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69話 呪い

「と、言うことだ。とりあえず各集落の戦士のデータを提出するよう求める。この森の状況も変わりつつある。ここらで一度、互いの腹を割って話そうではないか」


セルゲイさんが全員を見回しながら呼び掛ける。


「ちょっと待ってくれないかい?レベル40以上の戦士のデータを提出?互いの集落の仲が良いとも言えないのに手の内をさらけ出せって?たまったもんじゃないね。背後を気にしながらキングガリーラと戦うってのかい?」


アルは戸惑っていた。

シオンとガルムの意図が分からなかった。

あのキングガリーラと戦えば被害は甚大な物となる。

【烈火】レベルのAランクパーティが五組集まっても無傷とはいかないたろう。

すぐさま【共有(ユニフィケイション)Lv1】で尋ねる。



"そんなにキングガリーラの被害がすごいの?"


"いや、そこは正直どうでも良いのじゃ。このセルゲイの集落ではなにやら不審な動きがあるでの。キングガリーラの討伐に乗じて何かするつもりらしい。それを探るにはもう少し話を進める必要がある"


"何かするって?"


"うむ。それが何かはまだ分からんが"


「アマゾネスの長は何を心配しておられるのかな?」


「もしも互いの戦力が公となった際に、あたいらが潰されることを恐れているね」


「ハハハハハッ。何故我々がアマゾネスを潰す?」


「何故だろうね?何にせよあたい達は参加しない。やるなら勝手にしな」


「それこそ私達全員を敵に回すことになるぞ、アマゾネス」


「脅しているのかい?………忘れたのか?あたい等とやるってことがどういう事なのか」


エヴァさんとセルゲイさんの間に不穏な空気が流れる。

その場の全員が、ピリッとした緊迫感に息を飲む。


その場に出席している長達はだいたいがレベル50いかないくらいだ。

いざとなればエヴァさん一人でも逃げられるだろうが、メリッサさんとアルは微妙な立ち位置だ。


"大丈夫じゃ。少なくともセルゲイはここで手を出すほど馬鹿ではない。エヴァの持つ奥の手についても知っておる様じゃしの"


"奥の手?確かにエヴァさんの実力に敵う人はいなさそうだけど"


"そういう事ではない。なんにせよ妾も魔力が限界じゃ。妾はアルの方へと行くが、ガルムはどうするかの?"


"手前はもう少しここで探ってみよう。誰が糸を引いているのか解るかもしれない。解った所で手前のレベルではどうにもならんかも知れないが、すぐに知らせる"




議会の方では、諦めた様な声を出したのはエヴァさんだった。


「分かった、仕方ないね………。戦闘に参加する戦士のレベルと使う武器だけだ。それらを全部並べて無理そうならば潔く討伐は諦めてもらう」


「それで構わぬ。無用な戦死者を出すのは望むところではない。次は皆がデータを揃えて三日後で良いだろう」



エヴァさんが無言で席を立ち、建物から出ていくのを後ろから追いかける。アルの目的通りシオンとガルムは見つかったけど、何やらややこしい事に巻き込まれそうな気がしてならない。





集落を出た所で、後ろからシオンが追いかけてきた。

勢いよくアルを駆け登ると、定位置の頭の上に居座る。


「ふぅ、やはりここが落ち着くの。あー魔力が身に染みる。もう一週間遅ければ送り還されておったぞ」


「え?狐がしゃべった!?しかもセルゲイの所にいた狐じゃないの!?」


横でメリッサさんが驚きの声を上げる。


「あぁ、メリッサさん大丈夫です。こいつは僕の仲間でシオンと言います」


「こいつの保護者じゃ。妾は断じて婚約など認めんぞ」


「このちっこい狐が?保護者?へぇ?面白いね。でもつい最近だったかな?アルフォンス君、あなたのいない所で死にかけてたわよ?小さな保護者さん?」


「痛いっ!シオン爪立てないで爪!」


シオンと格闘していると、エヴァさんがこちらをじっと見ていた。

何となくその目は警戒している様にも見える。


「お前さん、何者だい?」


「お主こそ何者じゃ。妾の(あるじ)に何をしようとしたのじゃ」


睨み合う両者。

一瞬でメリッサさんとエヴァさん対シオンの構図が出来上がってしまった。慌ててアルが止めに入る。



「ちょっとストップ!ストーップ!二人とも大丈夫なので落ち着いて下さい!エヴァさんすみません。こいつは僕が異世界から召喚した魔物でして、むやみやたらと攻撃する様な事はありませんので!

あと、こらっシオン!お前はそこまでつっかかる必要ないだろ!?」


「アルよ足りんぞ!もっと言ってやれ!こやつが何歳か知らぬが所詮妾の十分の一も生きておらんのじゃぞ!?もっと敬えと言い聞かせろ!」


「なるほどね。坊やに【マーキング】が効かない理由が分かったよ。この坊やは既にこの狐さんと"契約"しているんだ。よってあたい達が後からいくら【マーキング】しようと無駄だったと言う訳さ」


「【マーキング】じゃと!?まさかアルお主!?」



図上からシオンが慌てて顔を覗いてくる。

その神妙な顔は今までに見たことがない。



「な、………何?」


「………やったのか?」


「やってないから」


そんな事だろうと思った。

こいつにそんな事がバレようものなら、何故か知り合いの女性陣からコテンパンに言われそうな気がしてならない。本当に危なかった。よく頑張った僕の理性。とりあえずこれからはシオンが常に一緒にいるだろうからきっと大丈夫だ。


「チューまでは試したんだけどね」


「余計な事を!?」


「何!?この節操無しめ!メスであれば誰でも良いのか!?」


「痛い痛い痛いー!」


こうしてなんとか、無事シオン達と合流出来たのだった。













「そう言えばお主、どうやってアルテミスに帰ったのじゃ?レベルアップしておったであろう」


「あぁ。このアマゾネスの村には祭場があって、それがあの御神木のてっぺんにあるんだよ。あそこからなら【空間転移(テレポート)】出来たんだ。いつも夜はアルテミスまで帰って、また朝来てるんだよ」


「なるほどの。あそこまで高い場所ならばダンジョンの魔力場の乱れも少ないと言う訳か。お主そこまで考えておったのか?」


「いや全然」


「であろうの」


アマゾネスの村に帰ると、まだ昼過ぎだった。

メリッサさんはこれからまた狩りに出掛けなければならないとの事だが、アル達二人はまたしてもエヴァさんに呼ばれていた。



エヴァさんについて行って建物に入ると、エヴァさんは本当に御高齢の様にゆっくりと椅子に座った。

あんなにステータスが高いのに、わざわざあんな座り方をするのが違和感だ。


「お前さん達、ずいぶんと変わってるね。あたいがこんなにも興味をそそられたのは久し振りだよ。どれ、あたいも一度【マーキング】を試してみるかね?」


「え!?」


「安心しな、冗談だよ。まぁ座ったらどうだい?」



そんなキツイ冗談をぶっこみながらも、エヴァさんは本当に疲れている様に見えた。

力無く笑うと背もたれに身を預け、大きく息を吐き出す。


「それで狐さん、シオンさんと言ったかね?実際の所、あの場に集まった(おさ)達が各集落でのトップの実力者と考えてくれて良い。それでどうだい?キングガリーラを倒せると思うかい?」


「まず無理じゃろうの。八割の確率で全滅じゃ。残り二割の確率で、各長がなんとか生き残る程度か。ほぼ間違いなくレベル45以下の者は死ぬじゃろう」


「だろうね?それならあの場で何故、反対派に回らなかったんだい?」


「それはキングガリーラを討伐しようとした場合じゃ。言ったように追い払うだけであれば他に何か策があるやもしれん。それに何やらキングガリーラ討伐以外の目的で動いておる者がいる様での。それを割り出すためにはある程度そいつらの思い通りに事が運んだ方が良い。お主、何か心当たりが無いのか?」



エヴァさんは呆れたように両目を瞑ると、気だるそうに話し始めた。



「あぁそれなら、おそらく目的はあたい等だね。アマゾネスの女達が目当てなんだよ。あたい等は【マーキング】により、他の集落の男と交配し子を成す。そしてその子が女児ならこの村に留め、男児なら父親のもとへと連れていく。必然的に他の集落には男の割合が増える。そうなれば(つがい)から溢れた男共はあたい達を狙いに来ると言うわけだよ」


恐らく過去にもそういう事があったのだろう。

エヴァさんの表情からは、その問題がここ何年と言った話ではない様に感じる。そして言葉を続けた。


「キングガリーラの前にはまさにその議題が長らく話し合われてきた。アマゾネスの女達を各集落に分配すると言う話だ」


「なぜそうはならぬのじゃ?わざわざ夫を持たず、腹を痛めて産んだ我が子と離れて暮らす。お主等も辛かろう」


「それはアマゾネスの呪いと言う奴さね。あたい等アマゾネスの女は【マーキング】と言うスキルを必ず持っている。狙った男を必ず得られると言うスキルだが。その代償は今、その坊やが実をもって体験しているだろう?」


アルはすぐに、それがメリッサさんの事だと解った。


「恋に落ちると豹変する………と言う事ですか?でもそれは単に恋愛そのものに慣れていないだけなのでは?」


「そんな甘いものではないさ。これは呪いだよ。特に夜になると、自我を失うほどまでに己の欲望に支配されるのさ。こんな女達がアマゾネス以外の女達と住めると思うかい?他の夫婦達と一緒に?無理だね。あたいは夫となった男を裏切ることも、友の夫に手を出す様な事もしたくはないんだよ」


なるほど。

まさかアマゾネスの恋がそこまで強制力の強い物だったなんて知らなかった。まさにそれは呪いと呼ぶに相応しい物なのかもしれない。


「それをあの場できちんと説明すれば…」


「あたい等がそれを説明していないと思うのかい。いくら説明した所で、男の言い分さ。男と言う奴はヤれればそれでいいのさ。男共はそりゃ良いさね。女の方から(また)がって来てくれたらね。だがアマゾネスとそれ以外の女達では必ず確執が生じる。今でさえ集落の女達はあたい等を疎んでるって言うのに」


アルは言葉が返せなくなってしまう。

スキルの"呪い"。そんな事は考えた事がなかった。


確かに思い出せば"烈火"のセシリアさん。彼女は【初期ステータス上昇】のスキルを持っている。それにより、辛い幼少気を過ごした。それからゴールドナイツのローリさん。彼女は【戦闘狂】と言うスキルを持っていた。あれも呪いと言っても良い程の物だ。


「なるほどの。確かにそれは考えられる事じゃ。キングガリーラ討伐で弱った所を強行手段に出てくる可能性はあるか………」


「まぁあたい等も馬鹿じゃないよ。村の防衛に必要な戦力くらいは隠しておくさね。まずはキングガリーラの討伐自体を止めさせる事が先決だがね。もちろん追っ払う手があるなら協力はするが」


「それは三日後に集まるデータ次第じゃな。各集落がどの程度戦力を公にしてくるのか見物じゃの。

……………よし。それならば本題じゃ。何でもうちのアルフォンスに命を助けた恩を返せと迫っておるらしいの?」


「ん?あぁ。その通りだよ」 


「もちろん、助けてくれた礼はする。残り二割と言ったかの?それならば回復薬とその製法を与えよう。そなた等は持っておらぬの?確実にあって損は無い物じゃ。それで手を打て」


「あ!回復薬!忘れてた………って、え!?ここって回復薬無いの!?」


「うむ。無いのじゃ。少なくともセルゲイの集落には無かった」


「回復薬の製法だって?それが本当ならそれで手を打とうじゃないか」



これは、予想外だった。

アルもエルサの所の回復薬を買い込んでは来ていたが、武器と料理を出した後ですっかり忘れていたのだ。


エヴァさんは回復薬の存在自体は知っている様だった。

聞けば過去に何度か、この森に迷い混んだ冒険者から分けてもらえた事があるらしい。


アルは買い溜めていたエルサ製の回復薬を百個分譲渡し、また製法については後日伝えると言うことで手を打った。



「いやー。まさかこんなにあっさりと解決するなんて思ってもみなかったよ。あれこれ出費したのが馬鹿みたいだよ」


エヴァさんの所から帰りながら、安堵感でため息が出た。

一時はどうなることかと思ったが、さすがシオンだ。




「あれこれ出費とは何じゃ?」


「あぁ。残り二割の恩を返さないといけないって言ったでしょ?八割返すのに外の武器やら料理やら貢いで二百万くらい使っちゃったんだよね。その中でエルサの回復薬も買ってたんだよ」


「なんじゃと!?二百万!?」


「え?う、うん」


「お主は阿呆かっ!少し落ち着いて考えればこいつ等が回復薬持ってないことくらい分かるであろうが!このまぬけ!二百万もドブに棄ておって!」


「なんだよ!早く解放されてガルムとシオンを捜さなきゃって焦ってたんじゃんか!それにドブってなんだよ!ここの人達のために少しくらい使ったってバチは当たらないだろ!?」


「かぁーっ!このお人好しがっ!今からでも遅くない!回復薬の分は逆に恩を売ってこい!押し売ってこい!」


「そんなかっこ悪いこと出来るわけないだろ!?こう言うのはいつか巡り巡って還ってくる物なの!自分から主張するものじゃないの!」


「お主なんぞ知らん!この節操無しが!このっ!」


「痛い痛い痛い痛いーっ!」




そしてそこから丸二日間。

シオンの地獄の様なしごきが始まったのだった。


具体的には、レベル38のイビルボアやレベル37のミニチュアガリーラと一対一をさせられたり、レッドモンキーの群れに突っ込まされたり等だ。


しかしそれも成果はあった。

まず新たなスキル、【投擲Lv1】と【曲芸】を獲得した。


それから森の中での動き方が上手くなったし、【魔力消費軽減Lv5】を付けた状態での【斬撃(スラッシュ)】や【(シールド)】の魔力消費にもかなり慣れてきた。あと大盾の練習をしていたのも、魔物が正面から迫る恐怖心に耐性が出来たという点では地味に効果が出ていると思った。………多分。


一方ガルムの方からは、三日目の議会まで連絡は全く無かった。

と言うより、どう連絡を取るのかも決めていなかったため、連絡したくてもできなかったのかも知れないが。





そして議会の日はやってきた。


全ての集落の戦士達のデータが出揃った結果、レベル45以上の戦士が四十名近く集まると言う事実が判明した。


それにより、アマゾネスの意向に反し、なんとキングガリーラの討伐が現実のものとなったのである。

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