡が残る太刀筋で、予想通り盗賊の剣を斬り砕いた。


「え?」


すかさず腹部を蹴り飛ばすと、他の盗賊達の向こう側まで吹き飛んでいく。そして酷い格好で地面に着地したかと思うと、次には激しく嘔吐した。



「一人減って、あとは六人。武器は剣が二人、斧、槍、短剣が一人ずつ。良いね。一度、色んな武器に囲まれてみたかったんだ」



この一週間溜まっていた闘志が沸々と燃えてくるのを感じた。

そして盗賊達には、それから十分程。アルの()()に、付き合って貰った。あまり練習にはならなかったが、この程度の相手であればアル一人でも余裕をもって倒せるというのが分かった事も収穫だ。



結局、盗賊達はしっかりと縄で縛って荷馬車で引っ張った。こいつらを突き出せば小銭稼ぎにもなる。

これで一石四鳥になった。


そこから更に数時間ほど行った所で、ようやくブルドー帝国の首都、イージスに到着したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ