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74話 適合者《サバイバー》

毎週土曜日16時頃には更新するようにします!

あと調子よかったら水曜日くらいにも!

毎度毎度、この道を通る度に、吐き気がしそうになる。


どこから続いていたのか分からないほど果てしない石畳をようやく歩いてきて、今度は石造りの階段に差し掛かる。一段目に片足を乗せた所で、どうしようもない気持ちになって天を仰ぐ。


空は一面が曇に覆われており、それらは紫がかっている。

強い魔力場と、濃度の高い空気中の魔粒子のせいでそんな色になっているらしいが、一度(ひとたび)国外で青空を見てからここに帰ってくると余計に陰鬱に感じてしまう。


精神的にも身体的にも足取りは重く、身に付けている防具や剣、丸盾(ラウンドシールド)の重さも、普段の倍以上に感じた。


紫の空から少し視線を落とすと、その紫雲を突き刺すようないくつもの石塔が目に入る。

これから登らんとする階段の先、そこには巨大で、それでいて何の絢爛さも無い無骨な城がそびえていた。こんな辺鄙(へんぴ)な場所もさることながら、装飾一つ無いその外観はまるで廃城の様だ。



諦めて階段を登り始めると、正面の重厚な扉が開くのが見える。

迎え入れてくれる為ではないだろう。入れ違いに誰かが出てきているのだ。



嫌な予感からは逃れられず、階段を登りきる直前に、その人物とすれ違う事になった。



「あっれぇぇぇー?リヴァたんじゃねぇ!?超ひさし振りぃ!?」



明らかにこちらの雰囲気を()()()()ハイテンションな声音が、無機質な石段に反響した。


その人物は二十代半ばほどの男。ツンツンと尖らせた茶色の髪の毛につり上がった目。人を小馬鹿にした様な表情を作るのが何よりの得意技。着ているものは色鮮やか、と言うより絵の具をごちゃ混ぜにしたようなとりとめの無いカラフルな服装。

名をモランと言う。



「やぁモラン。久しいね。僕は"プレデター"に用があるから」


「なになになになに!ツレないじゃん、リぃヴァたぁん!長期作戦だったんっしょ!?どうだった?うまくいった!?楽しかったぁ!?」



リヴァルはモランという男が嫌いだった。

モランとはプレデターがつけた、言ってみればコードネームの様なもので、"まぬけ"などの意味がある。


だが"プレデター"も、彼が本当にまぬけだからそんな名前をつけたわけではない。


まぬけどころか、この男はかなりの切れ者だ。それはここ数年の付き合いで嫌と言うほど分かっていた。今もリヴァルにつきつけられている、人を苛つかせる様な態度は作られた物だ。本当は誰よりも腹黒く、虎視眈々と上の地位を狙っている。



「もう分かってるんだろ?何?僕の口から言わせたいの?あぁそうだよ。失敗さ。たかが石ころ一つのために何ヵ月もかけたって言うのに、結局成果はゼロさ」


今思い返せば、あの変な黒髪の奴さえいなければ、今ごろはこんな憂鬱を感じる事も無かったんだ。獄炎石はこの手の中にあったって言うのに、たった一人の少年から逃げ出せなかった。


モランは水を得た魚だ。ニタリと大きく嗤うと、リヴァルの肩をバシバシと叩いた。


「そんな顔すんなってぇ!そんな事もあるあるゥ!気にしたら負けだぜぇ!?ほーらみてみろぉ、俺はお前がミスったって聞いてもぜーぜん気にならねぇよぉ!?

………プレデターはお怒りになるだろうけどねぇ?

なんたって最高級の"寄生魔虫"まで持ってったんだろぉ?それじゃあ罰として手足の一本くらいはしゃあねぇよぉ」



嫌みだけを残して階段を降りていくモランを、舌打ちで見送ると、リヴァルは城へと入っていった。



 


城の中の様子は外観に違わず、やはり飾り気の無いものだった。


途中で何人かとすれ違う。顔見知りと言えばそうだが、気さくに話しかけて来るような知り合いはいない。


数分ほど重たい足を動かして、ようやく目的の扉へとたどり着いた。

扉の前には重装備の男が二人立っており、リヴァルをじっと見据えると、その内の片方が端的に言った。



「しばし待て」



また、いつものやつだ。

案の定。黙って待っていると、その沈黙が故に部屋の中から声が聞こえてくる。


なるべく考えないように意識しながら待つこと数分。


中の声が落ち着いた所で、二人のうち一人が覗き穴で室内を確認。片方がノックの後「失礼します」と入室した。そして数秒後にまた出てくると、「王子がお会いになる」とリヴァルに告げた。



少しだけ開かれた扉を抜けると、すぐに片膝をついて頭を垂れる。

恐らく最高級品だろう敷物の一歩手前。石畳を睨み付けながら、声を張り上げた。



「リヴァル。ただいま戻りました」



数秒の沈黙。


まだ頭を上げることを許されていないリヴァルは、心臓を跳ねさせながら、ただ床を見つめることしか出来ない。



「………暴君と呼ばれる王がいた」


唐突な内容で部屋に響いたのは、海の様に深く、重たい声。

その声はリヴァルの臓物を震わせた。それはただの声のはずなのに、重力さえ操っているのかと疑いたくなるほどにリヴァルの全身を冷たい床に圧しつける。



「彼の王が配下に与える仕打ちは、冷酷な物であった。些細な失敗を赦すどころか、不条理な理で刑に処した。ある者はその醜い容貌のために火あぶりとされ、ある者は王の前で咳をした罪で喉を斬られた」



微かに、クスッと違う笑い声がいくつかした。

彼の声とは違う、浅はかな女のそれだった。



「その王には元より配下などいなかったのだ。ただ、己の権力を知らしめる事さえできる対象がいれば良かった。

だが、リヴァルよ。私にとってお前はそうではない。果たして、お前が"どの様にしくじったのか"を報告せよ」



まだ失敗などとは一言も言っていないが、リヴァルの声の調子で分かったのか。しかし今はそんな事はどうでも良かった。


実態の無い圧力がみしみしと増していく。まるで首筋に刃を突きつけられているかの様な幻覚を感じる。いや、既に刃が皮膚を斬り裂き、頸動脈にさえ食い込んでいてもおかしくない。でなければ、何故痛みを感じるのか。


歯と歯がガチガチと音をたてて話すのもままならないのではないかと思った。


震える喉と歯の隙間を縫って、なんとか声を絞り出すと、リヴァルは事の経緯を説明した。


もちろん嘘をつこうなど、露ほども思わない。


そして拙い説明を終えた時には、リヴァルの額や鼻先から、汗が滴り落ちていた。


床しか見えていないはずなのに、水溜まりになりかけている事にようやく気づく。たとえ今、失禁していたとしても、もしかしたら気がつかないかもしれない。



(おもて)を上げろ」


その言葉とともに幾分か、感じていた圧力が和らいだ。



ゆっくりと視線を上げると、そこにはこの城で唯一、豪華と言える椅子が一脚。


そこに脚を組んで座っているのは壮年の男性だった。

豪華な椅子とはうってかわって、腰にシーツを巻き付けているだけの半裸と言っていい格好。しかし筋肉質な肉体と相まってまるで絵画を見ているかの様に美しかった。


男の名はジルベルト。ギャルム魔人国、第一王子。

裏の顔は秘密組織、適合者(サバイバー)のトップ、コードネームはプレデター。


ジルベルト王子はその端整な顔を退屈そうに弛ませ、顔に垂れていた金色のロングヘアーを片側の耳にかけた。


ジルベルト王子は一人ではなかった。

クスッと言う声の出所が三人ほど。街を歩くだけでは滅多にお目にかかれない程の美女が三人。二人は魔人、一人は人間だ。

三人とも薄いガウンを裸の上から羽織っているだけ。


美女のうちの一人が、露になったジルベルト王子の片耳に(かじ)りつくと、ジルベルト王子はそれを鬱陶しそうに払い除けた。


「今は待て。リヴァル、お前も汗を拭け」


リヴァルは袖で汗を拭う。先程までの圧力は感じないが、依然としてじわりと汗ばむのは止められそうもない。



「その冒険者のレベルは、お前には及ばなかった事は明確だ。では何故そのような事になった?」


その声音は、怒り心頭と言うよりも、単なる疑問の様だった。リヴァルは弁明のチャンスとばかりに、その質問に飛び付いた。



「おっしゃる通りです。その冒険者は黒い障壁を自在に作り出し、その斬撃は宙に軌跡を残しました。見たこともないスキルだったと言うのは言い訳でしかないと理解しておりますが、………陛下?」



リヴァルの必死の弁明は、最後まで続かなかった。

先程まで"退屈"を体現する態度だったジルベルト王子は、リヴァルの言葉に弾かれた様に立ち上がった。

周りに侍っていた美女たちも驚き、一人は尻もちをついた。


「へ…陛下?一体………」



王子の目はリヴァルに向けられていたが、既にここでないどこか遠くを見ていた。

そしてぽつりぽつりと、誰にという訳でもなく呟いた。



「まさか………。()()()()に?

………リヴァル。その者は獣を従えていたか?」



王子の様子に呆気に取られていたリヴァルは、突然の問いに即座には返答できなかった。彼の事が気になりつつも、懸命に数日前の事を思い出そうとする。



「えぇ……、あの…。えぇ…は、はい!確かに、ほんの小さな子狐の様でしたが、確かに獣は常に共におりました」



王子にはその答えで満足だったのだろう。

その顔には狂喜が浮かんでいた。普段は感情を動かすことの無い彼のこんな様子は見たことがなかった。



「リヴァル。お前を誉めなければ。今回の任。決して失敗ではない。否、仕方ないとも言えよう」



その言葉に心のどこかで安堵するが、今気になるのはその点ではなかった。一体何が、王子を。はたまた"プレデター"の心を、そこまで動かしたのか。


知りたい………。

しかし彼の琴線に触れてしまえば、それまでだ。即刻殺されてしまう。いや殺されるだけならまだ良いかもしれない。

しかしリヴァルは我慢できなかった。リヴァルの傷つけられた自尊心(プライド)が背中を押した。


「陛下。一体何者なのでしょうか」



プレデターの視線に、背中が凍り付く。

しかしプレデターは少しだけ顔を弛ませた。その事実がリヴァルに、叱責されるよりも強い恐怖を感じさせた。



「お前には分かるまい。まさか、()が在任中に。かのような奇跡が起ころうとは。否、これこそ定められた運命」



王子の高笑いが城中に響き渡った。

膨れ上がった魔力が城全体を揺らす。



「ついにこの地にもどられたのだ、我々の"キング()"が!!!」

作者は褒めて伸びるゆとり世代です!ほんのちょっぴりでも続きが気になった方はブクマでも感想でもレビューなんかもお願いします!


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