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29話 静寂、そして御祭り騒ぎ

隠していた事を話す。


その言葉への反応は多様だった。

ルイさんとミアさんは驚き、セシリアさんとリアムさんは興味深そうに身を乗り出し、クレイさんとイザベラさんは無表情。

そんな彼等に、アルは一つだけ楔を打ち込む。


「全部話すと言いましたが、ほとんどが僕達のスキルの話になります。ですので、もしも他言無用を約束して頂けない方は席を外して頂けますでしょうか?」


アルは立ち上がって頭を下げた。ここにはアルよりも目上の人達ばかりだ。出ていけ等と失礼な事を言っているのは分かっている。

しかし冒険者にとってスキルの重要性も理解しているつもりだ。そしてここにいる人達も、それを誰よりも分かっている。

それにまず反応したのはルイさんで―――。


「私達ギルドの職員は、知り得た冒険者のスキルについては一切口外しないと既に誓っている。それを破った場合、ロザリオ法によって私達は裁かれる。しかしここに改めて約束しよう」


ミアさんも先程までの怖い視線は止めて神妙な面持ちで頷いている。そして"烈火"のパーティを代表して答えたのは、パーティリーダーでもあるリアムさんだった。


「君が私達の事を信用に値すると思ってくれた。…そう解釈するよ。そしてAランクパーティ"烈火"の名に懸けて、その信用に応えよう。私達"烈火"のパーティも決して口外しない事を誓う。この返答で満足して頂けたなら早く教えてやってくれ。セシリアがそろそろ限界だ」


そう言われてセシリアさんを見ると、ご飯をステイされている犬の様にアルを見つめていた。涎を垂らしそうになっている姿は、既にスキルマニアと言うよりも変態の域ですらある。


シオンと一度視線を交わすと、一呼吸おいてから話し始めた。

自分がイレギュラーな能力を持っていると、既に理解はしている。それが他の人には、どう感じられるのか。不安に潰されそうになりながら、頭の中で説明の順序を立てる。


「とりあえず説明は抜きにして、事実だけ並べます。聞きたいことは有るでしょうが少し聞いていて下さい。

まず、ダリウスさんが怪しいと感じた理由です。数時間前、僕達はここでバド達"竜喰(ドラゴンイーター)"の行方不明を知りました。そして最後に彼等を見かけたと言う受付の方を探すため、【鑑定】スキルを使いました。しかし、ここで問題が起きたんです。

受付の方々の半数は、ステータスが表示されなかった。何故かと言うと、彼女達は【変身】によって顔を含めた姿形を変えていたからです。

………【鑑定】の条件は顔を見ること。つまり【変身】スキルを使っている相手は、【隠蔽】スキルを持っていなくとも【鑑定】する事ができないと気付きました。


そこであの時の襲撃を思い出したんです。顔は見えたのに、【鑑定】できない。そしてその襲撃者の顔にはどこか見覚えもあった。

もしかしたら【変身】を使っていたのでは?

そう考えた時にダリウスさんの顔が、ふと頭に浮かびました。彼のステータスは事前に【鑑定】していたため、【魅了】スキルを持っていることも知っていましたし、失踪した受付女性を彼が口説こうとしていたと言う話も耳にしていました。もしかしたら、ダリウスさんが彼女をたぶらかし、ネックレスを奪ったのではないか。そう考えたのが彼を疑った理由です」


全員が、口を挟みたそうな顔をしているが、アルはそれを放っておいて話を続ける。


「そしてどうやってあの部屋に辿り着いたのか。それは僕ではなく、シオンの能力です。能力と言ってもスキルではなく、彼女の元来持っている嗅覚で、バド達の臭いを追跡しました。

この場の何人かの方はお察しの通り、彼女は人間ではありません。僕の【空間魔法】で召喚した、異空間…もっと分かりやすく言うと異世界の、"妖狐"という狐に近い種族の魔物です。

そして彼女の持つスキル【吸収】により、僕達は倒した魔物からスキルを得る事ができます。今までステータスを誤魔化していた【隠蔽】スキルも、先程話した【鑑定】スキルも。全て倒した魔物から得たものです。他にどんなスキルがあるかまでは、詮索しないでもらえると助かります」




―――――静寂。


急に耳が聞こえなくなったかと錯覚するほどの静けさが、この場を包んだ。目を瞑ったとしたらこの場に八人もの人がいるとは到底思えない。


そうそうたるメンバーの唖然とした顔が並んでいると、それだけでも話した価値があるという物だが、アルとシオンは緊張していた。シオンが魔物であると話した瞬間から、いつ彼女に刃が向けられてもおかしくはない。もしそうなれば、命懸けでここから逃げなければならない。

その刃の数にもよるが………。


そしてやはり最初に脳の再起動を終えたのは、ある程度シオンが人ならざる者であると感付いていたルイさんだった。


「とりあえず………まずは。アルテミスギルド、ギルドマスターの権限において、私の許可なくシオン君に危害を加えることは禁ずる。と言っておく。

もしもこの中にそうしようとする者が居れば、だが」


ルイさんは全員を見回しながらそれを言い切った。彼はやはりシオンが魔物であると言う説と同時に、その可能性についても考えていたのだろう。彼の素早い判断にアルは感謝を述べる。


「ルイさん、ありがとうございます」

「まぁ一応、だがね。私の見る限り、この中にはシオン君に興味を持つことこそあれど、危害を加える様な者はいないだろう。

ちなみに、他のスキルについては聞かないで欲しいとの事だったが、逆に今後の事を考えて話しておいた方が良いスキルもいくつかあるのではないかい?

私達の認識と君の実力がかけ離れすぎていると、今後依頼を受ける際に困ると思うのだが。私達もその度に勘繰りたくはないしね?」


確かにそうだ。

アル達のプランとミアさんのプランにズレが生じ過ぎると良いことはない。


アルはシオンと相談した結果、【ステータス成長率増加】とそれによってステータスが同レベルの冒険者よりも高いこと。そして【保管(ストレージ)】についても話した。

正直そこまで話すとほぼ全部言ってしまった様な物なのだが、そこは暗に他のスキルも沢山ある様に臭わせておく。


そしてそこでやっと、"烈火"側からの声が上がった。


「アル君私達からもお願いがあるんだが………。勿論私達はこの事を絶対に他言しない。そして改めて君達二人に危害を加える様な事もしないと誓約しよう。

その上でのお願いなんだが、君の現在持つスキル、または今後得たスキルに関して、もっと詳細な情報を頂けないだろうか?私は【空間魔法】についての書物をいつか復活させたいと思っているし、何よりもきっとセシリアが言って聞かない」


そういえばセシリアさん忘れてた………。

と思ったら、彼女は半ば放心状態でアルを見つめていた。いつからこうだったのかは知らないが、やけに大人しい事に、逆に不安すら覚える。リアムさんはそんなセシリアさんを尻目に言葉を続けた。


「その代わりと言ってはなんだが、今後君達に危害を加える者達への対処は、我ら"烈火"も積極的に力を貸そう。まぁもっとも、君がこの要求を断ったとしてもセシリアがそうすると言って聞かないだろうがね…?」


その時のリアムさんの真っ直ぐな瞳は、十分信用に足る。アルはそう感じた。そして、その後すぐにクレイさんとイザベラさんが、アルのスキル全容に関して聞くことを辞退したため、アルは部屋に残った四人にだけ全てを話す事になった。







「スキルが得られる確率はどの程度なんだい?今まで得た共通スキルは四つ。今まで倒した魔物の種類はどのくらいかな?それと得られるスキルについての傾向だが、例えば分かる範囲で構わないんだが、こういう魔物からはこんなスキルが得られた等の傾向が分かれば今後の………」

「ねぇねぇ!【瞬間加速】ってどんなスキルなの?あと【隠蔽】ってどのくらい内容変えれるの?例えばレベル200とかにもできたりするの?」


ギルドマスターの私室での話し合いの後。アルとシオン、そしてリアムさんとセシリアさんの四人は、ギルドの個人面談室を貸してもらっていた。もちろんギルドマスターのルイさんがいないのはシオンに確認済みだ。


二人からは猛烈な質問攻めにあってかれこれ一時間。もともとの時間も遅かったことから外はもう真っ暗だ。加えてアルとシオンのお腹は空腹を訴える鳴き声を上げている。

二人の興味は分かるが、今日は丸一日ダンジョンを探索した後にダリウスとグリフォンとの一戦。加えてヒュドラとの死闘で死にかけた後だ。とりあえず栄養が欲しい………。


「あの………今日の所はもうそろそろお開きにしませんか?このままだとまた右腕がもげそうです」

「その点は安心したまえ。イザベラの【上級回復(ハイヒール)】だ。腕の状態は取れる前より良いはずだよ。

しかし確かにもう夜も遅い。君達の宿は何処かな?良ければ一緒に夕食をどうだろうか?もちろんご馳走するよ?」


夕食までついてくるんだ………。そのリアムさんの提案を断る術は、アルは持ち合わせていない。唯一の方法は夕食自体を諦めると言った方法だが、シオンに噛み殺されるだろう。よって四人は"竜の翼亭"で夕食を共にする事となった。


その道中でも二人からの声を落としての質問は絶えなかった。


「共通スキルには使用制限はあるのか?それとも使用期限の様な物なのだろうか?そのスキルの説明欄には何か回数のようなものは無かったかい?そう言えば、そもそもがそのスキルの効果は、そのスキルを本来持ち合わせている者のそれと同じだろうか?おい、セシリア。【鑑定】スキルの説明欄に書いてある文字をこれに写してくれ、アルフォンス君のも頼む」

「効果よりも使用についてのリスクがないか知っておくべきだわ。例えば消費魔力が普通と比べて大きいとか、発動まで時間がかかるとか。それくらいならまだ可愛気もあるけど、スキルを使う度に知らない内に代償を支払っている可能性だってあるわ。そうね…例えば、寿命とか。記憶の可能性もあるわね。アル君、最近の事で思い出せないことはない?今日は何月何日?野菜の数をできるだけ言ってみて。…うん……うん。大丈夫ね。次は100から6を引いていって………」

「高いものから二十品ほど頼むぞ」


"竜の翼亭"に到着した時にも、二人の熱は冷めていなかった。マイさんに言ったシオンのその言葉が聞こえているのか分からない。しかし聞こえていたとしても、二人は気にも留めていなかったのではないだろうか。


「アルフォンス君はどう思う?共通スキルの使用について何か気付いたことはない?」

「いえ…特には感じた事はありません。使う度に何か失っている感じもないですし、使用回数の表示も見たことないですし。

と言うかその………。その論議もためになって良いんですが、僕は逆に御二人について知りたいです」


アルのその言葉で、やっと二人は止まった。キョトンとした顔でこちらを見つめている。明らかに、こいつは何を言っているんだ、という様子だ。まるで"ご馳走が目の前に並んでいるのに干し肉が食べたい"とでも言われた様な顔。


「わ、私達について………?」

「そうです。なぜお二人が今日僕の応援に来てくれたのかとか、もっと言えば今までの冒険の話とか」


セシリアさんはリアムさんと顔を見合わせると、直後に噴き出す様に笑い出した。


「ぷっ…あはははは!」

「セシリア、彼が言う内の一つは私達のミスに関してだ。笑い事ではないよ」

「いや…ごめんごめん!笑い事じゃないんだけど…!

ふぅ………いや、アル君ごめんね。後でちゃんとした謝罪もするつもりなんだけど。それよりも、君は自分がどれだけイレギュラーな存在なのか、それを再認識した方がいいよ?」


セシリアさんは目に涙を溜めながら謝罪した。確かに自分でもイレギュラーな存在なのは分かっている。でもそれは僕じゃなくてシオンの方だ。僕はあくまでシオンを召喚したに過ぎない一市民なのだ。


「まぁでも、そうだよね。今日私達が駆けつけた理由に関して、私達はあなたに謝罪しなければならないわ。その理由だけど、半年前までここアルテミスで暗躍してた奴隷販売組織を潰したのが、私達のパーティで、その時に全員捕らえたと思ったんだけど、グリフォンはその残党だったの。

つまり私達の不始末が、今回の誘拐騒動を招いたという事。

あなたを危険に巻き込んでしまってごめんなさい」


そう言って二人は頭を下げようとするが、アルは慌ててそれを制した。


「いやいや、そんな!頭を上げてください!御二人が謝ることはありません!悪いのは間違いなく誘拐犯の方ですよ!

それに、今回の事は恐らくグリフォンと関係なく起こった事だと思います。それに何より、二人は僕の命の恩人です。この半年で二回も命を救われました。僕の方こそ本当にありがとうございました」

「甘いぞアルよ。迷惑料として金貨百枚くらい貰っておいても損はないぞ」

「こらシオン。滅多なこと言っちゃいけません」


アル達の掛け合いに、リアムさんとセシリアさんも笑ってくれた。


「………それにしてもあれから半年。アルフォンス君は見違えたね。あの時は幼さの残る少年という感じもしたが、すっかり頼もしく見える」


リアムさんがいつの間にか持っているグラスを煽りながら、しみじみと言う姿はまるで親戚の叔父さんの様だ。

よく見れば彼の顔はそのグラスに入っている赤ワイン並みに赤い。


「あの時は事故のようなものだったが、セシリアも今ならば一人の男として彼とキスしたいという物ではないかい?」

「ブーッ!リアムさんっ!」

「ちょっとリアム!何言ってんのよ!」

「ぬ!?何の話じゃ!妾は聞いておらぬぞ!口づけじゃと!?アルよ!そこに直れ!」

「セシリアがあんなに顔を赤くしたのは初めて見たからなぁ」

「リアムあなた!気付けばかなり酔ってるじゃない!」

「へぇーエルフがお酒に弱いって本当だったんですね………」

「アルよ!何を誤魔化そうとしておる!キスとはどういう事じゃ!お主、他の女子(おなご)と口づけを交わしたその身で妾と毎晩寝ておるのか!」

「え!?アルフォンス君どういう事!?毎晩寝てるってあなた達一体何をしてるの!?まさか契約を盾に、シオンさんに夜な夜なあんな事やこんな事を…!」

「確かに、契約を盾に(しとね)を共にしておるのう。こやつめ、こんななりをしておっても意外と………大きくての。それにあったかいんじゃ」

「あ…!あったか…アル君!そこに座りなさい!」

「違いますって!確かに同じベッドで寝てるけど、手を握ってるだけですよ!しかもそれはシオンには定期的に魔力を渡す必要があるからで…!シオンも紛らわしい言い方はやめろよ!」

「何!?まりゃ()くを渡す!?ア()フォンス君!もうす()し詳しく教え()くれたまえ!」

「おー!リアムんとセシリアここにいたのかぁ!あれ?リアムん酔ってる?なになに?今日はどんちゃん騒ぎの日ー?」

「てめェ、おい坊主ッ!俺と決闘しろ!」

「クレイさんとイザベラさん!?どうして御二人が!」

「こらアル!まだ話は終わっておらぬぞ!これじゃから童てぃ」

「わー!わー!わー!やめろー!」

「あーなんか凄い良いタイミング?皆楽しそうー!アルフォンス君?心配しないで?セシリアも経験ナシだから」

「イ…イ……イザベラー!」

「やべェ!おい坊主!セシリアを止めるの手伝えッ!」

「セシリアさん落ち着いてー!」


こうして誘拐事件はとりあえずの解決を迎えた。

そしてこの事件をきっかけに、"烈火"の面々は、アルの中で特別な存在となったのであった。

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