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3話 冒険者になるという事


ほら、これをお前にやろう、スキルだ。

え、いいの?こんなに。十個もある!

あぁ、昨日獲りすぎちまってな。どうせお前とパーティー組んでくれる奴なんていないから多いに越したことないだろ。


やった!ありがとう!それなら剣も買わなくちゃだな。

どうせなら回復スキルのついたやつにしよう!

あ、でもそれだと敵を斬っても治っちゃうかも………。



「おい!アル!いい加減に起きろ!」


ハッと目を開けると、アルは獰猛な顔をした大熊に襲われていた。

転げるように飛び起き、ベッドから落ちつつも、いつも枕元に置いている短剣を取る。寝起きとは思えない慣れた手つきに自分でも驚きながら、剣を抜き構える。


こんなこともあろうかといつも手の届く所に置いておいて良かった!

中なんとか病などとは言わないで欲しい。

あぁやめて…指を差すのはやめて…。


そんな逃避をしながらも、しかし熊と向き合う直前に、短剣を持った手と顔面を掴まれる。掴まれた瞬間に圧倒的な力差を感じた。全く抜け出せる気がしない。それどころか少しでも力を入れられれば、トマトのように潰れてしまうのではないか、そんな風にさえ思える。


顔面を掴まれ何も見えない所に、低く通る声が聞こえてきた。


「お前………寝起き悪すぎ」


ゆっくり手を放されると、そこには呆れ顔のダングさんが立っていた。





「二回連続で寝坊した上に、攻撃しようとすんじゃねぇよ。

それになぁ枕元に刃物置いて寝るなんざ、将来思い出して苦痛に悶えるだけだからやめとけお前」

「寝坊したことはごめんなさい。けど寝起きにおやっさんみたいな、熊の様な凶悪で顔面半分骨ごと食いちぎられそうな顔が目の前にいたらそうなるよ。逆にあそこまで動けた自分を誉めたいくらいだ。ちなみに苦痛に悶えたのは経験談?」


ダングさんとアルは馬車の御者台に並んで腰かけている。

アルテミスまでの仕入れに同行している最中だ。馬車の歩みはゆっくりしたものであるが、道が悪いためかなり揺れる。しかし御者台に乗っているアルはまだ良い方だろう。


「ねぇちょっとダング!もっと揺れないようにしてくれって言ってるでしょ!」

「まぁまぁ、大量のホーンラビットの毛皮のおかげでそんなに痛くもないじゃないか。こういうもんだと思えば快適だよ?」


馬車の荷台の窓から顔を出したのはヒーラーのソフィアだ。

その後に喋ったのはクリスだが顔は見えない。バドは案外大人しくしている。


運の悪いことに、アルの同行者はバド達3人だった。バド達はダンジョンに挑むために、三人でアルテミスに移り住むという事だ。両親はかなり渋ったみたいだが、三人のパーティー構成と戦闘向きのスキルを持っていることも知っているため、子供の可能性を信じることにしたらしい。

御者台は本来三人くらい乗れるスペースがあるためアルとダングさんはゆったり座れており、揺れを別にすれば快適だ。


バド達は荷物と一緒に荷台に放り込まれていた。

大きな荷物はだめだと言ってあったにも関わらず、ソフィアがダングさんの背丈程もある荷物を抱えて現れたため、ダングさんが強制的にそうした。


「ダンジョンに挑むってこたぁ冒険者になるんだろ?こんな揺れで根をあげてんじゃねぇぞ?」


そう言い放ってダングさんは小窓を閉じ、アルに向かっていたずらっ子の様に笑った。この笑顔で数々の女性を落としてきたのだろう。おやっさん、勉強になりやす。

しかしその直後には、真剣な表情になる。


「バド達のステータスは頼んでもねぇのに見せてくれたから知ってるんたが、ありゃあアルテミス行っても苦労するぜ。なんたってレベルがまだ足りねぇな。スキルがあるからなんとかなってるものの。痛い目見ないといいんだが。あいつ達の親達にも言って聞かせたんだけどな」


やっぱり、どうもダングさんが昔は冒険者だったという話は本当のような気がする。今のもレベルとダンジョンの実際を解って言っている節がある。それに朝の一悶着だってそうだ。アルが寝起きとは言え、なすすべもなく取り押さえられていた。単純に力が強いだけでなく、的確に頭と短剣を抑えてだ。


「んで、おめぇの方はどうなんだ?スキル、出たか?」


ギクリ。

スキルの話はおよしになって………。まぁもう慣れてるんだけどね。


「いや、未だスキルはなし。いっそ清々しいもんだよ。見たい?」

「おぅ頼む」

「………ステータスオープン」


ステータス見せるのって、勇気が要るんだよな。

まぁダングさんなら相談に乗ってくれる事はあっても笑いはしないか。そう思ってステータスをダングさんに見せる。彼の反応は想像通りではあった。


―――――――――――――――

名前:アルフォンス

職業:短剣使い

Lv:6


生命力:600

魔力:600

筋力:550

素早さ:700

物理攻撃:600

魔法攻撃:600

物理防御:650

魔法防御:600

スキル:【*****】


武器:鉄の短剣

防具:牛革の防具

その他:なし

―――――――――――――――


「やっぱりまだスキルは解放されねぇか。まぁ半年で結構な数のホーンラビット狩ってたから、上手くいけば二つくらいレベルアップするだろう。そもそも、スキルが一つしかねぇやつなんかそうそういないんだ。さぞかし面白い(ユニークな)スキルなんだろうぜ。楽しみにしてるといい」


励ますのが上手な人だ。

そうなのだ。アルはスキルを一つしか持っていない。これこそがバド達から馬鹿にされ、パーティにも入れてもらえない理由だ。しかも現在、スキルの欄は*****となっている。これは、スキルは持っているがそれを使うに値しないという意味。

つまり、まだレベルが足りないから解放されていないのだ。


現在知られている中で、レベルアップの方法は唯一つ。

神殿でのお祈り。それだけだ。


しかし、ただ祈るだけでもダメだ。

レベルアップに値するだけの経験を積み重ねないといけない。

例えば、一番確実な方法では、魔物を倒すという経験が挙げられる。

魔物は世界中にいる。基本的に人間を見ると襲ってくるため、魔物と人間は敵対していると言っても過言ではない。魔物が普通の動物と違う点は、魔力をもっている事だ。魔力を身に宿しているため、その皮膚や毛、骨は硬い。その筋肉も強靭で、動きも普通の動物より速い。中には魔法を使うやつだっているらしい。


それ以外の事でも経験値は貯まるらしいが、あまり多くは明らかになっていない。最も有名なのが歳を取るという事象だ。誕生日を迎えると、ある程度の経験値が貯まるらしい。これはどうやら信憑性がそこそこ高い。病気で伏せていた人が、協会でお祈りを捧げたらレベルアップしたという話だ。その人は一日中寝ていただけで、特に何もしていないというのにも関わらずだ。


今回、アルはホーンラビットを倒した。狩り尽くした………は嘘になるが、きっと大小雄雌合わせて全部で百匹くらいは倒している。その分、経験値がたまっているはず。


ちなみにホーンラビットはかなり弱い方だが魔物は魔物だ。命のやり取りには違いないし、実際、情けない話だが何度か死にかけた。それに一週間前が誕生日だったので、その分の経験値も入っているはずだ。


これでスキルが解放されるといいんだけど…。


「一つしかないのに、スキル解放されてもどう…むぐッ」

「人の事はいいんだよ!てめぇの心配してろ!」


小窓から顔を出してごちゃごちゃ言うバドを、ダングさんが押し戻して再度小窓を閉める。


気にしない様にはしているのだが、ついついため息が漏れた。確かにスキルが解放されるのは楽しみだ。しかしその分、不安もある。なにせ一つしかないのだ。バドの場合は五つもあった。それなら例え二つくらいダンスやら暗算やらがあったところで許容できる。


しかし、アルの唯一のスキルがもしダンスだったら………?

アルの夢は見事に潰れる。ダンサーとしての未来は開けるかも知れないが

いざとなったらダングの商店で雇ってもらおう…。

そうこっそりと、決意するのだった。





お昼前、時間で言えば十時にもなっていないくらいか。アル達五人は馬車を止め、林の近くで休憩をとっていた。人にも馬にも休息は必要だ。朝が早かったため、やってきた睡魔に小突かれながらアルは未だ解放されていないスキルについて考えていた。


「ねぇバド、あとどれくらいかかるのー?」

「あと一時間くらいじゃねぇか?」


バドはソフィアに対して無関心に答えた。バドの言う通りあと一時間くらいだろう。だいたい村から街までは馬車で五、六時間だ。


それにしても先ほどから、ソフィアのバドに対するベタベタが目に毒だ。

きっと、恐らく、多分、ソフィアはバドに気がある。なんとなく見ていてわかる。この世では、強い奴がモテる………。それは間違いない。権力と同じくらい実力が物を言う。戦闘系スキルをたくさん持っていて、レベルの高いやつに女の子はきっと惹かれるのだ。

バドは強い、少なくとも同年代の中では。多少小太りでも強いのは強い。スキルを五つ持っている人はなかなかいないらしく、剣術等の戦闘系スキルも得ている。街に行ってもきっと活躍するのだろう。バドはソフィアの気持ちに気づいているのかいないのか。これも勘だが、バドは恐らく気づいていない。鈍感系の主人公路線をまっしぐらだ。自分は鈍感ではありませんようにとお祈りしておく。


いや別に、ソフィアにベタベタされたいわけじゃないからね?

フラグじゃないよ?これはマジで。


「……………」

「?。おやっさんどうかした?」


視界の端で、ダングさんが一瞬だけ顔をしかめた様な気がして、アルは声をかける。

そういえばダングさんにはそういう人はいないのかな?もしかしていたのかも。流石に聞きづらいけど、いつかは聞いてみたい。


「いや、なんでもねぇ。ちょいと屁を我慢しててな」

「サイテー!」


ソフィアの女子アピール。ダングさんのすぐ後ろにいたクリスは、じりじりと離れていっている。

ダングも何でもないなら、恐い顔がますます恐くなるので、真面目にやめてほしい。



―――――ガサッ


それは突然だった。

アルの背後の林の方からそんな音が聞こえてきたかと思って振り返ると、何かと目が合う。それは掌程もある大きな黄ばんだ目だった。アルは丸々一秒、それが一体何で、どうしたらいいのかも分からず、動けなかった。

"それ"が一歩、林の影になっている所から出てくる。


「アル!」


それが誰の声だったのかは分からない。しかしその声で初めてアルの身体は動いた。


距離を取って短剣を抜く。視界の端では既に他の四人は戦闘態勢に入っているのが分かった。女子アピールをしていたソフィアでさえ、表情を引き締めて構えている。見つめ合っていたのはアルだけだ。

アル達の前に現れたのはゴブリンという魔物だった。

身長は一メートル前後。人型。全身を緑の皮膚に覆われており、顔の大きさに対して目玉が大きく、口は裂けている。口の周りには涎やら乾いた血液のようなものがこびり付いていた。両手には何も持っていないが爪が五センチもあり、引っかいたり、目を狙って突いたりしてくるらしい。

話に聞いたことはあったが、見たのは初めてだ。


「数は………四体だな」


ダングさんが言った。それに同意はできない。どう見ても目の前には一体だけだ。それなら早く囲んでしまえばこちらのものではないか。と言おうと思ったら、奥の茂みからガサゴソと三体が現れた。


「俺達は多分二体までなら安全に引き付けられる。ダングだけで二体いけるか?」


「よし。やってみろ。骨は拾ってやる」


「俺は右二体。三秒後に行く」


素早く指示を出したのはダングさんではなくバドだった。この落ち着き様は、ゴブリンと戦った事があるのだろう。ダングさんが感心した表情で、了解する。


三秒のカウントは声には出さなかったが、ダングさんとバドが前に出たのは同時だった。その瞬間からクリスが攻撃魔法、ソフィアが回復魔法の詠唱を開始する。


ダングさんの方はというと、いつから付けていたのかナックルダスターを装備している。振りかぶった拳の先に金属が光り、空中に軌跡を残して手前にいたゴブリンの顔面に命中した。殴られたゴブリンは馬鹿みたいに吹き飛び、その奥にいたゴブリンを弾き飛ばした。ダングさんは転んだもう一体にゆっくりと近寄ると、義足の方で頭を潰す。瞬殺とはこのことである。


そしてどうやら、ダングさんはバド達の担当した二体の方には手を貸さないようだ。


バドは、ゴブリン二体相手に無理に攻めず、剣を使って適度に威嚇していた。迫った手を切り裂きながら、余裕を持って立ち回っている。


そしてクリスの詠唱が完了する。クリスのかざした手の前に、直径二十センチ大の炎の球が出現する。少し離れているここまで熱が伝わってくる。


火…球(ファイアボール)!」


そしてクリスの掛け声と共に、それは射出された。バドは詠唱を聞いていたのだろう、完璧なタイミングで射線を作り、クリスの放った魔法はゴブリンの上半身に直撃する。油にでも引火したかの様に炎がゴブリンの上半身を焼き焦がしていく。

アルはその光景に目を奪われた。最後に残ったゴブリンもそうだったらしい。


しかしバドは違った。

いつの間にか振りかぶった所からの淀みない一振りで、ゴブリンの首を掻き斬る。切断まではいかなかったが、開いた首から頚椎までが見えていた。頸動脈の作りは同じなのだろう。血が多量に溢れ出す。


「なんだ、ゴブリンって言ってもこんなもんか」


ぞのバドの一言で、彼らもゴブリンと対峙したのは初めてだったことをアルは知る。

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