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36話 黄金の夜

今回からちょっとだけエロスな街!

こんなの書きたかったんだー!

ゴールドナイツに到着したのは、すっかり陽が沈んでからだった。街に到着したアルは、三日間もかけてたどり着いた街の容貌に呆然としてしまう。


アル達の搭乗する真っ赤な荷馬車が立ち尽くすその前には、紅い灯りに照らされた街が構えていた。血に染まったようなこの荷馬車よりも紅いと言えばその異常さが伝わるだろうか。

街の至る所に提げられた提灯が、まるでその光を遠くから見た者を誘い込んでいる様に、妖艶な明かりを夜空に映し出している。

そして外から見てもその街中には、やけに人通りが多い。


「ここが、ゴールドナイツ………?」

「なんだ、来たことなかったのか?そうだよ、ここがゴールドナイツ(黄金に輝く夜)。南大陸の中でも有数の花街だ」


アイザックさんは興奮した様子で手綱を引くが、シオンは遠い目をしている。その理由はなんとなく分かった。

ここは今まで、アルが()()()()()()世界だった。


「そこの僕………?こっち寄って行きなよ」

「ほらそこの御兄さん!今なら良い娘いるよ!」

「なぁなぁ、良いだろ?こんなに通ってるんだからさぁ?」

「しつこい男だねあんたも。あたいとしたきゃその倍積めって言ってんだろ?」

「ちょっとちょっとそこの坊や!この娘と一晩中遊べるよ!えーっと…二?おい!坊やなら金貨二枚だ!」

「オイオイ坊主、その娘は止めときな!若僧には荷が重いぞ!その点この子なら優しくリードしてくれるがどうだ?こっちは坊主なら金貨一枚でいいとよ!」


ちなみにその"僕"とか、"坊や"とか、"坊主"なんかも、全てアルに向けられた言葉だ。別にアルは何もしていない。普通に荷馬車に乗ったまま大通りを進んでいるだけだ。

そんなアルの気を引いて、なんとかその足を止めようと、道の両側から叫ぶように声をかけられている。ちなみに声をかけてくるのは若い男だったり、御年配と言っても過言ではない女性だ。


そして威勢の良い声を上げる彼等の奥。そこに建ち並ぶ建物の中には女性が数人座っていた。どの建物にも四、五人の女性達が、わざわざ通りからも見えるような位置に座っている。

そして彼女達と目が合うと、妖艶に微笑みながら手招きしてくるのだった。


「こう言う場所は、いつの時代も変わらんの。人類が続く限り、無くなったりもせんのじゃろうが」

「アル君。気になる娘がいたら行ってきていいからな。シオンちゃんは俺が責任もって宿まで送り届けておくから」

「行きませんし、貴方にシオンを任すこともしません」


ここは歓楽街。

つまり男が女性を買いに来る所だ。それくらいはアルにだって解る。しかしいざ足を踏み入れてみると、まるで異世界に来たかの様に感じた。大勢の男と、そして女が。同じ目的を持って一つの街に集まる。街を練り歩く男達は、どこか目が血走って見えるし。

男達は意気揚々と店の前を歩き回り、女性を物色する。そして店前で二言三言会話した後、女性に手を引かれて建物に入っていく。彼等がこれから何をするのかは言うまでもない。

アルテミスにもこう言う場所は少なからずあったのだろうが、必要悪とでも言うべきなのか。


「なんか、この世の闇を見てるみたい…」

「何言ってんだ逆だろ。ここは天国だぞ?ロザリオ王国中の男がここに来ることを夢見るんだ」

「妾の右は、お主の左。物の見方はそれぞれと言う事か」


そんな会話を乗せて、大通りを荷馬車は進んでいく。

しかし何となくではあるが、働いている女性達にも悲観的な様子は見られない。なんと言うか、少なくとも"嫌で嫌でしょうがない"感じの人はいない。プロとしてそれを表に出さないだけなのかもしれないが。


そこでふと、先程森で出会った野党一家が頭を過った。確か、もともとは母親がここで働くと言っていた。つまり身体を売って稼ぐと言う事だったのだろう。

それをさせるくらいなら一緒に殺された方が良い。父親はそう考えた。母親が身を売って生き延びるか、一家まとめて犯罪に手を染め、あわよくば死ぬか。どちらが正解だったのかは解らない。きっと正解なんてないのだ。何が正しいかなんて人それぞれ。結局は自分がどちらを選ぶのか。きっとそれだけなのだ。



「おいてめぇ!返せ!」


そんな怒声が聞こえたのは、そんな時だった。

響き渡る声に街の人も一瞬気を取られたが、そんな事は日常茶飯事だとでも言う様に無視している。もしくは通行人に手を振ったり、お気に入りの娘を探したりでそれどころでないのかもしれない。


「あ!おい!やめときなよ!」


アルは荷馬車を飛び降り、声のした方へと向かう。アイザックさんの声が背中から追ってくるが取り合っている暇はない。

建物の間に暗く広がる路地を疾走する。声のした所はそう遠くない。人の気配も全くない裏路地を、月明かりを頼りに走った。


そうして三度目の角を曲がろうとした時だった。もう少しで到着と言う所で、角の向こう側から出てきた誰かと激しくぶつかった。


「うわっ!」

「きゃ!」


その誰かと抱き合う様にお互いを支えると、アルは全力で謝罪した。


「す、すみません!大丈夫ですか!?お怪我は!?」


アルはすぐに相手の女性を心配した。仮にもアルはレベル23の冒険者だ。そのステータスを以て、そこそこの速度で走っていた。そんなアルとぶつかれば、どこか怪我をしてもおかしくない。


しかしアルは、相手の顔を見て二の句が継げなくなった。

月の僅かな明かりに照らされたその人は、女性だった。鼻が当たりそうな距離にあるその顔は、例え暗がりでしか見えなくとも整った物だと解る。そして咄嗟に支えようとつい腰に回した手からは、華奢な体型が伝わってくる。

彼女はアルを見て、かなり驚いていた。思考が停止していると言っても良いくらいだ。やはり頭を打ったのだろうか。


「あ、あの…」


アルは女性から少し距離を取ると、彼女の手元が月明かりで光る。


ナイフだ。


刃物を見て咄嗟に頭が切り替わる。今まで何度もしてきた様に、腰に帯びた剣に手を伸ばした所で、彼女の目付きが変わった。アルが短剣を半分引き抜くと、喉に冷徹な感触。

何が起きたのか理解も追いつかない程の速さで、その女性はナイフをアルの首に突きつけてきたのだ。頸動脈に皮膚一枚の所まで刃が迫っている。少しでもアルが動けば、その刃は容易にそれを引き裂いて紅い華を咲かすだろう。


アルが剣を引き抜こうとした手も止められており、少しも動けない。動きがとんでもなく速い………!


「へぇ、あんた少しはやるね。その若さで凄い凄い。どっかのボンボン?」


アルは喉に突きつけられた刃物で、言葉も出せない。ただ彼女の顔を見つめるのみだ。せめてもの反抗として月の光に照らされ、顔がしっかりと見えた瞬間に【鑑定】を使う。


―――――――――――――――

名前:シェイラ

職業:盗賊

Lv:39


生命力:3800

魔力:3550

筋力:3950

素早さ:4100

物理攻撃:4050

魔法攻撃:3700

物理防御:4050

魔法防御:4050


スキル:【暗殺術Lv4】【投擲Lv4】【罠解除Lv3】【変装Lv5】【気配遮断Lv3】【透視】【看破】【隠蔽】【料理Lv3】【清潔Lv3】


武器:黒角猪のナイフ【剣術Lv3】

防具:黒蝶繭のコート【魔法防御Lv4】

その他:ダイヤモンドのチョーカー【素早さLv4】

―――――――――――――――


名はシェイラさんと言うらしい。

スキルには家庭的な所も見え隠れしているが、かなり高レベルの冒険者だ。いや、冒険者ではなく盗賊。隠密行動に役立ちそうなスキルを多く持っている。と言うかスキル自体がかなり多い。こんなにスキルを持っている人をアルは自分以外で初めて見た。それに装備もかなり揃えており、アルテミスギルドマスターのルイさんにも引けを取らない実力があるだろう。


「よく見たらあんた、可愛い顔してんね?

ゴールドナイツ(こんなとこ)じゃ滅多に見ないタイプだね。………女を買いに来たの?」

「い、いえ。アルテミスからサラン魔法王国へ行く途中です」

「ふぅん。まぁそうだろうね。まだ()()()()()()()顔してるし」


シェイラさんは急に興味深そうな顔に変わると、ナイフを突きつけたままアルに接近してくる。それに合わせて下がると、背中が裏路地の壁に当たった。


彼女はなおも近づいて来る。その唇はアルの唇を掠める様に頬へと向かった。頬に柔らかな感触がした直後、ハスキーな声が響く。


「あんた可愛いね?でもこんな出会い方で残念。次に会えたら、今度は相手してあげっから。私は"ウィード"。盗賊のウィードだよ。もしも私を捕まえられたら………私の事好きにして良いよ。

あ、それとそうだ。ちょうど良いや。もしここの総帥殿に会ったら伝えといてよ。すまないと思ってる、あんたの事は嫌いじゃないんだよって」


ウィードと名乗った盗賊は一度の跳躍で建物の上まで跳ぶと、その奥へと姿を消した。


「何だったんだ一体………?」


怒濤の展開にアルはついて行けなかった。そしてやっと思い出して悲鳴の方へと再び向かおうとした時、アルはすぐ近くに男が立っているのに気付いた。中肉中背、加えて中年の男はぽかんとした表情で立ち尽くしている。男は丸々三秒かかって、やっと何か言葉を発した。



「………ど」

「ど?」

「泥棒だああああああああああ!!!」


………え?なんとその男は完全にアルを指差していた。


「いや、ちょっと待って下さい。僕は」

「泥棒だああああああああああ!!!!!!!」


聞く耳を持たないとはこの事か。

そしてその声が合図だったかのように、どたばたと大勢が近づいてくる足音がした。待ってましたと言わんばかりのナイスタイミング。


こちらに真っ直ぐ走ってきたのは、何やら統一された制服と防具に身を纏った集団だった。顔は目元に揃いの面を着けていて、表情が読みづらい。何の模様だろうか………?蟷螂(カマキリ)か?

アルは咄嗟に剣を引き抜き、構え直す。それに対してその集団もそれぞれの武器を構えた。槍や片手剣、弓を持っている者もいる。相手は六人。多勢に無勢。


「叫び声を聞いて駆けつけた。先程叫んだのはどちらだ?状況を簡潔に述べよ」


顔まで覆った防具の奥からしたのは、意外にも女性の声だった。それも決して野太いものではなく、どちらかと言うと線の細い声だ。


「お、俺だ!持ち物を盗まれたんだ!こいつも犯人の一味だ!逃げた女と話してた!」

「違います!僕も叫び声を聞いてここに来たんだ。そしたら盗賊のウィードって名乗る女性とぶつかって刃物を突きつけられたんです!」


男に指を差され、慌ててアルも弁明する。


「……………どちらにせよまだ実行犯が逃げていると言う訳だな。お前達四人はその女を捜索しろ。その二人は私達二人と来い。事情を聞く」


アルに選択肢は無かった。

アルは逃亡の可能性があるからと、武器を取り上げられ、両手も縄で縛られた。実際には縄なんて【斬撃(スラッシュ)】ですぐにでも切れるのだが、せっかく無実なので大人しくしておこう。もしいざとなって逃げ出すとしても、前後を敵に挟まれた状態の今じゃない。


どうやら、アルはどこかに連行されるみたいだ。ついでに連行される中で、いくつか分かったことがある。この統一された集団は、きっとこの街の自警団みたいな物だろう。不思議なことにかなり女性の割合が高いみたいだ。今のところ声を聞いた三人は全員女性。この、"騎士"とでも呼ぼうか、女性達二人のレベルは32と33。スキル構成としては特に戦闘向きと言った訳でもないのに、かなり鍛えられている。ちなみに中年男の方は10レベル。商人らしい。

アル達が向かっているのは、この街の最奥。恐らくその自警団の本部でもあるのだろう。


「ここにはパーティーメンバーと、行商人のアイザックさんという人と来たんです。僕の身元を保証してくれると思うので、探してもらえませんか?真っ赤な荷馬車に乗ってると思います」

「それは分かったが、後にする。まずは総帥の所へ連れていく」


女騎士に冷たくあしらわれる。しかし全く話を聞いてもらえない訳でも無さそうだ。


進むにつれて見えてきたのは今までの建物とは一線を画す、宮殿とも言える建物だった。こんな大きな建物を見たのは、アルテミスの冒険者ギルド以来か。ここまで通ってきた他の建物と同様に、いやそれ以上の灯りが吊るされ、輝く宮殿が闇夜に浮かんでいるようにさえ見える。


入り口には騎士達と同じような格好をした門兵が二人。やはりこの二人も女性。後ろから押されるように宮殿の中に通されると、建物の中心は吹き抜けになっており中庭があった。

その中庭をぐるっと回り込んだ奥にある荘厳な両開きの扉。そこを抜けると広間。少し高くなった中央には"玉座"。


「ライナー。その者らは?」


その声はまさに清廉。聴いたこともないくらいに可憐な響きに、どこか言い知れない背徳感さえ抱く。

玉座に座るのは深紅の着物を纏った女性。ゆるりと面を上げると、隣で中年男が生唾を飲んだ。


歳は二十代後半か。切れ長の目と濃赤の印象的な唇、ほっそりとした顔立ち。少し上段から見下ろす環境も相まって、凄然な印象を受ける。彼女が纏っている着物は厳かな物と言うよりも、何と言うか、妖艶。所々に入ったスリットが彼女自身の抜群なスタイルを見事に演出していた。組まれた脚をそのスリットから惜し気もなく見せつけ、視線を釘付けにする。

しかしこの爛々と灯りが浮いている空間において、最も目を引くのは彼女の腰まで伸びる()()長髪だ。この部屋の中で、その部分だけが周りの光を全て吸い込んでいるかの様に視認できない。


「はい、総帥。泥棒だ!と言う声を聞いて駆けつけましたらこの二人が。女に物を盗まれたと言うのがこちらの商人フランクで、叫び声を上げたところ女は逃亡。女を追いかけると、こちらの冒険者アルフォンスと何やら親しげに話していたとの事です。実行犯の女は逃亡中。現在騎士四人で捜索中です。こちらのアルフォンスの言い分は、フランクのあげた声に駆けつけようとした所、女とぶつかり、ナイフを突き付けられたと。女は盗賊ウィードと名乗ったと申しています」


ライナーさんとやら。なんと素晴らしく要領を得た説明か。例え時間をしっかり貰ったとしても、アルにはそこまで分かりやすい文章は作れないだろう。

総帥と呼ばれた女性はじっくりと話を咀嚼した後、目を細めてアルを見据える。


「縄を解いてあげなさい」

「はい総帥」


そしてその声により、何の脈絡もなくアルは縄から解放された。


「あなたは正直者ですか?」

「え?」

「まぁ我ながら何と愚問。あなたが正直者だろうと嘘つきだろうと、あなたの答えは"yes"だもの」

「は、はぁ…?」


愚問と言うか自問自答の様な言葉を放った後、彼女は椅子の横に手を伸ばす。そこに置いてあったのは弓だ。少し小振りだが、遠くからでもその材質と意匠からかなり強い武器だと解る。

彼女は弓をこちらに向けると、真っ直ぐこちらに向けて弦を引き絞った。別に矢をつがえている訳ではない。まるで矢を射る様な所作をしているだけだ。


「"雷よ貫け"」


背筋に走った悪寒に従い、全力で身体を左に捻った。すぐ後ろに立っていた騎士の一人が、崩れ落ちる。全身が痙攣し、意識が刈り取られている。アル自身も何かが掠めた右腕がピリピリと痺れて感覚がない。


「"雷よ貫け"」

「【(シールド)】」


二射目は防御に切り替えた。それはどうやら正解だった。先程よりも数段速いそれは、目で捉える事も難しかった程だ。アルが創り出した掌程の黒い防護壁には、蒼い矢が刺さっている。バチバチとスパークを散らしている様は、獰猛な蛇を連想させた。しかし原型を止めているのは数瞬のうちで、【(シールド)】と一緒に、すぐに(もや)となって散った。


「何それ………。面白い。面白い………!!初見で防いだ者はそういない!あぁぁあああ楽しくなってきた!さあ殺ろう!こいつに武器を渡せ!」


先程までの清廉な声はどこへ行ったのか。目をギラつかせながら立ち上がり、顔には狂喜の笑みを浮かべている。


「総帥待ってください!」

「また悪い癖が!」

「やばい止めろ!」

「お前達!カカレッ!」

「早く"眠り香"を持ってこい!」


騎士達がどこからともなく増援し、総帥目掛けて殺到した。総帥も半狂乱になってしまっており、部下に向かって魔法の矢を乱射している。そしてそれは容赦無く部下へと突き刺さっている。彼女達のレベルもそこそこ高いため即死はしていない様だが、それでも既にここは血にまみれた戦場だった。


「まずいレイナが死にそうだ!治療班をすぐに呼べ!」

「早く弓を取り上げるんだ!」

「殺しても構わん!でないとこちらが死ぬぞ!」

「盾班!前へ!押し潰せ!」


アルが呆気に取られているうちに、騎士達に埋もれて見えなくなる総帥。そのうち誰かが"獲ったどー!!!"なる声を挙げて、弓を取り上げているのが見えた。

そしてボコボコにされた総帥が引きずり出される。


ゴールドナイツ。

どうやら、とんでもない場所に来たみたいだ。

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