67話 アマゾネス
風邪を引いて寝込んでおりました………。
最近書く時間がないっ!
「あと二十四年分かぁ………」
「元気出しなよアルっち」
「ここでの生活も悪くないぞ?」
「それにしても良い武器だね。アルフォンス君が作ったの?」
女性戦士達に囲まれて、励ましの様な言葉を貰う。
アルは今日も、彼女達の狩りに同行している。可能であれば彼女達の手伝いをすることで刑期を減らしてもらいたい所だ。
しかし実際には、彼女達にアルの手助けが必要かと言われればそうでもない。彼女達は十代からずっと一緒に戦ってきたと言う。そのコンビネーションは抜群だ。
ちなみに集団の先頭を歩いているのは昨日から引き続き盾持ちのメリッサさんだ。彼女とは昨日以降まだ話していない。どうにもアルを避けている様な印象さえある。
まだ全部ではないと言っても、三十六年分の恩を返したことが気に入らないのだろうか。
メリッサさんが手を挙げて集団を止める。
敵を見つけたと言う合図だ。
基本的にメリッサさんより敵の方が先に気付くことはない。【気配察知Lv3】の恩恵だろう。
しかしメリッサさんからは、それ以降合図が出ない。
じっと敵を見据えて、動かないままである。
敵のレベルが高く、手を出さない時にはそのまま進路を変更する。アマゾネス達は用心深い。
そして数分歩いた後に、またメリッサさんが合図を出す。
来た。次の獲物はミニチュアガリーラだ。
まさかこいつが二体目から来てくれるとは。
アルも意気揚々と参戦しようとする。
「あ、あんたも戦うの…?」
メリッサさんからの一言目はそんな言葉だった。
別に咎める様な口調ではなく、戸惑った様な印象を受ける。
「えぇ、迷惑はかけないようにします」
アルはなるべく平静を装って声を返すと、横からの攻撃部隊に参加する。
初手はやはり盾二人の誘導。
ミニチュアガリーラの敵視を固定する。
そして両側からの挟撃が開始される。
アマゾネス達と呼吸を合わせ、ミニチュアガリーラへと飛び付く。
アルは【支配者】を使うと、十人のアマゾネス全員の動きを把握する。
その中でミニチュアガリーラの攻撃的パターンを読みながら、アルが参加しても邪魔にならないスペース、タイミングを吟味する。
剣を持ったアマゾネスの一人、ペトラさんが離脱するのと入れ代わりに接近し、【斬撃】で攻撃する。
ミニチュアガリーラは魔法の耐性が低いため、かなりの深さで傷が入る。昨日レベルが二つ上がった事も大きい。
後方で再度ペトラさんが準備しているため、すぐに離脱。
が。しかしなんと、ガリーラの敵視が外れ、アルの方を向き直ってしまった。
「え!?」
その声はアルからではない。
アルと入れ代わりにミニチュアガリーラに接近していたペトラさんからだ。あまり正面に立った経験はないのか、動けなくなってしまう。
ミニチュアガリーラがこちらに接近してくる。
「まずい…!」
アルはすぐに前に出ると、ペトラさんを後ろ手に庇う。
ミニチュアガリーラの拳が当たる五十センチの所で、【盾】が現れ、それを受け止める。
風圧だけが突き抜けてアル達二人を撫でた。
「きゃっ!アルっち、肘で胸触ってる!」
「すみません!?あなた余裕ですね!?」
アルの指輪は【魔力消費軽減Lv5】が付与されている。かなりの魔力を込めても消費は僅か。よってその分かなり硬い【盾】が出せる様になっている。
しかしそれでもパンチ二発で粉々になった。
アルは続けざまに【盾】で防ぎながら、少しずつ下がる。
メリッサさん達が二、三回攻撃したところで、ミニチュアガリーラは再度、盾へと向き直った。
「やっと攻撃できるよ!アルフォンス君は少しおとなしくしてて!」
ペトラさんにそう言われて、アルはおとなしくステイした。
その後、一糸乱れぬ連携を取り戻したアマゾネス達によって、ミニチュアガリーラはすぐに倒れた。
「あんたさっき何したの?」
「一発で取っちゃうなんて凄いね?」
「まさか。何かしらスキル使ったんでしょ?」
「えー?スキル使ってる様には見えなかったけどなぁ?あ、でも何か斬った所が黒く?なってたから、あれは何かのスキルかも?」
「で、どうなの?」
正座で尋問されるアル。
邪魔をしようとしたのではないため、正直に【斬撃】について伝える。
「魔法?何それ?」
返ってきた言葉はアルの予想通りだった。
彼女達アマゾネスには、魔法を使える人がいないのだ。百人近く【鑑定】したが一人もだ。何故かはアルにも分からない。
そこからアルはなんとか誤魔化し、使ったのは攻撃系のスキルだが、敵視を奪い取る様なものではないとなんとか分かってもらえた。しかしやはり、攻撃するとせっかくの連携を乱してしまう事を指摘され、アルは【斬撃】を禁じられた。
「あんたさっき盾出してたよね?それならメリー達と盾やればいいじゃん?」
「え?僕が盾役を!?」
「え!?あ、あたい達と!?」
メリッサさんと一瞬目が合うが、すぐに逸らされてしまう。
正直気まずい状態だが、アルには時間も、わがままを言っている暇もない。役に立つ所で頑張らねばならない。
「な、何でもやります!」
そしてアルは盾役を始めた。
*
「せーのっ!」
メリッサさん達の横に立ち、アルは全身が隠れるほどの盾を構えている。盾の向こう側、見えない所から凄まじい衝撃が全身を襲う。腕から背骨にまで響く衝撃は敵の強さを示していた。
イビルボア。レベル38。
猪の様な魔物だが、まずは例に漏れないその巨体。鼻から尾まで十メートル近くある。そして次に口から前方へと伸びる巨大な四本の牙。その一本一本が、二メートル程もある。
攻撃パターンは、突進。牙の振り回し。噛みつき。蹴り。
それだけだ。しかし純粋に力が強いため一つ一つの単純な攻撃が十分脅威となる。
「もっかい!せーのっ!」
再度の衝撃に、アルは盾ごと後ろに弾き飛ばされる。
「早く戻って!重心が高い!低く構えて低く当たる!」
メリッサさんからの怒声を頭に叩き込みながら、アルはすぐに列へと戻る。身体中泥だらけだが、迫る脅威にそんなこと気にしていられない。
またしてもアルの十倍以上も大きな魔物が、まっすぐ突進してくる。
レベルだってアルよりかなり上だ。
それを避けずに受け止める。
その恐怖心に、今にも失禁しそうになる。
衝突の直前までは敵から目を離さない。
それがかなり怖い。大質量の敵が全速力で突進してくるなんて、もはや事故映像である。
そして接触の直前で盾に身を隠す。
これがもっと怖い。【支配者】により数瞬後に確実に迫ると解って待つこの一瞬が永遠にも感じられる。
「せー…のっ!」
低く構えて、低く当たる………!
頭のすぐ横で、鈍い金属音。
衝撃に耐えきれず膝をつく。
「もっと足腰力入れて!」
「っく!…はい!」
そうして数時間魔物の攻撃を受け続けていると、多少はマシになってきたが、まだまだメリッサさん達と比べると柔らかい。
しかし少し余裕が出て来た分、周囲の状況も見えてきた。
【支配者】でメリッサさん達の動きを分析する。
最初から最後まで身体を強張らせる訳ではなく、近づいてくるまでは自然体で。
そして当たる直前で、腰を落とす。
顎を引き、背筋を伸ばしつつも体幹はやや前傾。
重心は前に出した脚に七割。
盾は僅かに上から下方向へ。
腰は沈みこませ、上体をさらに前傾するように盾を前下方へと押し出す!
ゴオォォゥゥゥウン………!!!
完全にイビルボアを弾き返した。
全身に響く振動は激しいが、不快なものではない。
自然と笑みが溢れる。
「ボサッとしない!スタンしてる!突くのよ!」
「は、はいっ!」
いろいろな魔物の攻撃を盾で受け続け、その日は終わった。
「………悪くないよ。上達が早いね」
村への帰り道、唐突にメリッサさんから声をかけられてドキッとする。
「あ、ありがとうございます。でもやはり、いざやってみるとメリッサさん達の技術の高さを感じますね。止めるか受け流すかはどのようにして決めてるんですか?」
「それは敵とのレベル差と、敵の攻撃がどのパターンかによるかな。もっと細かく言えば、その時の敵の体勢や戦況からの心理状態。それから他の攻撃役の人達の動きでも左右されるし」
「はぁ、なるほど。盾役の行動が次の敵の攻撃や体勢を左右する訳ですもんね。奥が深い………」
「ま、まぁ!時間はあるから!ゆっくり学んでいけば良いから!」
メリッサさんは上ずった声でそう言うと、アルを置いてどたどたと行ってしまった。
あれ?自然に話せたと思ったのに、なんかまたまずいこと言ったかな?
「あれれぇ?これはもしかしたら………?」
「うわぁっ!びっくりした!ペトラさんおどかさないで下さい…」
「アルっちメリーに何かした?」
「えっ!?いや、そのー、逃げました………」
「逃げた?」
あーこれ言わない方がいいかな?
いや、でも。アマゾネスの誰かに相談した方が良さそうな気がする。
「昨日の夜なんですが、寝込みを襲われそうになったので………」
「え!?メリーに!?」
「はい………」
「あちゃーあいつ。アルっち。ちょっとこっち来て」
ペトラさんに、集団の最後尾まで引っ張っていかれた。
皆と少し距離を置いて、声を潜める
「あのね。勘違いして欲しくないんだけど。昨日のメリーの行動はアルっちに対して本気だからだよ?」
「え?いやでも、あれはさすがに………」
「ちょっと聞いて」
ペトラさんが真剣な顔をしている。
今までおちゃらけた顔しか見たことなかったのに。
「私達アマゾネスの村が、何故女だけだか分かる?」
「い、いえ」
「それはね。男の子が産まれたら他の集落に連れていくからよ」
「他の集落?あるんですか?それに連れていくって………」
「ここ以外に集落はいくつかあるわ。私達はそこの男と寝て、子を宿す。女が産まれるとここで育て、男が産まれると乳離れしてから父親に預けにいくの」
「な、なんでそんな事を………?」
ペトラさんは不思議そうに首を傾げた。
「え?知らないわ。だって昔からそうだったもの」
その言葉に、アルは戦慄する。
この村では本当にそれが普通なのだ。先祖代々の慣習と言えばそれまでたが、赤ん坊を捨てるに等しい行為に酷くショックを受けている自分がいた。
「それで普通はね?集落に出向いて気に入った男を【マーキング】するでしょ?そしたらまぁ従順に付いてくるのよ。それでそこから三日三晩を伴にして【マーキング】外してさようなら、子供が出来たらオッケー。出来なかったら相性が悪いから次。ってなるわけよ」
「わけよ………って」
分からない世界過ぎる。
「私達は基本的に、少しでもいいなと思ったらすぐに【マーキング】して連れてくる。でも、そうじゃない場合も稀にある」
「その場合って………?」
ペトラさんは一瞬言い淀んだ後、アルを真っ直ぐ見て言った。
「恋した時よ」
「………え?」
「基本的には【マーキング】を使うから、恋焦がれると言う所まで発展しない。でも何かのきっかけで恋をする時もある。そしてアマゾネスの女は、恋をすると豹変する」
アルはあの時のメリッサさんを思い出していた。まるで何かが乗り移ったかの様な、それまでとは違う雰囲気。
あれを豹変と言わず何と言おうか。
「アルっち、お願い。あの子から逃げないで!」
「いやいや!逃げなかったらそのままやられちゃいますって!」
「違うよ!気持ち的に逃げないでってこと!アマゾネスの恋は一世一代なの!人生で一度あるかないか!………だから真剣に向き合ってあげて。お願い」
「ま、まぁ。頑張りますけど………」
*
ワアァァァッ!
そんな歓声が上がる。
アルが取り出したのは、ルスタンから持ってきた魚料理の数々、アルテミスのレストランから持ってきた肉料理や人気のデザート等々。通常二百人でも食べきれないのではないかと思うほどの量だが、昨日の彼女達の食べっぷりを見ていたらきっと適量だろう。
………と言うより足りるよね?
そしてやはり、この森にはいない魔物の肉や魚はもちろんシェフによって多彩に盛り付けられた料理は、大いに女性達の心を掴んでいる様だ。
料理を前にして、全員がエヴァさんの顔色をうかがっている。
御許しが出るのを待っていた。
エヴァさんはやれやれと言った具合に眉を上げ、食べるよう促した。
再度歓声が上がり、全員が我先にと殺到する。
エヴァさんと目が合うと、彼女はアルに指を二本立てて見せる。
ピースサイン…ではなく二割と言う意味だろう。
つまりアルが返さないといけない恩赦は残りあと二割。
最悪、もう一回くらいは同じ様に夕食で返せるだろうか?
それについても考えなければならないが、アルには今はやらなければならない事が他にあった。
またしても集団の一番外側に座っているメリッサさんだ。
真剣に向き合うと言ってしまった手前、とりあえず話をしてみないといけないだろう。
「メリッサさん?」
「よ、よう!…じゃない、へい!でもない。………やぁ」
なんだかやはり様子がおかしい。
昼間に盾でイビルボアを弾き飛ばしていた彼女とは別人だ。
「あの、今日はありがとうございました。盾についていろいろと教えてもらって」
「いや、そんなの何でもないよ。アルフォンス君どんどん強くなっていくし………かっこよかったよ」
「あ、ありがとうございます………」
顔が真っ赤になるのが分かった。
メリッサさんも頬を染めている。やばい。可愛い。
帰りながらペトラさんに教えてもらった情報では、彼女の年齢は十九歳。アマゾネスが男を引っ張ってくるのは二十歳からなので、メリッサさんはまだそういう経験が無いらしい。
それならなぜ昨日、いきなり【マーキング】を………。
「あぁ、やっぱり無理!アルフォンス君っ!」
「うわ!ちょっと!メリッサさん!落ち着いて!」
「あ、アルっち。夜は豹変しやすいから気を付けて」
「そんな重要な事は先に言っておいて下さい!」
慌てて祭場へと逃げるアルだった。
ここまで読んでくださった方ありがとうございます!
現段階の感想や思ったことでも構いませんので、レビューを是非お願い致します!




